カーテンを開ければ窓の外では静かに雪が降っていた。どうりで今日は一段と冷え込んだ訳だ。帰って来てから降り出したのだろう。雪道の運転には自信が無いから、今日は早めに切り上げといて良かった。 「小次郎、ミラノは雪降ってるよ。そっちは?」 『…あ?ああ、こっちは降ってない』 「どしたの?疲れてる?」 『大丈夫だから気にするな』 電話越しの彼の声は何だか上の空のような気がする。それに微かに雑踏のようなものが聞こえる。 「もしかして外にいる?」 『…少し気になることがあってな。店に戻ってたんだ』 「?…だったら一度切るけど、」 『いや、このままでいい。アヤメの声が聞きたい』 「っ…私も」 オーナーシェフとデザイナー。お互いが店と事務所を持って日々戦っている。料理長が居なければ店は成り立たず、私も期限までに仕上げる為に事務所に籠もる。自分の時間が中々作れず、飛行機なら二時間も掛からないと言うのに最後に逢ったのは半年前に二日程度だ。 寂しくないと言えば嘘になる。信頼しているけどやはり浮気してないか心配だ。今私達を繋いでいるのは偶の電話とメールだけ。 『そう言えば、新作の話じゃなかったのか?』 「あっ、うん。それでね……、」 上手く纏まらないデザインの説明をすれば、私とは全く異なる目線のアイディアが返ってきた。彼の言葉をノートに書き殴る。ノートは黒で埋まっていくのに私の心は白く空っぽ。 「……ねえ、小次郎?」 『なんだ?』 「……逢いたい、」 『……』 ぽつりと呟いた本音。でも同意も否定も無く、ただ無言。ストイックな彼には迷惑な言葉だったかもしれない。 「ごめん、今のは忘れて」 『…そうだな、俺ももう堪えられない。だから、』 そこで電話が途切れた。だけどすぐにチャイムが鳴った。もしやと思い携帯をソファーに放り投げて、急いで玄関に行き勢いよく扉を開けた。するとそこには花束を片手に不敵に笑う小次郎が立っていた。 「小次郎っ?!」 「逢いたいって言うから来てやったぜ」 「え、でもっ…!お店は……?!」 「目の前の俺より店の方が気になるのか?」 「そ、そう言う意味じゃ……!」 ヤバい。突然のことで全く頭が回らない。 「アヤメ」 「!」 「俺と結婚しろ」 「…うんっ!」 笑顔で答えればぎゅっと抱き締めてくれた。彼の温もりに自然と涙が零れた。 [13/06/19] 四宮祭りその3。今度はデザイナーヒロイン。でもまたプロポーズ落ち。 title:微光 戻る |