後ろで一本に束ねた艶のある黒髪は、染み一つない真っ白なコックコートによく映える。 「この食戟、苗字名前の勝利とする!」 つけ睫毛のように黒く長い睫毛が縁取る目線の先には、敗者が膝を突いて項垂れている。彼女は敗者の元に歩み寄り、肩に手を置いて申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。 「ごめんなさい、これも仕事なの。悪く思わないで」 それだけ告げて踵を返しステージから降りた彼女の瞳は先程とは一変して酷く冷めていた。 苗字名前。容姿端麗、成績優秀。おまけに遠月十傑評議会第七席ときたものだ。だがそれを鼻に掛けることなく淑やかで慎ましい立ち振舞いに憧れを抱く生徒も多い。周囲からの人気も人望もある彼女だが、その本性を知る者は数少ない。 「最後の台詞は無くてもよかったな。偽善者って感じだったぜ」 「煩いわね」 黒の瞳できつく睨んだ先には、彼女とは正反対のチャラついた男子生徒。彼女専用の調理室に居るのは二人だけ。食戟を終えたばかりだと言うのに、次の試作を行う名前。彼はそれを悠々と眺めながら話し掛けてくる。 「で、あたしに何か用?」 「次のコンテストに向けた敵情視察ってトコだな」 「捌くわよ」 その言葉と共にもう一度睨み付けるが、彼は何でもないように笑うのだ。 「冗談位聞き分けろよ、名前」 「人の名前を気安く呼ばないで、四宮」 完全に嫌悪感を顕わにする名前の姿に、自分の所為だというのに「今は虫の居所が悪いな」等と考えて椅子から立ち上がる四宮。 「ああ、そうだ。今日の食戟、まあまあだったんじゃねぇの?」 「あんたにだけは言われたくないわね…!」 火に油を注ぐだけ注いだ四宮は、不機嫌な彼女を横目に不敵に笑いながら調理室から立ち去った。四宮小次郎、彼も名前の本性を知る数少ない人物である。 [13/09/10] title:VIOLENCE.com |