音もなく姿を現した二足歩行の羊のような、ベルフェモンとはまた違ったデジモンだ。思わずランカは小さく悲鳴を上げ、憎悪にまみれた瞳が彼女を捉(とら)えた。


「…先に、凛堂ランカを始末しようか」

「ッ!?」

「リロード!ヒョウルモン!」


敵の言葉にコユリはヒョウルモンをリロードした。嫌な汗が流れる。本当はランカの前で戦いたくはなかったのだが、今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。ネネもメルヴァモンをリロードし、臨戦体勢に入る。


「おいおい…まさかメフィスモンがくるとはな」

「コユリ、ここで戦うのは危険よ!まずは奴をデジクオーツへ!」

「うん!…リロード、ラティスモン!」

「咎人の拘束着(ピオレガータ)!」


ヒョウルモンとメルヴァモンが敵を牽制。その隙に無数の鎖がメフィスモンに絡み付き、拘束、動きを封じ込めた。しかし鎖はすぐに軋み、あまり長くは持たないように思える。


「タイムシフト!」


ネネがデジクオーツへと続くゲートを開き、ラティスモンが鎖で縛り上げたメフィスモンと共にそれを潜った。それにネネとメルヴァモンが続く。コユリも一歩足を踏み出したが、ランカに手首を掴まれた。振り返り、向かい合う。


「コユリ、」

「…ごめんね、お母さん。私の所為で…こんなことになって」


初めてと言って良い程、ランカは不安を滲ませていた。それにはコユリも内心驚いたが、母の不安を少しでも和らげたい一心で精一杯笑って魅せた。


「私は大丈夫だよ」

「!」

「お母さんはここで待ってて?すぐに戻って来るから」

「……。絶対に、戻って来なさい。約束よ」

「っ…うん!」


ランカに背中を押されたコユリは力強く頷き、ヒョウルモンと共にデジクオーツへと駆けて行った。知らぬ間に成長していた娘の後ろ姿に、何とも言えぬ物寂しさを感じるランカだった。

コユリとヒョウルモンがデジクオーツの地を踏んだ時にはメフィスモンの拘束は解かれてしまっていた。これ以上の拘束は無意味だと、コユリはラティスモンをクロスローダーに戻した。


「アイツの狙いはコユリだ。となるとベルフェモンの仲間だぞ…どうする?」

「多分今の私達じゃ……」


目の前のメフィスモンがユーリの言っていた別の敵だとするのなら、前回同様攻撃は通用しないだろう。一体どうするべきか思考を巡らせて考えるが、それを遮るようにメフィスモンが攻撃を仕掛けてきた。


「デスクラウド……ッ!」

「っ…ヒョウルモン超進化!」


オーディルモンは攻撃を繰り出して敵のそれにぶつけ、何とか相殺した。その隙にメルヴァモンがメフィスモンに斬撃を食らわせるが、何事もなかったかのようにその場に立っている。


「効いてない……!?」

「やっぱり…!ネネちゃん、あのデジモンは普通のデジモンとは違うらしいの…!」

「!…なら、どうすれば……」


以前はユーリによって難を逃れたが、今はメフィスモンを倒す術が無い。何か策は無いか考えるが、お構いなしにメフィスモンはまた攻撃を繰り出してきた。


「ブラックサバス!」

「!」

「内部侵蝕(デッドデリート)!」


メフィスモンはネネとメルヴァモンには目もくれず、狙うはコユリただひとり。その盾となるようにオーディルモンが彼女の前に立ち、技をぶつける。そして無意味だと理解しつつも槍を振るい、メフィスモンへと突き立てた。


「……愚かな」

「チッ……!」


しかし効く筈はなく。更にメフィスモンは槍を掴み、いとも容易くそれを折ってしまった。オーディルモンは後ろに飛んで距離を取る。


「オーディルモン!大丈夫…!?」

「問題無い、だが得物をやられちまった」

「どうして奴はコユリを狙うの…?操られているようには見えないけど……」

「分からない…けど、これが初めてじゃないの。この前も攻撃の効かない敵に襲われて、」


コユリは簡潔に以前襲われたことをネネに話した。しかし悠長に話している暇は無く、メフィスモンの攻撃は留まることを知らない。


「デスクラウドッ!」

「!」


だが、その攻撃がコユリに届くことは無かった。


「全く、次から次へと……。しつこい奴らだ」

「っ…ユーリくん!」


紅の瞳に映ったのはいつも駆けつけてくれるキリハではなく、白銀の新たな騎士だった。




彼女を魅了する聖騎士



------(15/06/02)------
久々過ぎて口調が迷子……。ちょっとずつでも進めていきたい……。





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