名前の予想通り、ふみ緒の入寮腕試しを一回で合格した創真の歓迎会が丸井の部屋で行われていた。米から出来たジュースと金色のお茶で盛り上がる一同。そんな中創真ははしゃぎ過ぎてジュースの入ったコップを倒してしまった。


「うおっ、やば…!」

「もう、何してんのあんたは。丸井の部屋なんだから、ちゃんと拭きなさいよ」


ごく自然に横から渡された雑巾を創真は受け取った。


「ありがとう姉ちゃん……姉ちゃんッ!?」


バッと勢いよく見直せば、そこには一年前に突然姿を消した名前が居た。驚きのあまり声の出ない創真とは対照的に、名前はそんなに驚くことかと首を傾げている。


「なに鳩が豆鉄砲食らったような顔してんの?ほら、手を動かす」

「お、おお……」


創真は困惑しながらも名前に言われた通り雑巾で床を拭く。そんな二人のやり取りに、盛り上がっていた一年生勢も反応した。


「え!姉弟!?」

「言われてみれば似てるわね……」

「そう?でも私を愚弟と一緒にしないでよ」


全員の視線が幸平姉弟に向けられては比較される。顔立ちは何となく似ている位だが、赤み掛かった髪や黄金に輝く瞳は同じだ。


「…いやー、まさか姉ちゃんがここに居たなんてな。いきなり消えたから心配してたんだぜ?」

「は…?父さんから何も聞いてないの?」

「親父に聞いたって真面目に答えなかったんだよ。「名前は武者修行の旅に出た」とか言ってさ」


いい加減に説明する父の姿が容易に想像出来た名前は大きな溜め息を吐いた。そんな父によって創真はこの一年間名前が何処で何をしているのか知らずに過ごしていたのだ。


「別に隠す必要なんて無いのに……まあいいや。退学にならないように精々頑張りなさい」

「当然!姉ちゃんもな!」

「言われなくても分かってるわよ、愚弟」


ニカッと笑った創真に釣られたのか名前は口許を緩めながら彼の額を小突いた。


「新作デザート作ったんだけど食べる人いるー?」

「はいはいはいっ!先輩の新作食べたいです!」

「悠姫落ち着いて」

「お、出来たのかい?」

「うん…って、慧!また脱いで!」

「名前ちゃんも一緒にどうだい?」

「誰が脱ぐか!」


横に現れた一色は既にエプロン一枚になっており、名前は肘で彼の鳩尾を狙うが避けられてしまった。


「名前先輩!早く早く!」

「ああ、ごめんね悠姫。…今日のデザートはマスカルポーネといちごのムース、桜ソース添えだよ」


夜はまだ長い。創真の歓迎会はまだまだこれからだ。


[14/02/08]

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