「あの野郎…手加減無しなんだから、全く……」 つい先程まで行われていたイレイザーとの合同訓練により、か弱い私の身体はボロボロ。節々が悲鳴を上げている。重たい身体を引きずりながら無駄に長い廊下を進み、ようやく辿り着いた仮眠室にほっと胸を撫で下ろす。 が、中には既に先客が居た。先日の失態により始末書に追われていたトーマだ。小学生にやられて帰って来るなんてホント情けないヤツ。…まあ、そんな情けないヘタレに惚れてしまった私も私だけど。 ちょっとした出来心で眼鏡を掛けたまま寝息を立てるトーマの顔を覗き込んでみる。ハルカには真っ向から全否定されるけど、情けない割りには結構格好良い顔してたりするんだよね。 にしても、眼鏡を掛けたままで寝辛くないのだろうか。寝返りをした拍子に眼鏡が食い込んだりフレームが歪みそうなのだが。…私が気になって仕様が無いからトーマの眼鏡を外してあげてから寝るとしよう。 起こさないよう両手で静かに眼鏡に手を掛けて外そうとした、その時。トーマがうっすらと目蓋を上げ、こちらに気付かれてしまった。起きるとは思っていなかった為、慌てて眼鏡を離して弁解に急ぐ。 「…アヤメ……?」 「あ、いやっ…私はただ眼鏡を……!」 すると目が合いフッと微笑んだトーマに軽く頭を撫でられた。そしてその腕は力無くだらりと落ち、また眠り込んでしまった。 「…な、なんなのさもうっ…」 突然のことに思わず腰が抜け、ベッド傍にへたり込んだ。トーマは寝惚けていただけなんだろうけど、どうして頭を撫でて来たんだろう。 …幾ら考えても答えなんかは出ない。私を悩ませている張本人はむかつく程ぐっすり眠っているし。目を細めて静かに笑みを浮かべるトーマの姿が脳裏にちらついては私をときめかせる。 今の状態じゃ、とてもじゃないけど此処で仮眠なんか取れやしない。少し遠いけど第二仮眠室に行くとしよう。寝ても醒めても私を悩ませ続けるトーマの眼鏡を外してから仮眠室を後にした。 [13/03/09] 戦闘ドライバーヒロインの片想いの話。コレじゃない感がハンパない。 title:水葬 戻る |