SS(2013) | ナノ





「タクミってさぁ、ホントにイタリア人?」


聞き捨てならない質問が彼女の口から投げ掛けられ、タクミは料理する手を一旦止めた。


「イタリアと日本のハーフだって前にも言った筈だぞ」

「うん、覚えてる。イタリアで育ったのも分かってる」

「…オレは料理の試作で忙しいんだ、雑談がしたいならまた後にしてくれ」


タクミの調理風景を頬杖をつきながら見学していたアヤメにそう言い聞かせ、中断していた作業に戻ろうとする。


「タクミってイタリア人の割りにヘタレだよね」


タクミは思わず握ったばかりの包丁を落としそうになった。


「だ、誰がヘタレだ!それにお前はイタリア人をなんだと思ってるんだ!」

「えー?やっぱり遊び人でタラシで手が早くて…それから、」

「ああもう分かった!大体、イタリアじゃそんなナンパ野郎は滅多に居ないぞ」

「そうなの?」

「全員が全員そんな訳ないだろ」


「これだから日本人は」と呆れたように息を吐くタクミとは対照的に、アヤメは「そうなんだ」と一人で納得している。


「じゃあさ、ヘタレで初心で奥手なのはタクミだからってこと?」

「っ…オレはヘタレでも初心でも、況してや奥手なんかじゃない!」


するとアヤメは徐に立ち上がり、調理台越しにグッとタクミに顔を近付けた。彼女の突然の行動と鼻先が触れ合う程の顔の近さにタクミは思わず頬を赤らめる。


「ッ……!」

「ほら、やっぱり初心」


両者の鼓膜を揺らしたリップ音。アヤメからの突然のキスにタクミの頬から耳まで更に朱に染まる。彼の反応にアヤメは離れながら「ふふっ」と愉快そうに笑みを浮かべた。


「Ci vediamo!」


聞こえているかは定かではないが、放心状態のタクミにそう言い残してアヤメは調理室を後にした。



[13/04/15]
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※「Ci vediamo(チ・べディアーモ)」→「またね」
title:水葬


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