ふと、たった今自覚したことがある。と言うのもよく彼の手を目で追っている自分に気付いたことがキッカケで。 料理人にとって大切な手。彼のその手が好きだ。私より当たり前におっきくて、角張ったその手に残った切り傷がこれまでの努力を物語っている。 我慢出来ずにするりと彼の手を取れば、彼が何事かと視線を料理雑誌から私に移した。 「どうした?」 「私、手フェチだって自覚したの。綺麗な手に惹かれるけど、やっぱり小次郎の手が一番好き」 リップ音を立てながら指先にキスをすれば、擽ったそうな表情を浮かべる。それが私の悪戯心に火を付け、手の甲や手首にもキスを落とす。すると彼も負けじと私の首筋に顔を埋めて鼻をくんっと鳴らした。 「なら俺は宛らアヤメ限定の匂いフェチってとこだな。バニラオイルの甘ったるい香りがお前らしくて好きだ」 「らしいも何も、職業柄仕方ないでしょ」 パティシエの私と料理人の彼。彼は料理の香りを霞めるからと香水は一切持たず、整髪料も無香料の物と徹底している。だからここまで接近すると彼の匂いが直にする。テレビで人は本能的に体臭を嗅ぎ分けているとか何とか言ってた気がするけど、特に興味が無いからぼんやりとしか思い出せない。 すると私の首筋に顔を埋めていた彼が、先程の私のように首筋や喉に唇を軽く押し当てた。 「もうっ、疲れてるんだから止めてよね」 「誘って来たのはお前だぜ」 「戯れただけじゃない」 「指先へのキスは賞賛。手の甲は敬愛、手首は欲望。場所によって意味があるって知ってたか?」 彼の手を握っていた左手を逆に取られ、指先から手首にかけてキスされた。 「小次郎が料理以外でそんなコト覚えてるなんてね。一体どれだけの子を誘惑してきたの?」 「後にも先にもアヤメだけだ」 「ふふっ、知ってる。ねえ首筋と喉へのキスの意味は?」 「首筋は執着、喉は欲求」 視線が絡み合い、そしてどちらからともなく唇を重ねた。 「じゃあ、唇は?」 「愛情、だ」 明日も朝早いのに、手加減してもらえそうにない。 [13/04/14] 不完全燃焼。でも男の人の手って何かこう…グッと来るものがあるんですよね。 title:レイラの初恋 戻る |