オレーグモンを倒し、すぐにでも次の国に進もうとしたのだが、戦闘によって船の一部分を損傷。その為修理しなければならず、足止めを食らってしまった。 船の修理はタイキとキリハ、力のあるデジモンが行い、コユリとネネは食事係になった。食料は村から分けて貰った為数日は困らないだろう。 「――…みんなーっ、ご飯だよー!」 コユリの声にタイキ達は一旦修理の手を止めた。コユリとネネは食料を乗せたトレイを持っているのだが、我先にとシャウトモンやグレイモン達が二人に駆け寄る。 「もう!そんなに慌てなくても全員分あるわよ!」 「……はい、キリハくんの分っ」 「あ、ああ……」 笑顔で食事を渡されたキリハは気恥ずかしそうに視線を逸(そ)らした。 「ネネちゃん、私厨房を片付けてから食べるね」 「なら私もそうするわ」 「あっ、一人で大丈夫だから。先に食べてて?」 ネネにそう言って空いたトレイを持ち、コユリは小走りで厨房へと戻った。彼女の姿が見えなくなったのを確認した後、ネネがキリハへと近寄った。 「ねえ、キリハ君」 「…なんだ」 「コユリったら、キリハ君のだけ他のとは別に作ってたのよ?」 「っ……!」 「良かったわね」 その言葉に呆気に取られたキリハを見てネネはクスリと笑った。 次にその会話を聞いて不機嫌そうにしているヒョウルモンへと歩み寄る。 「……今の、ホントか?」 「ふふっ、半分ね」 「半分?」 「これはキリハくんの分、こっちはヒョウルモン……って感じで作ってたのよ、あの子」 「なんだ、そう言う事か……。嬢ちゃんも酷い事するな」 「だってコユリをネタにキリハ君をからかうのが楽しいんですもの」 本当に愉快そうに笑うネネを前にして、ヒョウルモンは珍しくキリハを憐(あわ)れんだ。 食事を終えたキリハは、コユリに味の感想を伝える為に厨房へと向かう。すぐそこを曲がれば厨房だという時、その方向からコユリとハクシンモンの声が聞こえてきた。本能的に立ち止まってしまう。 「――…次の国のデスジェネラルについて……?」 「お主にだけは申しておこうと思ってのう」 盗み聞き等せずに直接ハクシンモンに聞けばいいものを、キリハは咄嗟に息を潜めた。 「次はキャニオンランド、デスジェネラルは土神のグラビモン」 「…キャニオンランド…グラビモン……」 「能力については妾(わらわ)も分からぬが、奴はかなりの策士じゃ」 「グラビモンはそんなに凄いの?策士って言うならキリハくんだって……」 「……正直、"青"で太刀打ち出来るか分からん」 「っ…そんな……!」 「ッ……!」 自分より頭の切れる敵がいる、その事実にキリハは衝撃を受けた。だがそれと同時に闘争心に火が付いたのも確かだ。 「部下もかなりの数を揃えていると聞く。奴はこれまでで一番の強敵……だからこそ、今まで以上に慎重に動くべきじゃ」 「……そうだね、話してくれてありがとう。…でも、どうしてそんなに詳しいの?」 「ん?…長く生きておれば地獄耳になるものよ」 その言葉を真に受けたコユリはそこでハクシンモンと別れ、残った食料を確認する為に食料庫へと向かった。 廊下に残ったのはハクシンモンだけ。すると静かに口を開いた。 「――…隠れてないで出てきたらどうじゃ」 ゆっくりとハクシンモンの前に姿を現したのはキリハ……ではなくシキアモンだった。 「……グラビモンの話、わざとしたでしょ」 「はて、なんの事やら」 「コユリにだけなんてのは名目で、本当は蒼沼キリハに間接的に聞かせる事が目的だった」 「……」 張り詰めた空気が二人の肌を痛い程刺す。深青と漆黒の視線が宙でぶつかり合う。 「あんな挑発的な事を言ったら見境無く暴走すると思うよ、力や勝利に拘(こだわ)ってるアイツなら尚更ね。そんな事位ハクシンモンが分からない筈がない」 「……鋭いのう」 ハクシンモンは観念した様に言った。だがシキアモンの表情を硬いまま。 「認めたって事で良い?」 「そうじゃな」 「アイツを暴走させてどうするつもりなの?それこそ仲間割れの危機だよ」 「……これが最善の策、と言ったらお主はどうする?」 「暴走させて、更に仲間割れさせる事が最善?」 「妾は"最悪の未来"だけはどうしても避けたい、こうしなければ"幸せな未来"は訪れないのじゃ。……信じてくれんかの、シキアモン」 沈黙が続く。もしキリハが一人で突っ走る事があれば、悲しむのは間違いなくコユリだ。だが、ハクシンモンにも考えがある事位分かっている。 シキアモンは葛藤の末、答えを出した。 「――…信じて、良いのね……?」 「勿論じゃ、感謝するぞシキアモン」 交わされた密約 ------(11/12/29)------ キリハが急に暴走したのはどうしても腑に落ちないので、暴走した原因を作ってみました。ハクシンモンは意味深な事をたまに言いますが、その真相は番外編で明らかになると言う事で……← キリハ再登場までにキャニオンランドは終わらせたい……(´ω`;) |