「凛堂さん、御機嫌よう」

「…御機嫌よう」


放課後、校門を出るコユリの表情は暗い。先日のリョウマとユウのことが頭の中を巡り、コユリは溜め息を吐いた。どちらもキリハに話そうともしたが、心配をかけてはいけないと思ってしまい言えぬまま。幸い今日は仕事は無く、とぼとぼと歩いていると、“何か”の気配を感じた。


「っ……」


その場で立ち止まり辺りを見回すが何も居らず、気の所為だと自分に言い聞かせる。だがやはり“何か”の気配を感じ、第六感を頼りに自宅とは逆方向へと歩き出した。

人気の無い住宅街。あまりにも静か過ぎて少し不気味に感じる。周囲を警戒しながら歩いていると、遠くで“何か”が飛んでいるのを見付けた。ふわふわと淡い光を発しながら飛んでいたそれに、コユリは思わず息を呑んだ。


「っ…デジモン……!」


見間違う筈がない、先程から感じていた気配はそのデジモンだったのだ。コユリは反射的にそのデジモンを追って走り出した。こんな姿を同じ学校の生徒に見られたら「はしたない」と言われてしまうだろうが、今はそんな事を考えている余裕は無い。

(どうして人間界にデジモンが……?!)

それに加えリョウマの意味深な発言が頭を過り、必死に思考を巡らせる。そして答えは出ないまま、デジモンも見失ってしまった。


「っ…どこ……?」


一度その場で立ち止まり、肩で息をしながら辺りをきょろきょろと見回す。すると聞き覚えのある声が聞こえ、そちらへと振り向くとタギルの姿があった。


「行くぜガムドラモン!」

「おう!」


(タギルくん…とデジモン……?!もしかしてタギルくんもリョウマくんと同じ……?)

そう考えながらもコユリはタギルを追った。美しい白銀の髪が揺れる。その内タギルは薄暗い路地裏へと入り込んだ。


「タイムシフトッ!」

「っ……!」


その言葉と共に眩い光がタギルを包み、消えてしまった。リョウマの時と同じような状況だ。あまりの眩しさに思わず目蓋を閉じたコユリだったが、彼女は確かにタギルが真紅のクロスローダーを掲げていたのを捉えていた。

そしてコユリは少し躊躇(ためら)いながらポケットから自身のクロスローダーを取り出した。一年前の決戦後から反応を無くしたそれを見詰め、意を決して一年振りに掲げる。


「タイムシフトっ……!」


その瞬間先程と同じように眩い光に包まれ、目の前に現れたゲートへと駆け出した。そして気が付くと、所々がデータ化している路地裏に立っていた。同じ場所のように見えるがどこか違う。コユリは辺りを見渡した後、見失ってしまったタギルと、飛んでいたデジモンを捜す為に歩き出した。今し方駆け抜けた住宅街だが人の気配が全く無い。


「……ここは、一体」

「ここはデジクオーツ」

「っ……!」


その声に驚きながら振り向くと、そこには杖をついた老人がいた。サングラスの所為で表情を読み取ることは難しい。


「デジ、クオーツ……?」

「そう、人間界とは異なる時間の流れを持つ空間」

「……。…貴方は、何者なんですか……?」

「ただの時計屋だよ。…君が捜していたデジモンなら向こうに行ったぞ。儂としては君にはあまり“ハント”に参加して欲しくないんだがね」

「……私、そんなものに参加する気はありません。失礼します…!」


“ハント”の意味がよく分からないコユリだったが、時計屋のおやじにきっぱりとそう告げ、一度頭を下げてから教えて貰った方向へと駆け出した。




踏み出して駆け出して



------(12/08/22)------
読み返すと何だか似たような描写ばっかりに……orz まあ繋ぎ回なので軽く読み流して下さい← 次回出ますがコユリが見付けたデジモンはティンカーモンです´` 早く撤退組vsコユリを書きたい(^p^)





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