コユリは少年の言葉に安堵した。それは自分でも気付かぬ内に彼が纏う雰囲気に直感的に恐れを抱いたからだ。


「わ、私なんかのファンでいてくれてありがとうございますっ」

「…一年前のバグラモンとの決戦、とても素晴らしかったです」

「ッ……?!」

「どうしてそれを知ってるの、って顔をしてますね」


驚愕のあまり声を失ったコユリに、少年はクスリと笑みを浮かべるだけ。


「我々の中でも貴女は有名な方ですから」

「…き、君は一体……」

「自己紹介がまだでしたね。私は最上リョウマ、“ハンター”です。以後お見知り置きを」

「っ…ハン、ター……?」


最上リョウマと名乗った彼がポケットから取り出したのは、緑色のクロスローダー。彼の手の中にあるそれに、コユリは息を呑んで紅の瞳を見開いた。それも当然だ、クロスローダーは一年前共に戦い抜いたジェネラルしか持っていないとばかり思っていたからだ。


「コレは“貴女達”だけの特権では無くなったということですよ。…それではまた会いましょう」

「あっ…!待って!リョウマくんっ!」


踵を返して人混みに紛れていくリョウマを追うコユリ。彼は路地裏に入って行き、コユリも急いで路地裏に飛び込んだ。だが、そこに彼の姿は無かった。


「っ…一体、どこに……」


そう呟いて、コユリはその場に立ち尽くした。



***



「――…お疲れ様、それじゃあまた撮影の時に」

「はい、お疲れ様でした」


リョウマのことが気掛かりのままビアンカの本社で衣装合わせを終えたコユリは、少し暗い表情で高層ビルを出た。


「コユリさん!」


名前を呼ばれふと顔を上げると、二時間程前に別れたユウが駆け寄って来た。


「えっ…ユウくん?どうしたの?」

「コユリさん一人だとまたさっきみたいに囲まれたりするかもしれないと思って…家まで送らせて下さい!」

「ユウくん…わざわざありがとうっ」


更に聞く所によるとユウはあの後二人と別れ勘だけを頼りに本社を訪れ、ずっと待っていたらしい。二人は少し寄り道をしながらもコユリの自宅へと脚を進め、いつしか辺りは陽が暮れ始めてきた。


「ごめんね?こんな遠くまで送らせちゃって……」

「いえ、気にしないで下さい。僕が好きでやってるだけですから」


「それに、コユリさんとお話し出来て嬉しいです」とユウは嬉しそうに続け、コユリは僅かだが安心した様子を見せた。そんな時、ユウがぴたりと脚を止めた。コユリも彼に釣られて脚を止め、不思議そうに振り向く。彼は俯き、顔には陰が差している。


「ユウくん?」

「…僕、本気でコユリさんが好きなんです。僕じゃ、ダメですか……?」

「……ユウ…くん、」


真っ直ぐ投げ掛けられた問と薄紫の視線にコユリは思わず視線を逸(そ)らし、何と答えるのが最善なのかと思考を巡らせる。DWにいる間に癖になってしまったのか、無意識の内に服の下にあるペンダントと指輪を上から握り締めた。


「……ごめんね、ユウくんのことは好きだけど…やっぱり友達としてなの。それに…私にはもう、キリハくんがいるから……。本当に、ごめんね」


「ここまで送ってくれてありがとう」と続け、気不味さのあまりこの場から逃げるようにコユリは小走りで去ってしまった。ユウは目頭が熱くなるのを感じながら、嘲笑を浮かべた。


「…あーあ、やっぱりフラれちゃったかぁ……」


(…キリハさん相手に、勝ち目なんかある訳無いのに……)

目尻に溜まった雫を手で拭いながら、一人帰路についた。




投げ掛けられた謎と愛



------(12/08/20)------
自分で言うのもなんですが、ユウが切な過ぎますね(( 次回からピュアグロウ再結成に向けて進んでいきます(´ω`)





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