目の前のインターホンを押すか押さないか。何も考えずに押せばいいものを、ただそれだけの事で三十分も凛堂邸の前で立ち尽くしているのはキリハだ。

アメリカでの戦闘で気掛かりなことがあり、コユリを心配して帰国したばかりなのだが。何分急な帰国でコユリに連絡していなかったのと、もう遅い時間なので躊躇(ためら)っていたのだ。

結局上げていた腕を下ろして溜め息をひとつ。今日は諦め明日の朝出直すことにしたキリハが凛堂邸に背を向けた時、一台のスポーツカーが彼の横で停まった。暗くて車体の色が見えないが、キリハは鮮やかな赤色だと知っている。そしてその所有者も。


「コユリに用があるんじゃないの?キリハ君」


運転席の窓が下り、顔を覗かせたのはコユリの母、ランカだ。


「ランカさん、お久し振りです」

「久し振り、元気そうね。折角来たんだから泊まっていけば?」

「いえ…もう遅いので今日は出直そうかと」

「そんな遠慮することないのに。泊まる所はあるの?親戚の家?」

「今日はビジネスホテルに泊ま……」

「だったら尚更ウチに泊まっていきなさい!子供がそんな無駄なお金使う必要無いんだから!」


キリハの返答に被せるようにして言ったランカは続けて「車、ガレージに停めてくるからここで待ってて!」と捲し立てるように言い、車をガレージへと動かした。その間キリハは言い返すタイミングが掴めず、結局凛堂邸に足を踏み入れることとなった。


「ただいまーっ、コユリー!お客さんよー!」


玄関から中へと声を張れば、奥の方から「はーい!」と返事があった。それだけでキリハの胸がドキリと高鳴る。そしてパタパタとスリッパの音が大きくなっていき、廊下の角からひょっこりとコユリが顔を出した。


「ッ……!」


ランカの隣に立つキリハを視界に捉えた途端、驚いた様子で目を丸くするコユリ。しかしすぐにぱあっと輝くような笑顔を浮かべ、一気に廊下を駆け出した。


「キリハくんっ!」


そして床を蹴り上げ、スリッパが脱げるのもお構い無しにキリハへ飛び付いた。キリハも綻(ほころ)ぶ口元を隠し切れないまま彼女を抱き止める。


「いつ日本に?帰って来るなら連絡してくれればよかったのに」

「ついさっきだ。急いで戻って来たからな…すまない」

「ううん。…何かあったの?」

「ああ、実は……、」

「コユリ、いつまでもキリハ君を玄関に立たせてたら悪いでしょ?」


またしてもキリハの言葉は遮られ、空気を読んで先に家に入ったランカが廊下の角から顔を出してコユリに言ったのだ。


「はーい。ごめんねキリハくん、上がって上がって」

「ああ、お邪魔します」

「どうぞ…あ!…キリハくん、お帰りなさいっ」

「ただいま、コユリ」


見つめ合い、二人は幸せそうに微笑んだ。




迎えてくれる人がいる



------(14/08/31)------
何だか雑で済みません…。次からはキリハとコユリの激甘ターン!(笑)





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