「もう我慢ならねぇ!噛み殺してやる!」


遂に我慢の限界に達したヒョウルモンがクロスローダーから飛び出し、キリハに襲い掛かろうとしたのだが。すぐさま後を追うように何本もの鎖が現れてヒョウルモンを拘束した。


「ッ…てめぇ、ラティスモン!」

「主(あるじ)との約束、守らないと駄目ですよ」


その鎖はラティスモンのもので、ヒョウルモンはずるずるとクロスローダーの中に引きずり込まれてしまった。


「全く、騒がしいやつ。僕もヒョウルモンを黙らせてくるから。二人も早く休んだ方が良いよ」

「うん、おやすみシキアモン」


去り際キリハに耳打ちしてからクロスローダーへと戻ったシキアモン。彼に耳打ちすることなど一つしか無い為、詳しくは言うまい。


「今考えても答えは出ないし、キリハくんも長旅で疲れてると思うから…今日はもう休もう?」

「…ああ、そうだな」


それからコユリはキリハをゲストルームへと案内した。室内は無駄な物が無く綺麗に整えられている。


「何かあったら自分の家だと思って好きに使ってね。それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ、コユリ」


何かある度に二人で同じベッドで寝ていた為、こうして別々ということに何処か違和感を感じながらもコユリは自室に戻った。先程までクロスローダーから聞こえていたヒョウルモンの騒ぎ声が無くなったところを見ると、シキアモン達が大人しくさせたようだ。

そしてコユリはベッドに入り、ユーリのことを気にかけながら目蓋を閉じた。


「――……ッ!」


完全に眠っていた筈なのだが。コユリは重低音で鳴り響く雷鳴で目を覚ました。いつの間にか雨が降り、雷まで鳴っているようだ。そういえば深夜は雨の予報だったと、コユリは布団を頭まで被りながら思い出した。幾つになっても雷だけは慣れない。キリハの元へ行こうか迷ったが、こんな時間に訪ねるのは迷惑だろうと布団の中で思い止まった。そんな時だ、雨音に混じってノック音が聞こえた。


「…コユリ、起きてるか?」

「!キリハくんっ」


ベッドから起き上がって扉を開ければ、そこにはキリハが立っていた。どうやらキリハも雷鳴で目が覚めたようで、コユリがひとり怯えてるんじゃないかと心配になったらしい。


「ひとりで大丈夫か?」

「えっと、出来れば一緒に居てもらえると…嬉しいな」


服の裾を掴まれながら控え目に言われれば断れる筈もなく。結局二人はコユリのベッドに横になった。すぐ傍でお互いの体温を感じる。オルドゾーンで初めて添い寝したあの時に自分の片想いを自覚したのだとキリハはふと思い出した。だがもうあの時とは違う。


「っ……!」

「大丈夫だ、すぐに止む」


少し大きく鳴った雷に小さく肩を揺らしたコユリをキリハは優しく抱き寄せた。一年前のあの時は頭を撫でることすら出来なかった為、そんなところも変わったひとつだろう。


「んっ…ありがと、キリハくん……」


その温もりに少しずつ落ち着いてきたコユリは安堵しながらゆっくりと目蓋を閉じた。しばらくして、コユリが完全に眠りについたのを見届けたキリハは、静かに彼女の額にキスを落とした。

彼女の寝顔を見ていると、一年前よりも幾分大人びたようにも思える。この先も綺麗に成長していく姿を一番近くで見ていたいと願いながらキリハもようやく眠りについた。



***



早朝。コユリはまだ眠っているが、キリハは既に支度して凛堂邸を後にしようとしていた。元々コユリの身を案じて帰国した訳で、彼女の無事を確認出来た為、もう用は済んだのだ。それにまだまだやるべき事が残っている。日本ばかりには居られない。


「おはよう、キリハ君。もう行っちゃうの?」

「おはようございます。…まだ、仕事が残っているので」


階段を降りてすぐのリビングで鉢合わせしたのは、出勤準備をしていたランカで。キリハの仕事とは時計屋の親父からの依頼のことだ。それに今は襲撃してきた謎の勢力も気に掛かる。彼の言葉にランカは思わず笑みを溢した。


「そんなところまで大悟君そっくり。仕事一筋だったから、何も言わずに朝早くから家を出て。理解はしていたけど、マリアは少し寂しがってたな…」


懐かしそうに言いながら、キリハに生前の大悟の姿を重ね合わせていた。それに加えて良き友であったマリアの姿も。


「だからね、コユリに書き置きでも残してあげて?一言でもいいから」


そこまで言われてしまえば書くしかない。キリハはランカから紙とペンを借りてコユリ宛てに書き残し、彼女の部屋に置いて来た。


「それじゃあ、俺はこれで失礼します。色々とお世話になりました」

「気にしないで、もう此処は貴方の家なんだから」


そう言ってランカはキリハに鍵を手渡した。この家の合鍵だ。驚いた表情を浮かべるキリハに対し、ランカは微笑むばかり。


「いつでも戻って来なさい。無理しちゃ駄目よ?」

「っ…ありがとう、ございます」


第二の母と言っても過言では無いランカの愛を噛み締めながら、キリハは凛堂邸を後にした。




あなたの傍で眠らせて



------(14/09/18)------
最後の鍵の件はコユリにしようかとも思いましたが、やはりここはランカに。キリハには第二の親と帰るべき場所を作ってあげたかったので´ω`





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