SS(2013) | ナノ





玉砕覚悟だったのに。ほんのちょっぴりの希望を持っていた。それがいけなかったのだ。淡い「もしかしたら」なんて希望と妄想を抱いていたが故にショックが倍増した。あの忍田本部長とお付き合い出来たら、なんて。この恋心が報われないこと位分かっていたのに。本部長を好きになってしまった自分は本当に愚かだ。

酒の勢いに任せて私の想いをぶちまければ、響子はただ相槌を打って支離滅裂な話を聞いてくれた。そして居酒屋を出る頃には私の足取りは覚束ず、響子に支えてもらいながら立っているのがやっとで。我ながら飲み過ぎたと反省している。


「ちょっと大丈夫?」

「んー、へーきらって」


呂律が上手く回らない。私と響子の家は正反対の場所にある。私はこの近辺だが響子には終電の時間が迫っており、私を送っていると終電を逃してしまうだろう。


「きょーこ、わたしは一人でかえれるからぁ」

「いくら近所でも一人に出来るわけないでしょ!」

「でもしゅーでんが、」


そんな言葉を交わしていると、私たちの前に一台の車が停まった。見覚えのある車にぼんやりとする頭で考えていると、今一番会いたくない人物が降りてきた。


「沢村くん、柊くん」

「ッ!?…ほ、ほんぶちょー」


颯爽と現れた忍田本部長に困惑する私を尻目に、響子は本部長に「この子をお願いします」とだけ言って足早に帰って行った。残された私と本部長。どうしていいか分からないのとフラれた気まずさからオドオドしていると、本部長は何事も無かったかのように私を助手席へと促してから車に乗り込んだ。あっという間に二人を乗せて走り出す車。意味が分からない。そもそもどうして本部長がタイミングよく現れたのだろう。それでもいくら考えたところで酔った頭で答えは出ず。そうしている間に会話も無いまま私の住むマンションに着いた。あれ、私住んでる所言ったことあったっけ?


「一人で歩けるか?」

「っ…ふぁい…!だいじょーぶれす」

「…その様子じゃ無理そうだな。部屋まで送る」


然り気無く肩を抱いて私を支えてくれる忍田本部長にドキドキしてしまう。でも本部長は優しさから飲み過ぎた部下を介抱しているに過ぎず、私が勝手に意識しているだけだと思うと悲しくなってきた。

鞄から鍵を取り出して扉を開け、そのまま本部長に支えられながらリビングのソファーに腰掛けた。やっぱり自宅が一番落ち着く。安心感から今度は眠くなってきた。


「ほんぶちょう、わざわざありがとーございました」

「……」

「…ほんぶちょー?」


次の瞬間、視界がぐるりと反転した。ぎしりとソファーが悲鳴を上げる。何故か視界には本部長と天井が。


「えっ…?」

「いくらなんでも、男の前でそんなに無防備なのは感心しないな」


なんで私は本部長に押し倒されているんだろう。両手首を掴まれているから抵抗も出来ない。飲み過ぎて夢でも見てるのかな。


「私も君を女として見ているんだ。あまり誘惑しないでくれ」

「っ……ふったのに、」

「今はプライベートだろ?」


耳元で囁かれた言葉にぞくりとした。顔を上げた本部長は口角を上げて小さく笑っている。掴まれた手首が痛いから、多分、夢じゃないと思う。



[13/11/29]
Twitterのmoeru_botより。全部お見通しの沢村さんが忍田さんを呼んで自宅の場所まで教えていたり。
title:微光


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