小学生の頃。周囲の気を引きたいのか、将又人とは違うという主張なのか「私には霊感がある!」と言い回るクラスメイトがいた。そして他の子達が興味津々でその子の話を聞いていたのを覚えている。当時の私は「くだらない」と一蹴して、そのクラスメイトとは距離を置いていた。何故なら彼女の話は全て本の受け売りで、霊感など無いことを知っていたから。


「ねぇ、先週そこで事故があったんだよね」

「あー、ニュースでもやってた。子供が死んじゃったんでしょ?」

「そうそう、ホント可哀想。人生何があるか分かんないし、気を付けないとね」


すれ違った女性二人の会話が耳に入った。すぐ近くの電柱には花束が手向けられている。そして、その事故で亡くなったであろう少年がひとり。そこを通り過ぎる人達には少年の姿は認識出来ず、少年の声は届かない。けれどこの場で私だけは彼の姿が見えていて、家に帰りたいという悲痛な声も聞こえる。


『…おとーさん、おかーさん…どこにいるの……?』


でも目を合わせてはいけない、話し掛けるのは以ての外。無視を決め込み周囲の人達に紛れ込んで素知らぬ顔で通り過ぎる。以前サラリーマンの霊と目が合って二週間取り憑かれた時は酷かった。毎晩の金縛りやラップ現象など。仕舞いには私に死んで欲しいのか事故に遭いそうになった。私にとっては近界民より霊の方が怖いし、よっぽどタチが悪い。

物心ついた頃から認識出来ていた。それが当たり前だと思っていた時期もあるが、周囲の大人達の言葉ですぐにそれが当たり前じゃないことに気付いた。それからは無闇矢鱈に「霊が見える」「霊感がある」などとは言わなくなった。真実なのに疑いの目で見られたくなかったから。

だから簡単に「霊感がある」などと言う人は嫌いだ。


「…ただいまー」


私の声だけが空しく響く。

大学に上がると同時に始めた一人暮らし。親戚のおじさんが所有する賃貸マンションの一室を相場よりずっと安い家賃で借りている。間取りは1LDK。大学生には勿体無い位の物件だ。細い廊下を進んで扉を開ければ、今朝となんら変わりないリビングが広がっている筈だった。


「っ……!」


思わず扉を閉めてしまった。突然のことで動悸が激しい。…居た、男の霊だ。いつの間にか連れて来てしまったのだろうか。……いや、そんな筈は無い。自問自答を繰り返しながら暴れる心臓を落ち着かせる。…大丈夫だ、まだ目を合わせていない。きっと偶々この部屋に立ち寄っただけだ。自分にそう言い聞かせながら呼吸を整えて、何事もなかったかのように部屋に入った。


『おい』

「……」


まずい、話し掛けてきた。無視をして自然に振る舞う。鞄を置いて、着ていた上着をハンガーに掛ける。そしてソファーに座り視線を携帯へ。ちらりと視界に入った幽霊は背の低い男、年齢は…私より下だろうか。…いや、そんなことはどうでも良い。どうやって出て行ってもらうか、それが重要だ。


『おい、聞こえないのか?』

「……」


無視だ無視。このまま諦めてお隣さんの所にでも行ってくれ。


『……』

「……」

『……苗字名前』

「っ…!?」


今まで霊に名前を呼ばれたことなど無かった為、思わず顔を上げてしまった。あれ程気を付けていたというのに完全に目を合わせてしまった。…でも、目が離せない。それは金縛りのようなものでは無く、あまりにも彼が格好良かったから。

私は初めて幽霊に、完全に魅せられてしまっていた。


[13/10/07]
title:青砥

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