始業式後の授業に出た二人だったが、二限を終えたところで寮に帰って来てしまった。褌姿で畑仕事をする一色を眺めながら、日向ぼっこをする名前。


「名前ちゃんの弟くんも極星寮に来るんだろう?」

「うん、来ると思うよ。いくら愚弟とは言え、ふみ緒さんの腕試しは一発クリア出来ると思うし」

「それじゃあ歓迎会を、」

「しなくて良いよ、別に」


ぽかぽかと暖かい陽気に、名前はうとうとしながらも面倒臭そうに応えた。


「おや、どうしてだい?」

「今日は早く寝たい気分なの」

「ははっ、名前ちゃんらしいね」

「それに歓迎会するなら何かしら買い出しに行かないと駄目でしょ?」


名前は厨房の冷蔵庫の中身を思い出しながら言葉を紡ぐ。


「確かにそうだね。…なら、一緒に買いに行こうか」

「……うん、」


最近デートらしいことをしていなかった為、その替わりになればと名前は応じたのだ。そんなことを知ってか知らずか、買い出しに応じた彼女が可愛らしくて一色は思わず笑みを溢した。

そんなこんなで二人は学園から程近いスーパーまで買い出しに来ていた。程近い、と言っても寮からの距離を考えればかなり遠いが。


「あ、この鰆結構上物だよ」

「じゃあ買っていこうか」


名前は状態の良い鰆を取って、一色の持つ買い物カゴに入れた。そのまま二人は鮮魚コーナーから野菜コーナーへ。


「野菜なら裏の畑から収穫出来るのもあるよ」

「うーん…そうなんだけど……。あ、あったイチゴ!」

「なるほど、イチゴか。今が旬だからね」

「そ、イチゴで考えてた新作デザートを作ろうかと思って」

「楽しみだな、名前ちゃんの新作」

「慧も何か作ってよねー。いつも脱ぐだけで作んないだから」


そう言いながらイチゴをカゴに入れる名前の脳裏に浮かぶのは、少し目を離した隙に裸エプロンになっている一色の姿だ。


「善処するよ」

「もうっ……!」


言葉ばかりで全く改善が見込めないと瞬時に思い、名前はぺちっと可愛らしく一色の腕を叩いた。すると彼女のそんな仕草すら愛らしいと、一色は目を細めて笑うのだ。

いちゃつきながらも買い出しを終え、スーパーを出る頃には陽が傾き始めていた。


「おっと、そろそろ帰らないとふみ緒さんに怒られそうだ」

「うわー、結構時間経ってたね。慧、安全運転且つ飛ばしてよ」

「いつもながら無茶苦茶だね、名前ちゃんは」


荷物を自転車の籠に積み、いつものように一色が漕ぎ名前が荷台に乗る。一色の身体に腕を回しぎゅっと力を込めて身体を預けた名前は静かに目蓋を閉じた。すると周囲の喧噪は静まり返り、風を切る音と彼の心音だけが鼓膜を揺らすのだ。


「……」

「名前ちゃん?」

「…んー?」

「いや、急に静かになったから何かあったのかと思っただけなんだ」

「ああ…。何て言うか…、幸せだなぁって」

「……うん、僕もそう思うよ」


二人は静かに幸せを噛み締めた。そして同時に、この日常を守るには学園で生き残るしかない事を改めて思い知るのだった。


[14/02/07]






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