「ぅう…ぐずっ…わ、たし…がん…ばったのにぃ…」 「私は由加が頑張ってたのよく知ってるよ」 「うぇっ…ずっ…じゃじゃあどうしてぇ……!」 「そんなのあたしに聞かないでよ」と流石の名前も泣きじゃくる友人には言いたくても言えず、内心大きく溜め息を吐いた。 事の発端は名前の友人、と呼ぶほどの関係でもないクラスメイトに泣きつかれたことにある。そのクラスメイト、由加はどうやら彼氏に一方的にフラれたらしい。彼に見合うよう努力しただの、こっ酷くフラれようが愛してるだの、泣きながらたどたどしく説明してくるのだか、そんなこと名前にとってはどうでもいいことだ。 「それでねぇっ…彼、私よりもっと良い女を見付けたから別れようって……ぐずっ」 「…それは酷いね、私ならきっと殴ってるわ」 「それはダメ!彼を殴るだなんてっ…そんなのあんまりだよ……!」 (じゃあ一体何て言えば良かったのよ) 名前はまた表に出すことなく盛大に溜め息を吐いた。 それから十分後、たまたま来たクラスメイト達に半ば強引に由加の相手を押し付けて、逃げるように教室を後にした。 *** 「……てコトがあったんだけど」 「それが?」 「結果的にあんたの所為で大切な時間を浪費しちゃったのよ」 その日の夜。名前は由加の元彼である四宮の部屋に乗り込んだ。部屋の主は特に何も思わないようで、ベッドの上で料理雑誌を眺めている。 「あんたの彼女があたしの周りの子ばかりだから面倒な相談をされるのよ」 「そんなの偶然だろ?」 「そうとは思えないから此処に来たんだけど」 相談に来る四宮の彼女だったという子達は何故か名前と交流のあった子ばかり。名前からすればくだらない相談に付き合ってる時間が勿体無いのだが、止めることを許さない相談の多さ。それが四宮の遊び人っぷりを物語っている。 「“皆の憧れ名前サマ”だから人が集まるだけなんじゃねぇの」 「いい迷惑だわ」 そう言いながら鬱陶しそうに黒髪を払い除ける。 「それがそんなに嫌なら良い方法があるぜ」 「あんたが真面目に一人の子と付き合うとか?」 「いや、お前が俺と付き合えば誰からの相談もないだろ」 自信ありげに口角を上げる四宮とは対照的に、又しても嫌悪感を顕わにする名前。 「笑えない冗談ね」 「…こんな時だけ冗談に取るのかよ」 「何か言った?」 「いや何も」 「そんな冗談考える前に、まずはその笑えない女癖、何とかしてよね」 名前は美しい黒髪を揺らして部屋を出た。四宮が微かに唇を噛み締めたことに気付かずに。 [13/09/10] |