SS(2013) | ナノ





「何拗ねてんだよ」

「…別に。拗ねてないし」


頬を撫でる優しい風が髪を靡かせ、卒業式でも短めのスカートを揺らす。屋上には二人しかいない。卒業式を終えた生徒達の嗚咽混じりの声も笑い声も何処か遠くに聞こえる。アヤメはフェンス前に立って下の生徒達を眺めており、後ろにいる四宮と顔を合わせようとしない。


「俺がフランスに行くの、そんなに嫌か?」

「そうじゃない!…そうじゃないよ……。ただ、前以て言って欲しかった…」


あまりにも唐突に伝えられた四宮の渡仏。もうそう簡単に彼に会えなくなると言う寂しさと、今日まで教えて貰えなかったと言う悲しさ。二つの感情が彼女の中で駆け巡る。


「……嫌だよ、別れたくない」


震える声で何とか振り絞った言葉。


「アヤメ、こっち向け」


四宮の言葉にアヤメが渋々振り向くと、彼が何かを投げて来た。それは緩やかな放物線を描き、陽の光に反射してキラリと輝きながら彼女の元へと落ちていく。よく分からないまま受け取る。


「…これって、」

「俺の右ピアス、前から欲しがってただろ」

「あ、ありがと…」


投げ渡されたのは、四宮の左耳で輝くピアスのもう片方。前々から欲しがってたアヤメは、わざわざ右耳だけピアスホールを開けていた。やっと手に入ったそれに思わず綻(ほころ)びる。


「アヤメ、俺と一緒に来い」

「っ…!」

「最初は苦労かけると思うし良い暮らしもさせてやれねぇと思う。けど、後悔はさせねぇ」

「…小次郎、」

「で、返事は?」


両手でピアスを握り締め、俯いて黙り込む。今後の人生を大きく左右する返答。何が一番良いのか考えるが、彼女の中で答えは疾(と)うに出ていた。


「なに一丁前にカッコ付けてんのよ!行くに決まってるでしょ!…ああもうっ!大好きだよ馬鹿小次郎!」

「フッ、俺(おい)は愛しとるばい!」



[13/08/06]
四宮祭りその9。卒業式ネタ。でも落ちは似たり寄ったり。
title:微光


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