外の戦闘により上部がほぼ壊滅している城の最上階、キリハとデクリアモンはそこで刀を交えていた。広間ではソリフィアモンとムルムクスモンの戦闘が激しく、目の前の敵だけに集中出来ないからだ。 キリハは持ち慣れていない刀に苦戦しながらもデクリアモン目掛けて刀を降り下ろすが、軽々と避けられてしまう。一方のデクリアモンは、己の影で作り出した刀で反撃していく。 「お前の躊躇(ためら)いが見えるぞ!」 「ッ……!」 デクリアモンの攻撃を避けたキリハの脳裏には、出陣前にハクシンモンに言われた言葉が反覆していた。 ――…デクリアモンと言えども身体はコユリ。下手に傷を付ければコユリの傷となってしまうからの。……一撃じゃ。一撃で核を破壊するのじゃぞ。 一瞬の隙を作ってしまったキリハは、デクリアモンの刀を顔面すれすれで避けた。刃が彼の前髪を掠(かす)り、切れた数本の金髪が宙に舞う。 「やはり口先だけか」 「っ…貴様を倒してコユリを救い出す!絶対にだ!」 「そんな事お前に出来る筈が……ッ!」 デクリアモンの言葉は爆発音に呑み込まれた。上空から予期せぬ攻撃を受けたのだ。砂塵が舞う中顔を上げると、そこにはグリフォモン部隊と戦闘中のジェットメルヴァモンの姿があった。 「何故ジェットメルヴァモンが……!」 「余所見とは随分余裕だなッ!」 一気に間合いを詰めたキリハが上空に気を取られていたデクリアモンを押し倒した。馬乗りになって刀を振り被るが、その手は震えており中々降り下ろす事が出来ない。 そんな彼の鼓膜を揺らしたのは、今一番欲している声だった。 「……キリハくん、止めてっ!」 「コユリッ……?!」 だがコユリの声はデクリアモンが発したもので。突然の声にキリハの張り詰めていた糸が一瞬緩んだ。 その隙を突いたデクリアモンが肘でキリハの脇腹を思い切り殴り、彼の下から抜け出す。 キリハは痛む脇腹を片手で押さえながら、地面に突き立てた刀を使ってゆっくりと体勢を整える。 その隙にデクリアモンが影を動かし、キリハの左肩を鋭い影で突き刺した。 「ッ?!う…あっ……!」 左肩に走る激痛にキリハは顔を歪めながらそこを押さえる姿に、デクリアモンは歪んだ笑みを浮かべた。 「そんな事で死ぬ程人間は脆くはないだろう?」 キリハへと歩み寄りながら、殺さないように急所を外していたぶっていく。また一歩踏み出そうとしたデクリアモンの足元に、銃声と共に銃弾が減り込んだ。 「…!……チッ!」 またしても戦闘に介入され、苛立ちを募らせながら弾の飛んできた方へ視線を遣(や)ると、拳銃を構えたソリフィアモンがそこにいた。 それは部下であるムルムクスモンが倒されたと言う事に繋がる。瞬時にそれを把握したデクリアモンは、怒りに任せて影を操り、ソリフィアモンに襲い掛かった。 「っ……!止めを刺せ!キリハッ!」 ソリフィアモンの言葉に押されたキリハは傷付いた身体で刀を構えて走り出し、デクリアモンの核目掛けてそれを突き立てた。刀はコユリの身体を貫く。 キリハには核を破壊した感触があった。まるで硝子が割れるような音が聞こえ、恐る恐る刀を抜く。 切り口からは鮮血ではなく、淀(よど)んだ色の影が溢れ出てきた。デクリアモンは傷口を押さえるが、もうどうする事も出来ない。 「っ…本当に、このガキごと刺すとはな……。だが、もう手遅れだ……」 「ッ!どう言う意味だ!」 デクリアモンはその問いには応えずに不敵な笑みを浮かべた。次の瞬間には影が粒子となり消え、コユリの髪色は白銀へと戻っていく。それはデクリアモンを倒したと言う事だ。 コユリの身体は力無く倒れ、キリハは刀を投げ捨てて彼女を抱き止めた。 「コユリッ……!」 キリハの呼び掛けにコユリは反応を示さない。 デジクロスの解けたヒョウルモン達が二人の元に駆け付け、衛兵を全て倒したタイキ達もそれに続く。 「キリハ!」 「キリハ君!」 「坊主!コユリは……!」 全く反応を示さないコユリはまるで精密に作られた人形のよう。キリハは諦めずに彼女の名前を呼び続けている。 その光景に一同は言葉を失った。最悪の事態が脳裏を過ったのだ。ネネは膝から崩れ落ち、その瞳には涙が溜まっている。それでもキリハが傷付いている事に気付いたキュートモンが彼に駆け寄って傷を治していく。 「…目を覚ましてくれ、コユリ……。お前まで…俺を独りにするのか…?…俺は…どうしたら良い……?」 喉の奥から絞り出すように発した言葉はコユリに届きはしない。蒼の瞳から零れた雫は彼女の頬を濡らす。 コユリが助かる術は無いのかと、一人、また一人と縋(すが)るような眼差しを頼みの綱であるハクシンモンへ向けていく。 ハクシンモンの額の瞳がギョロリと動き、閉じていた目蓋をゆっくりと上げた。 「……確証は無いが、コユリは自分自身の意思で目覚めたがらないのかもしれん」 「っ…それ、どう言う意味だ?」 「…自分の所為で私達を戦わせてしまったから、合わせる顔が無い……とか」 「ありそうな話だけどさ。でも、自分から出て来たがらないんじゃ僕らにはどうする事も……」 するとハクシンモンは何も言わずにキリハへと歩み寄った。キリハは顔を伏せ、その腕にはコユリを抱いている。 「"青"よ、まだ余力は残っておるかの?」 「……コユリが助かるのなら何だってしてやる」 涙に濡れた蒼の瞳が、海のような深青の瞳を見詰めた。 「ならばコユリの精神世界に入り込み、閉じ籠っている心を引き上げてくるのじゃ」 ハクシンモンの持てる全ての力を使い、キリハの心をコユリの精神世界に送り込むと言う。 だがハクシンモンの力は完全ではない為、制限時間内に戻って来なければコユリとキリハ、二人を繋ぐハクシンモンまでも死んでしまうと言うのだ。 それが危険な方法だとしても、誰も止めはしなかった。 ハクシンモンは左前足をコユリの額に置き、右前足をキリハへと差し出した。 「これがコユリを助ける最後の機会じゃ」 「…そんな事分かってる。コユリは俺が絶対に連れ戻す……!」 そう言ったキリハはハクシンモンの前足を取った瞬間、意識が闇へと落ち、力無く倒れてしまった。 浮遊してはまた沈む ------(12/02/22)------ 中身はどうあれ、タイキvsユウっぽくコユリvsキリハを書けたので満足です← 予定より長くなってしまいましたが、次回でデクリアモン編終了です(´ω`) |