気が付くとキリハは暗闇の中に立っていた。辺りを見回しても瞳には何も映り込まない。



「っ…コユリは何処だ……?」



そんな闇の中で必死にコユリを捜していると、目の前に一筋の光が差した。躊躇(ためら)いながらもその光へ歩み寄ると、一瞬にして周りの風景が変わった。

ビルの最上階にある、夜景が綺麗な高級レストラン。そこで食事を楽しんでいる客は煌びやかな衣装に身を包んでいる。

これはコユリの記憶らしく、キリハの前で淡々と時が流れていく。

和やかな雰囲気の店内で、一人寂しそうにテーブルにつく少女を見付けた。



「…コユリ、なのか……?」



白銀の髪に大きな紅の瞳、正しく幼い頃のコユリだ。

テーブルの上には三人分の食事と、ケーキがワンホール置かれている。蝋燭が八本、チョコレートのプレートには"お誕生日おめでとう"の文字。

その事柄から、これがコユリの八歳の誕生日の記憶であることを読み取った。だが自分の誕生日だと言うのに彼女は浮かない顔をしている。

向かいの二席には大きな熊の縫いぐるみと、丁寧にラッピングされた箱がいくつも積み上げられている。

出入口から声が聞こえてくる度にコユリは期待した表情(かお)でそちらを向くが、またすぐに暗くなってしまう。

――…両親が来るのを待っているのか……?

キリハは思考を巡らせながらも、目の前の光景を見つめるだけ。

時計の長針が四周しても尚、両親が来る気配は無い。そしてコユリはテーブルに並んだ食事に一度も手をつける事も無く、静かに席を立ってレストランを出て行ってしまった。



「コユリッ……!」



小さ過ぎる彼女の背中に手を伸ばすが空を掴むだけ。そしてその瞬間、また暗闇へと飲み込まれてしまった。

だが、視線の先には膝を抱えて蹲(うずくま)るコユリの背中があった。キリハが探していた"今"のコユリだ。



「……コユリ、」

「っ……キリハ、くん」



声をかけると彼女の肩が微かに揺れた。だが、キリハの方を振り向く事は無い。



「……私ね、分かってたよ…二人共仕事で来れないって事ぐらい……。なのに、もしかしたらって…期待してた。…馬鹿らしいよね、」



自嘲するような声色で話すコユリに、キリハは辛そうに眉間に皺を寄せた。そんな彼の脳裏にはデクリアモンが発した言葉が反響した。

――…"大切な仲間"の孤独にも気付いていなかったお前達が仲間面とはな

――…孤独……か、



「…デクリアモンは俺達が倒した、だから…戻って来い」



するとコユリは首を横に振り、キリハ達の元に戻る事を拒んだ。



「…私の所為で、皆に迷惑かけたから……だから……」

「会わせる顔が無い、か?」



今度は縦に首を振ったコユリ。彼女が語った言葉は先程ネネが言っていた事と同じで。

――…ネネの推測が当たったな……。



「…ねえ、キリハくん。…私ね…怖いの」

「怖い……?」

「…うん。馬鹿らしい話なんだけどね……?」



そう言って釘を刺してから、コユリは物悲しそうに語り始めた。



「…いつか皆に見放されるんじゃないかって……」

「俺達が、コユリをか?」

「……本当に馬鹿らしいでしょ?…そんな事、ある訳無いのに……」



コユリは周囲から飽きられ見限られる事を何よりも恐れていた。それでもそんな戯れ言はDWに来て忘れる事が出来た。

だがデクリアモンは身体を乗っ取っていた間、お前は結局孤独なんだと囁き続けており、それによって思い出したコユリは塞ぎ込んでしまったのだ。

キリハは悩んでいた。今一番コユリに掛けるべき言葉は何なのかと。だが言葉より先に身体が勝手に動いていた。

コユリに歩み寄り、片膝を着いた状態で彼女の首に腕を回して優しく抱き締めた。



「ッ……!」

「…グラビモンと戦った時、お前が俺を裏切らないと言ってくれたのは嬉しかった」

「……キリハ、くん」

「俺は何があってもお前を見放さない…絶対にだ……!」



力強いキリハの言葉に紅の瞳が揺らいだ。



「…だから、戻って来い。全て諦めて自分から独りになろうとするな……」

「っ……、」



漸(ようや)く振り向いたコユリの頬は涙で濡れていた。目尻に溜まっている雫を拭ったキリハは立ち上がり、彼女に手を差し伸べる。



「帰るぞ、アイツらが待ってる」

「…私、いても良いの……?」

「フッ…愚問だな。お前がいないと何も始まらん」



コユリは恐る恐る手を伸ばした。





***





コユリとキリハはほぼ同時に目を覚まして飛び起きた。キリハは隣で同じように飛び起きたコユリの姿を視界に捉(とら)えた瞬間、反射的に彼女の身体を強く抱き締めた。



「っ…キリハ、くん……痛いよっ……」

「コユリ……無事で良かった」



だが次の瞬間、彼はネネによってコユリから引き剥がされてしまった。



「っ!ネネ!」

「コユリ!ごめんなさい、私の所為でこんな事に……!」

「ネネちゃんは悪くないよ!私がクリスタルに触ったのがいけなかったんだし……」



ネネ達に揉みくちゃにされているコユリだが、彼女の表情はいつも以上に輝いている。力を使い過ぎて小さくなってしまったハクシンモンは、それを見届けてからXローダーへと戻った。



「……坊主」

「なんだ」

「……あ、ありがとよ。コユリを救い上げてくれて」

「…フン、当然の事をしたまでだ。……ヒョウルモン、約束通り名前で呼んでくれるんだよな?」

「っ……き、きり…あぁああ!駄目だ駄目だ!テメェは坊主で充分なんだよ!」

「何だとッ!」



いつものように始まった二人の口喧嘩を止めるのはラティスモンとメルヴァモンだ。それに苦笑いを浮かべたタイキは、視線をコユリへと戻した。



「なあ、コユリ。こんな時は何か言う事があるんじゃないか?」

「…迷惑かけてご……」

「ああ、そうじゃなくて。"帰って来たら"言う事さ」



タイキの言葉にきょとんとするコユリだったが、少し躊躇(ためら)いながら言葉を発した。



「…た…ただいまっ、」

「「お帰り、コユリっ!」」





望まれた光





------(12/02/25)------
本当はもっと掘り下げて書きたかったのですが、私の力不足でややこしくなってしまったので、かなり端折りましたorz

次回からアニメに戻して進んで行きます(・ω・´)

因みにこの回のイメソンは、ボカロの"Marble Bright"だったり……(´ω`)





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