「……綺麗、」


オーディルモンとβ(ヴィータ)ルーツァリモンに守られながらもう一度空に舞い上がり、ユーリを心配そうに見詰めていたコユリからぽつりと溢れた言葉。それはセラフモンに向けられたものだ。


「……何者なんだ、あいつらは」


二体は怪訝そうにユーリとセラフモンの出方を窺(うかが)っている。コユリを助けてくれたものの、本当に味方なのかまだ疑っているのだ。

一方でベルフェモンは空のコユリに狙いを定めているが、ユーリとセラフモンはそれを許さない。


「セラフモン、奴を捕らえろ」

「御心のままに」


セラフモンが翼を羽ばたかせ、身の丈と同じ位の杖を一振りすると、ベルフェモンの動きが完全に止まった。見えない力に逆らおうとするベルフェモンだが、その身体が動くことは無い。


「ユーリ、ベルフェモンへの“裁決”を」

「尊いあの人の命を狙ったことは重罪。奴は…磔刑だ……ッ!」


吐き捨てるような憎悪を孕んだ言葉に反応したセラフモンがまた杖を振るうが早いか。ベルフェモンがその凄まじい力で拘束を解き、コユリではなくユーリへと向かい襲い掛かった。


「ユーリくん…ッ!」


その光景にコユリの悲鳴にも似た声が漏れた。しかしベルフェモンの鋭い爪がユーリを切り裂くことはなく、彼の眼前で止まった。白銀の髪が微かに揺れる。セラフモンがすぐさま再度拘束したのだ。眉ひとつ動かさず冷静を保ったままのユーリの瞳は酷く冷めきっている。


「憐れだな。……セラフモン」

「申し訳ありません」


そう言ってセラフモンが杖を振るうと、ベルフェモンは現れた十字架に磔(はりつけ)になった。それでも抵抗するベルフェモンの咆哮が響き渡るが、もう二度と拘束が解かれることはない。


「あるべき世界に還れ」


セラフモンの六枚全ての翼が羽ばたくと、羽根が弾丸のようにベルフェモンへと向かう。そして一枚一枚が鋭い槍へと形を変え、四方からベルフェモンを貫いた。苦痛からであろう咆哮で空間が震える。そして、消滅した。

オーディルモンによって視界を塞がれたコユリは無情な光景を目の当たりにすることはなかったものの、タイキ達はあまりに呆気ない幕切れに呆然としている。


「…オーディルモン……?どう…なったの…?」

「終わったよ」

「えっ…?」

「嫌になる程、呆気なくな」


視界を解放されたコユリの前にベルフェモンはいなかった。ユーリとセラフモンが佇(たたず)むのみ。ゆっくりと地上に降り立ったコユリは彼の元へ向かう。


「ユーリくん、怪我は……」

「怪我はありませんか?」

「う、ん…おかげさまで」

「貴女が無事で良かった。…だが、あまり油断しない方がいい。“奴等”は何度でも貴女の命を狙ってくる筈だ」


一瞬の間を置いてから、コユリは胸の中で燻(くすぶ)っていた疑問を吐き出した。


「あ…あの、ユーリくん。どうしてベルフェモンは私を……?“奴等”って…?そもそもユーリくんは一体何者で、どうして助けてくれたの……?」


どこか不安そうな表情を浮かべるコユリに対し、ユーリは何も言わずに彼女の前で片膝をつき、静かに右手を取って甲に唇を寄せた。ユーリの行動にコユリは驚いた様子で彼を見る。


「…貴女は何も、知らなくていい」

「ユーリ…くん?」

「僕が貴女の盾になる。だから、ただそこで笑っていてください。愛しています、コユリさん」


二色の視線が交差する。あまり表情を変えることのなかったユーリがふわりと微笑んだ。思わずコユリは息を呑む。そしてユーリはもう一度彼女の甲にキスを落とし、名残惜しそうに彼女から離れた。


「…行くぞ、キマイラモン」

「待って!ユーリくん!」


彼女の声に足を止めることなく、ユーリはキマイラモンと共に去って行った。謎だけを残して消えたユーリは確実に彼女の心を侵蝕しつつあった。




謎を秘めた彼の正体は



------(14/08/27)------
取り合えずユーリにキザな台詞を言わせたかっただけです、はい← 少しはアニメ沿いで書きたい……。





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