あれから日本に帰国したコユリの生活は今まで通りに戻っていた。それでも以前よりどこか活き活きとしている。そんなコユリは休日にタイキに誘われてとある公園へと脚を運んでいた。ストリートバスケの試合があるそうで、先日約束した通り応援に来たのだ。コートに着いた時には既に試合が始まっており、コートを囲んでいる沢山の少女達は黄色い声でユウを応援している。

(タイキくんの言ってた通りユウくん凄い人気……)

フェンスの扉を静かに開けて中に入り、気休め程度に少女達から少し離れて観戦する。中々白熱した試合で、タイキとユウはコユリが来た事にも気付いていない。ボールを目で追いながら静かに観戦していると、パスを受けたユウと目が合った。


「ッ!」


驚いたように見開かれた薄紫の瞳。一方のコユリは呑気に笑顔で手を振る。するとユウは一気にコートを駆け抜け、華麗にゴールを決めた。沸き上がる歓声に掻き消されながらもコユリは笑顔で拍手を送る。そうしているとタイキもコユリに気が付いたようだが試合中の為軽く右手を上げるだけ。それでもコユリは同じ様に笑顔で手を振った。

白熱した試合はクロスハートが十七点差を付けて勝利した。すぐ帰らずに残っている少女達はその手にタオルや飲み物を用意してユウに渡すチャンスを窺(うかが)っている。だがユウは彼女達には目も呉れず、コユリの元へ一直線。


「コユリさん!お久し振りです!」

「久し振り、ユウくん。試合お疲れ様っ!」


少女達から注がれる嫉妬混じりの視線を痛い程感じるが、馴れたもので一切動じない。二人がにこやかに会話をする中、一人の少女が控え目にコユリに声をかけた。


「…あ、あのっ!モデルの凛堂コユリさん…ですよね……?」

「そう…ですけど」


コユリが何気無く応えると、少女は頬を赤らめて「きゃあっ」と小さく悲鳴を上げた。


「私、ファンなんです!サインして下さいっ!」

「あ、はい、良いですよ」


少女の要望に笑顔で応え、差し出されたノートとペンでサインを書く。と言ってもサインはマネージャーから指定されたものだ。そのサインを切っ掛けに、周りにいた少女達がざわつきだした。


「えっ…本物……?!」

「顔ちっちゃーい」

「可愛いーっ!」

「……不味いな、」


その様子にタイキは呟き、ベンチに置いていた自身とユウの鞄を手に取った。その行動にタギルは首を傾げている。


「そんなに慌ててどうしたんスか?タイキさん」

「話は後だ……ユウ!コユリを連れてここを離れるぞ!」

「は、はいっ!…コユリさん!」

「えっ?」


そう言って一気に駆け出したタイキをタギルが追い掛ける。ユウは少女達に囲まれ始めたコユリの手を取り、タイキの後を追う。それから暫(しばら)く走り、公園から少し離れた場所で漸(ようや)く立ち止まった。コユリは息を整えながら三人に礼を言う。


「あ、ありがとうっ……。私一人じゃずっとあのままだったよ」

「少しは自分が芸能人だってことを自覚しろよ?」

「う、うん…これからは気を付ける」

「タイキさん、この人は……?」


タギルは一度コユリに視線をやった後、タイキにそう言いながら視線を向けた。


「前に一度話した……、」

「凛堂コユリです。初めまして、えっと…タギルくん?」

「……はっ、はいっ!俺、明石タギル!タイキさんの後輩です!」


タイキからのフリに、タギルと視線を合わせてにっこりと微笑んだコユリ。彼女の笑みに見惚れてしまい、反応が少し遅れたタギルをユウは見逃さなかった。


「……タギル、コユリさんに見惚れてただろ」

「なっ…んなワケねーだろッ!た、ただちょっとぼーっとしてただけだ!」

「どうだか」

「止めろよ二人共、コユリの前だぞ」


タイキが今にも喧嘩しそうなユウとタギルを宥(なだ)めると、二人ははっと思い出したように口を噤(つぐ)んだ。そんな光景でもコユリは微笑ましそうにしている。


「ふふっ、三人共仲が良いんだね。…あっ、そろそろいかなくちゃ」

「用事でもあるのか?」

「うん、ちょっと衣装合わせに」

「えっ!コユリさんもう帰っちゃうんですか?!」

「ごめんね、ユウくん」


ユウの言葉にコユリは眉尻を下げて申し訳なさそうに言った。時間も押し迫っていた為、コユリはまた会う約束をし手短に言葉を交わして三人とその場で別れた。彼女が行ってしまった後、タイキのクロスローダーからシャウトモンが声を上げた。


「良いのかよ、タイキ。コユリにハントの事話さなくて」

「コユリも忙しい時期だろうし、もう少し様子を見てみるさ。…出来る事なら何も知らせずに平和な毎日を送って欲しいんだけどな」

「た、タイキさんっ!コユリさんもクロスローダー持ってるんスか?!」


タイキとシャウトモンの会話を聞いたタギルは驚きを隠せずにいる。おっとりとして上品そうなコユリがクロスローダーを持って戦うイメージが全く湧かないようで。


「ああ、前にも言ったと思うけど、コユリは一年前の決戦で一緒に戦った俺達の仲間だ」

「しかも凄く強いんだよ、コユリさん。タギルなんて一撃でやられるだろうね」

「なんだと!俺とガムドラモンはそんなに弱くねぇ!」


ユウの言葉にムキになるタギルにタイキは苦笑いを浮かべる。言葉には出さないが、今のタギルとガムドラモンはコユリに手も足も出ないだろうと思っていた。


「けどよ、コユリは良くても“アイツら”が黙っちゃいないぜ?」

「…そうだな」

「そうだね、」

「アイツら?」


自分だけが話に置いてかれているとタギルが騒ぎ出すまで後三分。

その頃コユリは人通りの多い通りを歩いていた。人の合間を縫うようにしてカツカツとサンダルのヒールを鳴らしながら脚を進める。そんな時、真向かいから歩いて来た銀髪の少年がぴたりと脚を止めた。


「凛堂コユリさん、ですね?」

「…えっ……?」


その少年から突然名前を呼ばれ、思わず脚が止まる。エメラルドグリーンの瞳と視線がぶつかり合うと、彼は口許に微笑を浮かべた。


「私、貴女のファンなんです」




動き始めた運命の歯車



------(12/08/19)------
よ、四ヶ月振り…((゚Д゚;))ずっと書きかけのままだったのを漸く書き上げることが出来ました。最後の少年は言わずもがな“彼”ですね(笑)





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