時計屋のおやじが指差した方向へとひたすら走り続けたコユリ。いつしか住宅街を抜け、オフィス街へとやって来ていた。このデジクオーツと言う空間はDWより人間界に近いようで、荒廃やデータ化を除けば人間界と同じ街並みだ。

(…タギルくんがクロスローダーを持ってた……。なら、タイキくん達はこの事を知ってるの……?)

いくら考えても答えは出ず、いつしか彼女の脚は止まっていた。一旦人間界に戻ってタイキに聞いてみようと思った時、確かにか細く小さな声を聞いた。

(…声…?もしかして、さっきのデジモン……?)

乱れた呼吸を整えながら、導かれるように声のする方へと歩き出した。段々と大きくなっていく声。そしてビルとビルの間にある空き地のような場所に辿り着いた。


「……あっ、」


この場には不釣り合いな鳥籠のような物がぽつんと置かれている。その中からは小さな光が漏れており、コユリはそれに駆け寄った。すると中には妖精によく似たデジモンが。先程見掛けたデジモンはこのデジモンで間違いないだろう。


「…やっぱり、デジモン。どうして鳥籠の中にいるの?」

「…ふぇっ…私はティンカーモン。罠に掛かっちゃったのぉ…ううっ……」

「あっ…怪我して……!」


ティンカーモンの羽根はボロボロになっており、涙ながらに助けてくれと懇願してきた。コユリは小さな扉を開けようとするが頑丈に閉ざされている。


「おや?また会いましたね、コユリさん」

「っ…!…リョウ、マくん……」


鳥籠を持ったまま振り向くと、謎だけを残して去って行ったリョウマがそこにいた。彼の隣にはキャスケットを深く被った少年と、金髪をツインテールにした少女がいる。


「へえ、あいつがリョウマの惚れてる“ヴァルキュリヤ”ねぇ」

「誤解を招く言い方は止めてくれないか。彼女はあくまでも私の憧れの人だ」

「ふーん…。ま、どっちでもいいけどさ」

「あーッ!私が仕掛けた罠!」


(…あの子が仕掛けた罠……。きっとあの二人もリョウマくんと同じ“ハンター”。…きっと、デジモンを“ハント”する人達)


「…貴方達は、どうしてデジモンをハントするの……?」

「……」

「はぁ?どうしてって、ハンターだからに決まってるだろ。ハンターがデジモンをハントしないで一体何をするって言うのさ。それに、こんな面白いゲームは中々無いしね」

「そーよ!それはそうと、あんたが持ってるのは私の罠に掛かった超グッドなデジモンなんだからもう私の物!早く寄越しなさい!」


コユリの問いにリョウマは無言、帽子の少年は鼻で笑い、少女はティンカーモンを渡せと声を上げている。コユリは俯(うつむ)き、悔しそうに歯を食いしばった。コユリが、デジモンを物と言いゲーム感覚でデジモンをハントする彼らを許せる筈もなく。


「……貴女に、この子は渡せない」

「はぁ!?あんた何訳の分かんないこと言っちゃってんの?」

「…デジモンは…物でも、人間の玩具なんかでもない……!」

「っ……!」


コユリのいつもとは違う鋭い紅の瞳に少女は思わずたじろいだ。その時数人の慌ただしい足音が聞こえ、物陰からタイキ達が姿を現した。


「コユリ?!」

「どうしてコユリさんが……!」

「タイキくん!ユウくん!タギルくん!」

「コユリさん!…あっ!テメェらッ!」


タイキとユウの隣にはシャウトモンとダメモンが居り、コユリは懐かしいあまり思わず目を細めた。タギルはリョウマ達を見付け、今には飛び掛かりそうな勢いで睨んでいる。


「ああもう!面倒臭いわね!…オポッサモン!」

「アイサーっ!」

「オポッサモン!超進化!」


桃色のクロスローダーでオポッサモンをチョ・ハッカイモンに超進化させた少女。


「チョ・ハッカイモン、あの女をミンチにしておやり!」

「はっ…?いや、でもっ……」


少女はコユリを指差してチョ・ハッカイモンに命令するが、流石に生身の人間を攻撃するのは気が引けるのだろう。躊躇(ためら)っていると少女に睨まれ身体を強張(こわば)らせる。


「ゆーこと聞かないヤツはグロかわじゃなくてグロよ!早くやっておしまい!」

「はっ、はいスッ!」


チョ・ハッカイモンは炉傑塔釘(ロケットテイハ)を手にじりじりとコユリとの距離を縮めて行く。だがコユリはティンカーモンの入った鳥籠を守るようにして抱き抱えるだけで逃げようとしない。覚悟を決めた瞳でチョ・ハッカイモンを見据えるだけ。


「コユリさんを助けねーと!ガムドラモン!」

「おうよ!行くぜ相棒!」

「待て、タギル」

「ガムドラモンもだ」

「なっ!何言ってんスかタイキさん!」

「どーかしちまったんじゃねーの?!王様!」


コユリを助けようとしたタギルとガムドラモンをタイキとシャウトモンが止めた。何故止められなければならないのかとタギルとガムドラモンは声を揃えて異議を唱える。


「僕達が出て行って、後で文句を言われたら堪りませんからね。タイキさん?」

「ああ、ここは黙って見ていよう」

「二人共何言って……!」

「タギルとガムドラモンも大人しく見てろ。“アイツら”は必ず来る……!」

「アイツらって…。まさか、この前言ってた……!」


タギルがコユリに視線を戻したその時、少女の命令によってチョ・ハッカイモンが炉傑塔釘(ロケットテイハ)を振り翳(かざ)した。

(…私は…絶対に逃げないっ……!)


「チョ・ハッカイモン!」

「打々々魅飲血(だだだみんち)!」


降り下ろされる炉傑塔釘(ロケットテイハ)。コユリは目蓋をぎゅっと閉じた。だが次の瞬間、眩い光が辺りを飲み込んだと思ったら重低音の爆発音が鳴り響いた。それに伴(ともな)って砂塵が舞い、この場にいた全員の視界を奪う。吹き荒れる風の音が煩いが、コユリの耳にははっきりと懐かしい声が聞こえた。


「…ったく、ここは普通逃げるだろ」

「ホントホント」

「そんな所もコユリの長所じゃろうに」

「ふふっ、そうですね」

「いつまで経ってもジェネラルは変わらんな」

「カワラン!カワラン!」

「ッ……!」


その声にコユリは瞬時に目蓋を開けた。漸(ようや)く治まった砂塵の中から現れたのは、一年前共に戦った愛する仲間達だった。


「ピュアグロウ見参!」

「…何言ってんのさ」

「うるせー」




乙女よ、意地を魅せろ



------(12/08/22)------
少し強引な展開……orz 構想通りに全く書けていない(´Д`)

次回から撤退組vsコユリになります(笑) 色々書きたい話があるのでこれからの流れはアニメの時間軸とは少し異なると思われます(´ω`) コユリは無駄に愛されているので、今の所色々あってアイルが一方的に嫌ってます←





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