時間を少し遡(さかのぼ)り、デクリアモンが作戦を練っているのとほぼ同時刻。間一髪で城から引き上げて来たタイキ達は、クリスタルが密集する地帯に身を潜めていた。

一同の間に流れる空気は重苦しい。キリハはずっと顔を伏(ふ)せており、ネネも罪悪感があるのか口を開こうとしない。

コユリのXローダーからはヒョウルモンとシキアモン、ハクシンモンが外に出ている。クリスタルに寄り掛かり、腕を組んでいたシキアモンがゆっくりと口を開いた。



「アイツは、大切な仲間の孤独にも気付けなかった…って言ってたよね」

「…ああ、確かに言ってたな」

「僕、思うんだけどさ……僕等を孤独から救ってくれたコユリが、本当は一番孤独だったんじゃないかって」

「……そうかも、しれねぇな」



ヒョウルモンは伏せ目がちに呟くように応えた。彼の脳裏には己の感情を押し殺して笑うコユリの姿が過(よぎ)った。

その時、今まで黙っていたキリハが言葉を発した。その声は微かに震えている。



「…早く、コユリを助けに行くぞ……。俺達の手で…コユリを……」

「キリハ、焦った所で何も始まらない。コユリを助ける方法は必ずある筈だ、だから皆で……」

「ッ…デクリアモンに吸収されたら、奴を倒した所でコユリは助からない!」

「っ…キリハ君、」



その場で立ち上がり、声を荒らげたキリハへと一同が視線を向ける。



「……お前等が行かないのなら俺一人でコユリを、」

「坊主、少し落ち着いたらどうだ」

「っ…どうしてお前はそんなに冷静でいられるんだ!コユリの命が……ッ?!」



キリハは突然ヒョウルモンに押し倒され、声に出そうとした言葉を飲み込んだ。ヒョウルモンはキリハのようにぶちまけたい感情を押し殺しながら静かな声で言う。



「俺だって早く助けに行きてェよ…コユリは俺の全てだ。…だがな、下手に奴を倒してコユリが死んじまったら元も子もねぇだろ」

「っ……」

「コユリはいつも馬鹿正直にテメェを信じてたぞ。ダークナイトモンに操られた時も、グラビモンに唆(そそのか)された時もだ……!こんな時こそテメェがコユリを信じなきゃ、アイツがしてきた事が報われねぇッ……!」

「…コユリを…信じる……?」

「お前達はこんな時に何をやっているんだ!」



二人の間にメルヴァモンが割り込み、キリハからヒョウルモンを引き剥がした。



「……すまない、」

「仕方無いわよ……。誰も予想出来なかった事だもの…私だって……」



またしても空気が重苦しくなり、タイキはそれを打ち消そうとハクシンモンに話を振った。



「ハクシンモンは、デクリアモンだけを倒してコユリを助ける方法を知ってるか?」

「……」

「…そう、だよな。いくらハクシンモンでも……」

「知っていると言えば知っている」

「「ッ……?!」」



予想外の言葉に、キリハやネネは伏せていた顔を上げた。この場にいる全員が驚きながら瞳にハクシンモンを映す。



「知っておるが、この方法は博打も博打、大博打。コユリが助かる確率は一割にも満たん。それでも良いのなら……」

「零でないのなら…俺はその方法に賭ける……!」

「……良い瞳じゃ、"青"」



真っ直ぐな蒼の瞳を見詰め返したハクシンモンは静かにほくそ笑んだ後、淡々と語り始めた。

シキアモンの語った方法は、時間との戦いでもあった。コユリが完全にデクリアモンに飲み込まれてしまったら為す術は無いと言う。

デクリアモンはデジモン達の負の感情から生まれ落ちた、正しく"闇"のデジモン。対してコユリは対照的な"光"だ。

コユリと同じ"光"でデクリアモンを浄化すれば、彼女には害も無くデクリアモンだけを倒せるかも知れないとの事。

その話を聞き、ドルルモンとメルヴァモンが疑問を投げ掛けた。



「デクリアモンを浄化するのは分かったが、浄化する"光"ってのはどうするんだ?」

「それに、浄化と言っても詳しい方法はあるのか?」

「ソリフィアモンの"光の力"が一番最良じゃろうな。浄化は、奴の核を"光の力"で破壊すれば良い」

「…それは、ソリフィアモンの武器でコユリを刺すって事……?」



不安そうな表情を浮かべたネネが躊躇(ためら)いがちに言った。単刀直入に語ろうとしないハクシンモンも、そう聞かれては答えるしかない。



「…そう言う事になるかの」

「ッ……!」

「お主達には余りにも荷が重過ぎる。この役はソリフィアモンが、」

「いや、俺がやる」

「キリハ!」

「キリハ君っ……!」



デクリアモンを浄化する役を買って出たキリハに、タイキ達は驚きを隠せないでいる。



「坊主、お前本気で言ってんのか?」

「当たり前だ」

「失敗すれば、アンタがコユリを殺……」

「コユリは死なせない!俺が…俺達が絶対に助けるんだ!…そうだろう?」



コユリを助けると言う強い意志を感じ取った一同は、キリハに全てを託す事に決めた。



「何度も申すが、失敗すればデクリアモン諸共コユリは死に、闇に飲まれた後ならば意識が戻る事は永遠に無い。それでも本当に実行するんじゃな?」

「諄(くど)いぞ、ハクシンモン」

「……宜しい。では、ピュアグロウの指揮権も"青"に託して良いかの、ヒョウルモン?」



ハクシンモンはそう言いながらヒョウルモンへ視線を投げ掛けた。するとヒョウルモンは伏せていた身体を起こし、キリハと目線を合わせた。紅と蒼が空中でぶつかり合う。

無言の時間が流れた後、ヒョウルモンが先に口を開いた。



「俺は今でもテメェが嫌いだ」

「ああ、俺も嫌いだ」

「だがそんな事を言ってる暇はねぇ。……コユリを助ける為に、ピュアグロウはブルーフレアに共同戦線を申し入れる」

「……分かった、受けよう」



この状況下でもヒョウルモンにはプライドがあり、キリハに指揮権を握られるのが嫌だった様で。共同戦線と言う言葉に置き換えたのだ。

だがそれに気付いているキリハは何も言わずに受け、タイキ達は胸を撫で下ろしている。



「坊主、コユリを無事に助けたら名前で呼んでやるよ」

「フン…その約束、忘れるなよ」





大博打に挑むのは





------(12/02/10)------
コユリはケルビモンのイメージです。白過ぎてすぐに闇に染まっちゃう、みたいな(笑)←

次回は時間を戻してキリハvsデクリアモン、更にその次の話で闇墜ち編終了予定です(´ω`)





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