先日タイキと再会してから、コユリの心は晴れずにいた。と言うのも、彼との会話の中でキリハが出て来た事にある。

キリハとは出来る限りメールを続け、時間が合う時には電話もしている。だが、留学してから一度も会っていない。

その為流石のコユリも彼に恋い焦がれ、余り眠れぬ日々を過ごしていた。溜め息ばかりが口から漏れ、授業も殆ど頭に入らない。



「――…さん、凛堂さん」

「っ…はい!」

「上の空とはいけませんね」

「すみません……、」

「では、五十四ページから六十一ページまでの音読をお願いします」

「……はい、」



コユリは英語の教科書を持って立ち上がり、指定されたページの音読を始めた。担任よりも流暢な発音に、クラス中が惚れ惚れしたように彼女を見ている。

そして八ページにも及ぶ長文を物ともせずに読み切り、静かに腰を下ろした。



「素晴らしいですね。では次に……」

「……はあ、」



コユリはまた頬杖を付いて溜め息を吐き出した。

授業が終わり、彼女の元には数名のクラスメイトが近寄って来た。



「珍しいですわね、凛堂さんが立たされるなんて」

「何かありましたの?」

「もしや体調が優れないのでは……!」

「だ、大丈夫だからっ!少し考え事をしていただけで……」

「なら良いのですが……」



心配そうにしているクラスメイトに、コユリは大丈夫だと笑顔で応えた。この話はそこで終わり、又しても上の空になりながら放課後まで過ごした。



「凛堂さん、御機嫌よう」

「ご、御機嫌よう……」



放課後の校門前。やはりこの挨拶だけは慣れないとコユリは思いながら、ある事を決心して携帯を取り出した。発信先は出るか分からない父、ツバキだ。





***





人でごった返す空港、そこにスーツケースを持ったコユリがいた。ここは日本ではなく、アメリカの空港だ。

あの時ツバキに連絡したのは、アメリカに来る許可を取るためだった。ツバキは少し心配しながらも承諾し、飛行機の手配をしてくれた。

心配と言うのも、以前アメリカに来た際に誘拐されてしまった事にある。その為今回はツバキの秘書兼ボディーガードがコユリに付いた。



「ツバキ様のボディーガードの笹原と申します」

「よ、宜しくお願いします」

「この笹原、命に代えても御守り致します。コユリ様、お荷物を此方に。…では参りましょうか」

「はいっ!」



少し緊張気味のコユリを乗せた車は、キリハの住むマンションへとやって来た。このマンションはツバキの元で働く日本人専用の社員寮らしく、中の造りも日本人が使いやすいようになっているとの事。



「――…此方が部屋の合鍵になります」

「分かりました」

「何かありましたらお電話下さい」

「ありがとうございましたっ!」



笹原はコユリが完全に部屋に入ったのを確認してから踵を返して戻って行く。

コユリは一足も靴が出ていない玄関でサンダルを脱ぎ、端に寄せて綺麗に並べ置いた。この時間キリハは学校に通っている為、部屋は静まり返っている。

廊下の先、真正面にある扉を開けるとリビングだった。余り物が置かれていない部屋。

スーツケースをソファーの横に置き、キリハが帰って来るまでどうしようかとソファーに腰を下ろした。ふと視線を前に向けると、以前二人で撮った写真が飾られており、無意識に口許が綻(ほころ)んだ。



「……良しっ、」



キリハの帰宅まで家事をする事に決め、手始めに洗濯から始めた。案の定洗濯籠には洗濯物が入れっぱなしになっており、忙しい日々を物語っている。

洗濯を終え、すぐに夕飯の買い出しをして仕度に取り掛かる。手際良く一通り熟(こな)した後で、掃除機掛けがまだな事に気が付き、急いで掃除機を掛け始めた。



「――…失礼しまーす」



そう言って遠慮がちに入ったのはキリハの自室だ。懐かしい彼の匂いが鼻を掠(かす)める。

丁寧に掃除機を掛け終えた所で大きな欠伸を一つ。



「…良いよね、少し位」



コユリは呟くように言いながらキリハのベッドに寝転がった。時差ボケが治っておらず、眠たくてしかたないのだ。

笹原から聞いた限り、キリハが帰って来るまでは後二時間はある。彼が帰って来るまでに起きれば大丈夫だと頭の隅で考えながら眠りについた。





恋い焦がれて





------(12/03/16)------
何か雑ですみません……orz

コユリが通っている学校はお嬢様ばかりが通う女学院です、はい← 挨拶は「御機嫌よう」(笑)

次回は二人のターン!((蹴 その後はリョウマを出して、一年組と絡ませて……大変です(´ω`;)





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