最終決戦から早二ヶ月。やっと想いが通じあったコユリとキリハは、二人の時間が少ないながらも幸せな日々を過ごしていた。 ある休日の夜、コユリの携帯が鳴った。画面にはキリハの名前が表示されている。 「もしもし?」 『コユリか?俺だ』 「どうしたの?」 『急で悪いんだが、明日空いてるか?』 「え?うん、空いてるけど……」 『…実は、母さんの命日なんだ。墓参りに付き合ってくれると嬉しいんだが……』 キリハの母、蒼沼マリアは彼が幼い頃に事故で亡くなっている。グラビモンとの戦いでその事を知っているコユリは少し悲しげな表情を浮かべながらも承諾した。 「…うん、大丈夫だよ」 『急に誘って済まない。……二人にコユリを、しょ、紹介したくてだな……』 「……!」 気恥ずかしくなったのか、キリハは吃(ども)りながら言った。電話口の向こうで照れているキリハの姿が容易に想像出来たコユリは静かに微笑んだ。 「私も一度ご挨拶に行きたかったから誘ってくれてありがとう」 『そっ、そうか…。じゃあ、十時頃家まで迎えに行く』 それから何度か言葉を交わして通話を終えた。 コユリは立ち上がってクローゼットを開ける。手にしたのは控え目な印象のワンピース。墓参りに行くならば派手でない方が良いと思ったからだ。それを壁に掛け、明日の支度をしてから眠りについた。 翌日、キリハは予告通り十時にコユリの家を訪ねた。 「おはよう、キリハくんっ!」 「ああ、おはよう」 昨夜用意したワンピースに身を包み、長い白銀の髪を後ろで一つに束ねたコユリが門扉(もんぴ)を開けて出て来た。 そんな彼女をペットのアルボが追い掛けて来たが、キリハを視界に捉(とら)えた瞬間、威嚇をして吠え始めた。 「……」 「こら!駄目でしょアルボ!……ごめんね、キリハくん」 「…いや、構わない」 少なからずショックを受けているキリハ。最終決戦後、初めてアルボに会った時からキリハは分かりやすい程嫌われており、今も懐く気配は微塵も無い。そして二人の姿が見えなくなるまでアルボは吠え続けていた。 マリアの好きだったと言う花を買い、霊園へとやって来た。そんな時、コユリが駐車場から出て行った一台の有名な高級車を立ち止まって瞳で追い掛けた。 「あの車がどうかしたのか?」 「…えっ、あ、ごめんね。あの車、お父さんが仕事の時に乗ってるのと同じだったから…つい」 「……そうか」 どちらからともなく歩き出し、大悟とマリアの眠る墓へとやって来た。するとそこには既に花束が手向けられており、キリハは眉間に皺を寄せる。 「今年もか……、」 「…今年も?」 「ああ、毎年俺が来る前に誰かが来てるんだ。親父の命日にも、同じ花を手向けてな」 コユリはしゃがんで両腕に抱えていた花束をその隣に静かに置いた。 「……きっとこの人は、大悟さんとマリアさん、そしてキリハくんに謝ってるんだと思うよ」 「どうしてそう言えるんだ?」 「この花はカンパニュラ。…釣り鐘草って言えば分かるかな?」 「ああ、それなら聞いた事あるな」 「…花言葉は、後悔。毎年律儀に手向けているのなら、謝罪の心があるんだと思う」 その言葉に、キリハは何も言わずにただカンパニュラの花束を見詰めるだけ。やはり思うところがあるのだろう。それを感じ取ったコユリは何も言わずに静かに手を合わせた。 二人の間には暫(しばら)く沈黙が続いたが、重苦しいものではない。 「――…そろそろ帰るか」 「キリハくんはもう大丈夫なの?」 「ああ、伝えたかった事は伝えたからな」 「…そっか、」 帰りに何処か寄って行こうかと話していた時、キリハが思い出したように言った。 「……コユリ」 「うん?」 「お前の親父さんはいつ日本に戻って来るんだ?」 「え?お父さん?…ちょっと待っててね……」 コユリはそう言いながら携帯を取り出して受信メールとスケジュール帳を確認する。 「……あ、もう帰国してるかも。でも家に帰って来るのは来週の日曜日位かな」 「…悪かったな、変な事を聞いて」 「ううん、構わないよ」 キリハには少し気になる点があった。駐車場から出て行った車とコユリの言葉、そしてカンパニュラの花束。 それを調べる為、キリハは確証も無いままコユリの父が帰って来ているとされる日曜日にもう一度彼女の自宅を訪れていた。 チャイムを鳴らすと、インターホンからはノイズ混じりの男性の声が返事をし、玄関が開く。 そこから出てきたのはコユリと同じ白銀の髪に黄色の瞳を持った、長身の男性が現れた。眼鏡の奥から少し驚きの色を浮かべた瞳がキリハを捉(とら)える。 「おや、君は……」 「……初めまして、凛堂ツバキさん」 止まらない運命 ------(12/03/05)------ 次回はコユリの父、ツバキとキリハの話になります。キリハの今置かれている状況などは全て私の妄想なのでご了承下さい。そしてキリハが敬語……別人間違いなし!← |