白い調理室がオレンジ色に染まる頃、よく彼女は大袈裟なリアクションで試作中の俺に泣き付いて来る。人の気も知らないで、またアイツの話ばかりするんだ。 「うぅっ…アヤトせんぱぁい……!」 「またか」 「…はい、」 肩を落としてしょんぼりしながら話していたと思えば、思い出したように怒ってみせたりする。まるで十面相、そんな日向子が好きなのに。口から出るのは「四宮先輩」ばかり。 「…全く、取り合えずこれでも食って落ち着け」 「これは…、」 「今日の試作。旬の果物を閉じ込めたわらび餅だ」 日向子が来るまでは食戟や校外のコンテストに備えての試作だったが、今となっては彼女に喜んでもらう為に作っているようなものだ。だが本人はそんなこと等露知らず、一変して蕩けるような笑みを浮かべてわらび餅を食べている。 「すっごく美味しい!」 「そりゃあ良かった」 「アヤト先輩は和菓子もお上手なんですね」 「一応十傑だからな」 日向子が食べている間に手早く調理器具を片付けて、彼女にお茶を注いでやる。そして彼女の向かいの席に座り、今日もアヤト相談所開始だ。 「…で、今日は何があったんだ」 「……四宮先輩が、彼女と歩ってて…それで」 日向子に気付いていたのか、見せ付けるように彼女とキスしたらしい。全く、悪趣味な奴だ。今に始まったことじゃあないが。 「気にするな、日向子。どうせその女ともすぐに別れる」 「まだチャンスはありますかね…?」 「それはどうだろうな。四宮の奴、清楚で従順な子が好きだから」 「そうなんですか!?」 「なんだ、知らなかったのか?」 がたりと椅子が音を立てる位勢い良く立ち上がった日向子。まあアイツの連れてる女を見る限り清楚で従順っぽくないもんな。 「…それでも私は四宮先輩が、」 「日向子、もうアイツのことは諦めろ」 「っ……!」 彼女は大きな目を見開いて困惑している。アヤト先輩がそんなこと言うなんて、みたいな。 「あんな奴追っ掛けたって可能性はゼロだ」 「アヤト…先輩、」 「だから、可能性のある俺にしとけ」 日向子の見開いた目が、微かに揺らいだ気がした。 [13/09/07] 四宮は「四宮←日向子←アヤト」なのを知ってるから、日向子がアヤトに泣き付くように仕向けていたり。 title:微光 戻る |