今までの大冒険は夢だったのではないかと疑いたくなる程街はいつも通り廻り続けている。夏の熱に浮かされていただけなのかもしれない。

だがコユリの隣にはキリハが、キリハの隣にはコユリが確かに存在している。DWに導かれなければ二人が出逢う事などなかっただろう。

バグラモンとの永きに渡る死闘に終止符が打たれ、共に歩んで来た仲間達と涙を堪えながら別れを告げた。その場でタイキ達とも別れた訳だが、キリハがコユリを家まで送ると言い、彼女も珍しくそれに甘えた。

そしてコユリとキリハは、彼女の自宅までの帰路をどちらからともなくゆっくりと歩いている。



「今思えば、あっと言う間だったね」

「そうだな」

「バグラモンを倒して、世界が救われて……。嬉しい筈なのに、少し…悲しいかな」



彼女の悲しい、は大切な仲間達と離れ離れになってしまう事が悲しいと言う意味だ。



「…ねえ、キリハくん」

「何だ?」

「…夢じゃ、無いよね?」

「ああ、夢なんかじゃ無い」



出来るだけゆっくりとした速さで歩き、特に用も無いのに寄り道をしていた為、いつしか辺りはオレンジ色に染まり出していた。

ゆっくりと歩くのも、寄り道をするのも、お互い離れたくないのだ。名残惜しくて仕方が無い、そんな感情が二人の胸の中で渦巻いている。

だが別れの時は訪れ、彼女の自宅に着いてしまった。



「ありがとう、わざわざ送ってくれて」

「いや、気にするな。……じゃあな、コユリ」



キリハはそれだけ告げ、踵(きびす)を返して今歩いて来た道を戻って行く。彼のその後ろ姿に、コユリは胸が痛んだ。これから先、二度と会えなくなるのではないかとまで考えてしまう。

脳裏にキリハとの思い出が幾つも映し出されていく。嬉しい時も悲しい時も傍にいて、孤独から救い上げてくれた。

そしていつしか自分にとって掛け替えのない存在となっていた事に漸(ようや)く気が付いた。

――…ああ、そっか…私は……。



「キリハくん!」

「ッ!」



コユリはキリハを呼び止めたのと同時に彼へと一気に駆け出した。そして少し驚いた様子で振り返ったキリハの胸に思い切り飛び込んだ。突然の事に困惑するキリハ。



「ど、どうしたんだ?何か……」

「私、キリハくんの事が好き!……みたい、」

「ッ!?」



コユリからの突然の告白を理解したキリハの頬は次第に赤みを帯びていく。



「あっあのね、キリハくんの事を考えると胸がきゅんって苦しくなるの。これって好きって事で……」



必死に自分の感情を伝えようとするコユリをキリハが抱き竦(すく)めた。



「……それは、あの時の返事と取って良いんだよな?」

「…うん」

「…そうか……」



呟くように言ったキリハは真っ赤に染まった顔をコユリには見せたくないと、彼女の顔を己の胸板に押し付けるように強く抱き締めた。



「キリハくん?」

「っ…見るな!…お前に、見せれる顔をしていない…」

「……大丈夫だよ。多分それは、夕陽の所為だから」



コユリは顔を上げて微笑むと、キリハは恥ずかしそうに視線を逸(そ)らした。視線が泳ぐキリハの姿にコユリはクスリと笑う。



「っ…わ、笑うな!」

「だって、キリハくん可愛いんだもん」

「かわっ……!?っ…からかうな!」

「ふふっ、ごめんね」



ばつが悪そうにしていたキリハも、コユリの笑みに釣られて口角が緩んだ。



「あっ、そうだ。今日家で晩御飯食べていかない?」

「っ…良い、のか……?」

「うんっ!だって、良く考えたら私キリハくんの事何も知らないから。好きな物に嫌いな物……あ、誕生日もお祝いしたいから誕生日も!」



DWでずっと行動を共にしていたにも関わらず、二人はお互いの事を何も知らないのだ。自分の事を詳しく話した事も無かった為、今からお互いを知っていきたいとコユリは言う。



「…そうだな、俺も聞きたい事が山程ある」

「良かったっ!」



コユリは嬉しそうに笑みを浮かべながらキリハの手を取った。



「っ……!」

「今日はキリハくんの好きな物を作ろうと思うから、買い出しに付き合って欲しいんだけど……」

「ああ、勿論だ」



そう応えながら、キリハも彼女の小さな手を優しく握った。



「腕に縒(よ)りをかけて作るよ!」

「フッ…期待してるぞ?」





漸く実ったその想い





------(12/03/04)------
初恋は叶わないなんて聞きますけど、キリハの初恋は漸く実りましたね(*´ω`*)

第三期ではコユリ争奪戦にリョウマが加わり、更に白熱すると思います(笑)





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