あの後キリハはコユリが用意した遅めの夕食を取り、ランカが見繕った着替えを借りて入浴した。そしてようやく二人だけで話が出来るようになった時には日付が変わろうとしていた。 リビングにはまだランカが居る為、コユリの部屋に二人が足を踏み入れると、第三者が彼女のベッドを占領していた。 「やあ、蒼沼キリハ」 「!…シキアモン。ということは、」 「俺達もいるぜ。コユリに妙な真似したら引き裂くぞ」 机に置かれた純白のクロスローダーから聞こえてきたのは、どすの利いたヒョウルモンの声だ。本来であれば外に出て直にキリハと顔を合わせたかったらしいが、自宅内でクロスローダーから出ていいのは人型のシキアモンとラティスモンだけだとコユリが制限したのだ。 「ヒョウルモン達と合流していなかったらと心配していたが…少し安心した」 「?…ねえ、キリハくん。さっき言いかけてたことって……?」 キリハはアメリカでグレイモン達と合流したことや、ハンターではないものの時計屋の親父から依頼を受けて世界各国を飛び回り調査していることを簡潔に話した。そして本題はここからだ。 「アメリカで俺達の攻撃が一切効かないデジモンが現れた。その場はキリノと名乗る女が収めたが…」 「今日、私達も攻撃の効かないデジモンと戦ったの。キリハくんの所にも現れるなんて」 「本当か…!?」 「うん…。私の方はユーリくんって男の子が助けてくれたの」 コユリも今日巻き起こったベルフェモンとの戦闘を話すと、キリハは顎に手を当てて考え込む。 「今分かっていることは、意図は全く掴めんが敵は俺とコユリの命を狙っているということか。キリノとユーリが繋がっている可能性が高い、そして全てを知っている筈だ」 「それに、ユーリくんはまた敵が来るって言ってたし…。何者なんだろう……」 「キリノもだ。…コユリはユーリに心当たりはあるか?」 「ううん…。でも、初めて逢った気がしなかったの。何だかキリハくんに似てたような……」 「俺に?」 コユリはキリハと視線を合わせ、ユーリの姿と重ねる。雰囲気が何処と無く似ていただけだろうか。キリハと離れていた分、無意識の内にキリハと重ね合わせて似ていると錯覚しただけかもしれない。そう考え始めるとコユリは断言することが出来ず、首を傾げた。 「僕は似てると思ったけど?びっくりする程キザな所が特にね」 「俺は気取ってないぞ」 「充分キザ。でもまあ、ユーリは素でやってそうだったけど…」 ユーリの真似をして見せると言い出してシキアモンはベッドから立ち上がり、隣に座っていたコユリの前に片膝をついた。そして彼女の右手を取る。 「こんな感じで手の甲にキスして「貴女の盾になる」「愛しています」なんて言っちゃってさ」 シキアモンは彼女の手を離してまたベッドに座った。それに対しキリハは眉間に皺を寄せて嫌悪感を顕(あら)わにしている。名前しか知らぬ少年に嫉妬しているのだ。だが隙だらけのコユリを責めることはしない。 「気に食わんな」 「…キリハくん?」 唐突に椅子から立ち上がったキリハは、シキアモンと同じようにコユリの前で片膝をついて右手を取った。 「俺は誰にも渡すつもりはないからな。コユリ、愛してる」 「っ……!」 面と向かって囁かれた愛の言葉にコユリは頬を赤らめる。そしてキリハはユーリが残した痕を消すかのように、甲にキスを落とした。 「ほらキザじゃん」なんて思いは空気を読んで言葉にしないことにしたシキアモンだった。 謎に嫉妬をひと摘まみ ------(14/09/03)------ 嫉妬してるから平気で愛してるなんて言っちゃうキリハと、分かりやすい単純な言葉だから理解して照れちゃうコユリでした。……全然中学生らしくない……← |