城にはリーツァモンに乗って向かう事にし、コグルモンを先頭に城を目指す。風を切るように飛んでいた時、キリハはコユリの表情が暗い事に気が付いた。 「……」 「コユリ、どうかしたのか?」 「…えっ?あ、うん……。なんか嫌な予感がして…気の所為、だよね?」 「……ああ、気の所為だ。気にするな」 キリハが宥(なだ)めるような声色でコユリに言った。彼女は眉尻を下げて「ごめんね」と謝ったが、僅かな蟠(わだかま)りが残っている事をキリハは知らない。 ――…なんだろう…この嫌な感じ……。前にもどこかで……。 何事も無いように祈りながら、風で揺れるペンダントを握り締めた。 城の正門にはハイビジョンモニタモンがおり、リーツァモンはその場所にゆっくりと降り立った。 「ハイビジョンモニタモン、早速だけど中を案内して」 「はっ、こちらです」 ハイビジョンモニタモンに誘導され、一同は警戒しながらも城へと足を踏み入れる。その際コユリはリーツァモンをXローダーに戻し、替わりにヒョウルモンをリロードした。 城内は明かりが灯っていない為に薄暗く、淀(よど)んだ漂っている。エントランスホールの中央には外に生えているモノの倍はあろうかと言う黒水晶が上まで聳え立っていた。 「ハイビジョンモニタモンの言う通り、誰もいないみたいだな」 「ええ、そうね」 「コユリ、一人で彷徨(うろつ)くなよ」 「大丈夫だって」 「そう言って何か仕出かすのがお前だからな」 「もう、ヒョウルモンまで」 そう言ったものの、コユリは中央のクリスタルが気になっていた。理由は分からないが、何故かそれに惹き付けられていくのだ。 紅の瞳には漆黒のクリスタルが映る。ゆっくりとそれに歩み寄り、少し躊躇いがちに右手で触れた。 その瞬間、脳天から爪先にかけて激しい衝撃が走った。 「…う…あっ……、」 目の前が白と黒に明滅(めいめつ)し、力の入らなくなった身体は膝から崩れ落ちた。 「コユリ?!」 「コユリ!大丈夫っ?!」 その場に倒れ込んだコユリにネネが逸早く駆け寄った。するとコユリは何事も無かったかのように上半身を起こしたが、長い髪により顔に陰が差してその表情は窺(うかが)えない。 「……大丈夫だよ、"ネネ"」 「ッ!貴女誰!?コユリは私を"ネネ"なんて呼ばないわ!」 目の前にいるのがコユリではないと直感的に感じたネネは、そう声を荒らげて彼女と距離を置く。突然の事にキリハ達は困惑しながらもコユリに視線を移す。 クリスタルに手を這わせながらゆっくりと立ち上がるコユリ。揺れる白銀の髪は徐々に漆黒へと侵されていき、足元には意思を持った影が渦巻く。 「……ああ、そうだったかな。だがこのガキはもうじき死ぬ。そんな事はどうだって良いだろう」 背筋も凍るような声がエントランスホールに反響する。リーツァモン以外のピュアグロウとキリハ、メイルバードラモンはその声に聞き覚えがあった。 「テメェ…まさか……!」 「…久しいな、ヒョウルモン。私は戻って来たぞ、地獄の底からな……!」 そう言って顔を上げたコユリ。そこには透き通る紅の瞳ではなく、濁り切った漆黒の瞳があった。漆黒の髪と同じ色をした瞳。口許には歪んだ笑みを浮かべている。 そこに凛堂コユリと言う人間はいなかった。 「っ…やっぱりテメェかよ……デクリアモンッ!」 堕落した聖女 ------(12/02/07)------ 余り無いであろう夢主の闇墜ちと言うね(笑)← 数話コユリが登場しないと思いますが御了承下さい。 そして多分、コユリが恐ろしい程卑屈に、キリハのキャラが今まで以上に迷走する思います……; |