「――…コユリ…コユリ……!」

「っ…キリハ…くん……?」



キリハの声によって意識が覚醒したコユリの瞳に、安堵した表情を浮かべたキリハが飛び込んできた。すぐには回らない頭で状況把握に努める。



「…ここは…一体……」

「ブライトランドの真下に存在する地獄だ」



辺りの風景を確認しながらゆっくりと立ち上がる。キリハの言葉通り、人間が想像してきた地獄の景色が広がっていた。



「コユリ、怪我はねぇか?」

「うん、大丈夫。ヒョウルモン達は?」

「僕達もいつも通りぴんぴんしてるよ」

「そう…良かった……」

「……コユリ、本当にすまない」

「…タイキくん、」



タイキはそう言ってコユリに頭を下げたが、コユリは眉尻を下げて困った様に微笑んだ。



「気にする事ないよ、私にだって躊躇(ためら)いはあったから。今はこれからの事を考えよう?」

「…そうだな…ありがとう」



その時、タイキの視界の端で何かが光った。城を調査していたモニタモンズからの合図だ。何故かこの空間では通信が出来ず、ハクシンモンの千里眼も使えなかった。

一同は警戒しながらも無人の城を上がって行く。そして最上階には玉座が置かれていた。更にクロスハート、ブルーフレア、ピュアグロウの軍旗まで掲げられている。

シャウトモンは燥(はしゃ)ぎながら玉座に座った。



「――…このままオレ達の城にしちまうぞーっ!」

「…良いよ!て言うか、最初から君達に用意した城だ」

「あっそう!オレ達の城なんだ……え、ええっ?!」



玉座の前に置かれたクリスタルから現れたのはユウだった。だがそれは幻、触れる事は出来ない。



「タイキさん、キリハさん、姉さん、そしてコユリさん。…ようこそ!ヘルズフィールドへ!」



ここはヘルズフィールド。ブライトランドの輝きの裏に生まれた暗黒の空間だ。そしてユウはこの地獄を舞台に、タイキ達へ決戦を申し込んできた。



「ルールは簡単です。互いの城を目指して進撃し、ボスを倒す」

「ボス?ボスとはなんだ」

「ボスとは互いのリーダージェネラル。つまり僕と……貴方だ、タイキさん」



ユウはそう言って、己の胸に付けられたモノとは色違いの薔薇をタイキの胸に飛ばした。

勝利条件はタイキとユウ、どちらかの死だ。勝敗が付かなければこの空間から出る事も不可能、逃げる事は出来ない。



「――…僕、負けませんから。今度こそコユリさんを僕のモノにしてみせます」

「っ…ユウくん、まだそんな事を……」

「僕にとっては大事な事なんですよ」



笑みを浮かべたユウがコユリを指差すと、彼女の白い手首に手枷が嵌(は)められた。



「ッ……?!」

「どう言うつもりだ、ユウ!」

「いくら僕が勝ってもコユリさんが逃げたら話になりませんからね」



バリスタモンが手枷を引き千切ろうとするが、そんな力ではびくともしない。すると突然コユリの足元がふらつき、膝から崩れ落ちた。



「…力が…入らない……?」

「ガキ!コユリに何をした!」

「実はその手枷に痺れ薬を仕込んでおいたんです。でも安心して下さい、この戦いが終わる頃には効果が切れると思いますから」



キリハとヒョウルモンは憎悪を孕んだ瞳でユウを睨んだが、彼は無邪気な笑みを浮かべているだけ。

命を賭けた決戦を止めさせようと、タイキとネネが説得に当たるがユウは聞く耳を持たない。



「――…僕の挑戦、受けますよね?皆さん」

「……分かった、受けよう」



その問いに答えたのはキリハだった。タイキとネネは驚き、コユリは心配そうな眼差しでキリハを見詰める。



「――…思う存分、戦いましょうね」

「待て、ユウ」

「?」

「自分で言い出した事だ、覚悟をしておけよ」

「ふふっ、怖い怖い……。でもねキリハさん。僕は負けない、絶対に!勝って貴方からコユリさんを奪ってみせます」

「これはゲームじゃない、実戦だ。絶対は無い、予測外の奇跡も起きる。それを…俺が教えてやる!…そして、何があってもお前にコユリを譲る気は無い!」





地獄での決戦





------(12/01/07)------
コユリを動けなくしたのは、私の都合です((蹴 戦場に出しても戦う相手がいないものですから……←

最後にキリハとユウが本人を目の前に凄い発言をしましたが、薬が回っているのでコユリは上の空です(笑)





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