Good night, sleep tight.

0.はじめに
 陣営:制限なし
 推奨人数:3、4人
 推奨スキル:注視、幻視、話術などの探索スキル/回避、光属性魔法などの戦闘スキル/奔走
 時間:10〜12時間程度
 GM報酬:ステータス成長8pt
 PL報酬:ステータス成長5pt、スキルポイント50pt、イベント次第で記憶報酬

X.シナリオの流れ把握(GM向け)
35年前:ジョスリン、リリーが先代スティーブ・シザーフィールドに仕え始める。
30年前:アメリア・シザーフィールド誕生
24年前:カーティス・シザーフィールド誕生/アメリアが高熱により卵子を全て失う/イーリスが仕え始める
22年前:アーネスト・シザーフィールド誕生
14年前:アメリアが自身は子を作れない身体であると知り発狂する/カーティスの体に“It's mine"と印を刻む
10年前:先代スティーブが戦死/アーネストが家族と決別、以後10年間消息を絶つ
9年前:アメリアに虐待され意識が混濁したカーティスの《機能障害》が暴走し、大樹に雷が落ち、母メアリーがその下敷きとなって死亡。
3年前:由貴、ルイ、カールが仕え始める
2年前:カーティスがアメリアを殺害する/カルメンが仕え始める
半年前:カーティスとアーネストが和解する


1.シナリオクリア条件
 ・邸に住む「当主様」を殺して、「呼び声の主」の名を呼んで彼女に捧げる。
 ・当主自身に気付かせて、自殺させる。
 ・「呼び声の主」を殺す。
 ・「呼び声の主」を狂気から解放する。(8「森」、9-2「アメリア・シザーフィールド」を参照)
以上四つのうちいずれか。

2.用語やアイテム、舞台
 ◆『シザーフィールド家』
  この世界の上流貴族、伯爵位を持つ元騎士の家柄。
  騎士と言っても手柄ではなく、
  武器の売買によって財を成した家柄のため、
  由緒には多少の引け目がある様子。
  そのせいか当主の態度も実にフランク。
  また先天性特殊機能症候群(後述)の
  罹患者が多い家系でもあり、
  現当主もまたその一人。
  数年前に亡くなった、彼の姉も
  そうだったらしい。
 ◆『シザーフィールド邸』
  伯爵家・シザーフィールドの持ち家であり、敷地内に英国式庭園と森とを持つ大邸宅。
  邸には当主カーティス・シザーフィールドと、
  その弟アーネスト、
  執事のジョスリン、
  メイドのリリー、イーリス、由貴、カルメン、
  庭師のルイ、
  ドアマンのカールが暮らしている。
  庭園は邸と正門の間を埋めるような形で整備され、
  森はその周囲を半ば囲いつつ、
  邸の裏手に広がっている。
 ◆呼び声
  実体は無く、探索者たちの脳内に直接伝えられる、とある女性の声。
  その声は蜂蜜の様に甘やかで、重く、美しく響くのだが、
  勘の鋭い人ならば、おぞましく感じるかもしれない。
 ◆先天性特殊機能症候群
  俗に言う超能力のようなもの。後天性の場合もある。
  この世界は実は近未来のパラレルワールドであり、
  科学が非常に進歩しているため、テレパシーなどの仕組みも
  脳の異常として解明されている。
  現当主は《リモート・コントロール》と呼ばれる、
  電子操作、及び機械類のハッキングが可能な特殊機能を持ち、
  また、彼の亡き姉はサイコキネシスの持ち主であった。

3.導入
  空は闇色。上弦の月が昇る夜。
  探索者たちは各々の場所で、同じ冷えた光を浴びていました。
  すると不意に、どこからともなく、女性の声が聞こえてきます。
  どうやらその声は空気を震わせ、貴方の鼓膜を揺らしているのではなく、
  貴方の意識に、直接呼びかけているようです。
  感覚を研ぎ澄ませてみれば、彼女が何を伝えているのか、
  判別することができるでしょう。
   「探して……見つけて……私の、可愛い……」
   「あの子は、……私のよ、私のモノよ……許さない……」
   「返して……私に……私の腕に……そして、」
  最後の言葉が聞こえた直後、貴方は酷い耳鳴りに襲われ
  その場に倒れ込んでしまいます。
  思わず目を強く瞑ると、
  貴方はそのまま意識を手放してしまいました。

4.庭師のルイ
  探索者たちは若い青年の怒号で目を覚まします。
  辺りを見回すまでもなく、明るい茶髪の、童顔の男が、
  へっぴり腰で剪定鋏を構えているのが目に映る筈です。
   「てめえらそこで何してやがる! オレが大事に育ててたバラを……!」
  どうやら、貴方方はどこぞの邸の庭に落ちてきて、
  この青年が大事に育てていた薔薇を下敷きにしてしまったようです。
    →ルイに事情を説明する場合:
     ルイはどうやら魔法・異世界といった概念が
     一般的でない世界の住人のようです。
     なので、いくら説明しても信じてくれず、
     不審者扱いしてきます。
     しかし、彼に人を傷付ける度胸はないのでご安心を。
     そのうち騒ぎを聞きつけてこの家の「当主」が現れます。
     彼はこの世界の裏事情に精通しているらしく、
     貴方方の話を信じて、屋敷に招き入れてくれます。
    →ルイを殺そうとする場合:
     彼は一般人です。あっさりと死ぬでしょう。
     しかし騒ぎに気付いて現れる、この家の「当主」は
     違います。強敵との戦闘となってしまいます。
     当主を無理に殺した場合、姉の名を呼ばないとクリアできないので、
     クリアの失敗率が高くなります。
     また、「当主」を殺す際に、
     顔に傷をつけてしまうと、「呼び声の主」が怒って現れ、
     戦闘となってしまいます。この場合相手を殺せば
     シナリオはクリアできますが、報酬は無しとなります。

5.「当主様」
 ルイと言い争っていると、不意に庭に黒髪碧眼の青年が一人、現れます。
 背丈は180cmほど、脚が長く、頭身の高い青年です。
 美醜に鋭い探索者ならば、彼が人形めいて整った綺麗な顔をしていることに
 気が付くかもしれません。ただ、彼には美人特有のオーラのようなものがないので、
 気付かない人は気付きません。
 その出で立ちや、ルイの態度からして、彼はどうやらこの邸の主のようです。
 しかしそれにしては彼は振る舞いがフランクで、口もそこそこ悪いです。
 所作の貴族らしさと口調とのギャップに、貴方は少し戸惑うかもしれません。
 ルイを無視して彼に事情を話すと、彼は疑わずに信じてくれます。
 茶でも飲んでけ、と屋敷に招き入れてくれるので、素直に着いていくと良いでしょう。
 もちろん、断ってこの庭や、邸の裏手にある森を探索しても構いません。

6.邸
 庭と同様、英国式のレンガ造りの大きなお屋敷です。
 ドアマンが一人おり、当主が目で合図をすると、
 深く頭を垂れて重そうな扉を開いてくれます。
 中へ入るとロマンスグレーの紳士が当主に頭を下げ、
 彼の上着を預かります。
 そのとき、探索者たちは当主の口から
 ジョスリン、という彼の名を聞くこととなるでしょう。
 当主はそのまま左手へ曲がり、貴方方を応接間へ通します。
 ふかふかの、高そうなソファーで彼と話をしていると、
 メイドの女性たちがお茶とお菓子を運んできます。
 お茶やお菓子の内容はGMさん方の好みで好きに変えてください。
 ぜひぜひ、おいしそうに。
 当主の好感度次第では、邸の中の探索を許可されるかもしれません。
 邸の中はあまりにも広いので、全てを探索するといつまで経っても終わりませんから、
 面白そうな場所を三つに絞っておきます。

 ◆書斎:本や資料がごちゃごちゃと散乱した埃くさい部屋。
     散乱物はどれも年紀が入っており、
     どうやら現当主の彼はこの部屋を使ってはいないようだ。
     注視すると、以下の三つのものが見つかる。
     また、下記に指定はなくとも、ありそうなものを
     GMが勝手に設定し、探索者に持ち帰らせても良い。
     *レターセット;インクと便箋、羽ペンが入った古い木箱。
     インクの瓶は三つ収まっているがどれも青く、微妙に濃淡が異なり、
     全てにそれぞれ「Ameria」「Curtis」「Ernest」と書かれたタグがついている。
     *絵画:一つは、ひっそりと飾られた肖像画。金髪碧眼ではあるが、現当主とどこか似ている。
     よくよく見ると額縁に「James・Scissorfield」と刻まれているのが分かる。
     もう一つは、山の頂に眠る美しい青年と、彼に寄り添う月の女神を描いた絵画。
     どうやら、ギリシャ神話のとある逸話を元に描いたものらしい。
     神話に詳しいものが探索者にいれば、それが何の伝説を示すものか説明しても良い。
     成功率は三段階。RP次第で30、50、80と足していく。
     また、探索者は分からなくても、ジョスリンに聞けば教えてくれる。他の邸の人物では不可。
     絵画はエンデュミオンの逸話を描いたものである。月の女神セレーネが、山の頂に眠っていた
     青年エンデュミオンの美貌に引かれ見初めるのだが、
     彼が自分と違って不老不死ではないことを嘆き、ゼウスに頼み込んで、
     彼を永遠に眠らせてしまったという悲恋話。
     *家族写真;幼い頃の一家の写真のようだ。黒髪碧眼の少年二人と共に、金髪碧眼の、
     美しい少女が写り込んでいる。(NPC情報:アメリアの見た目参照

 ◆地下室:応接間の反対側、右手の方に進んでいくと入り口がある。木製の、何の変哲もないドア。
      ただ、木材の質はかなり良さそうだ。中の音は一切漏れ聞こえてこないが、
      聞き耳をすればゲーム音楽が聞こえてくるかも。
     「Do not disturb me」と書かれた札が下げられているが、鍵は開けっ放し。
      扉を開け階段を下ると、何やら精密そうな機械で埋め尽くされた部屋に行き着く。
      そこに光源はないが、無数のモニターが明りの代わりとなっており、眩しい。
      モニターとサーバーとキーボードの群れの向こうに、
      ひとりの青年がヘッドフォンをつけて座っているのが見えることだろう。
      何かのゲームの音楽と効果音がヘッドフォンから漏れ聞こえていて、
      よほど大きな声で呼びかけなければ気づいてくれない。
      振り返った彼に名を聞くと、心底面倒臭そうな顔で「アーネスト」と名乗ってくれる。
      彼は先程の当主と顔立ちはかなり似ているが、より少女めいていて幼く、
      空色の瞳が印象的。
      口調は生意気な女の子のようで、声も男性にしては高く聞こえることだろう。
      モニターに映された数式やコード、論文の数々は常人には理解不能であり、
      彼が優れた頭脳を持つことが窺える。
      彼に自分たちがこの世界へ来た経緯を告げると、
      科学的な見地から彼は貴方方に興味を抱くだろう。
      この青年にもし気に入られれば、この一家の話や兄、もしくは数年前に死んだ
      彼らの姉の話が聞けるかもしれない。
      さらにさらに仲良くなれば、不思議な形の金色の円盤(下記およびクリア報酬参照)を、
      記念に、と言って手渡してくれるかもしれない。
      *姉の話:彼も詳しくは知らないらしい、この家の亡き長女のこと。
      彼女の名はアメリア。《蜂蜜を紡いだ様な》美しい金髪を、
      頭の両脇から螺旋状に巻いて束ねていた。その容姿からして、書斎の家族写真に写る
      少女と同一人物と思われる。
      *ノクタラーベ:不思議な形の金色の円盤。中央の孔から北極星を覗いて、
      位置などを元に調整すると、現在時刻が分かるという仕組みの、一種の時計。
      青年のお気に入りの品らしく、いくつか持ってるうちの一つをくれる。
      彼に星の話を振って、仲良くなれれば手に入る。
      彼が天体好きであることは、兄(=当主)から事前に聞いておくことができる。
      また、アーネストに危害を加えようとした場合、副人格のレンドが現れる。
      レンドは拳銃で探索者の攻撃を防いで、アーネストに危害を加えるつもりなら、
      容赦はしないという旨を伝えてくるだろう。
      レンドと友好関係を築くことができれば、彼は部屋から出てきて一緒に探索についてくる。
      レンド同行でシナリオをクリアすると、別の希少報酬がもらえる。
      
 ◆キッチン:メイド四人がそこでてきぱきと働いています。彼女らは話好きで、
       声をかければマシンガントークを喰らわせてきてくれることでしょう。
       しかしみなプロ意識が高く、主人一家に関するプライベートな質問には答えません。
       ただ一人、最年少のメイド・カルメンを除いては……
       他のメイドのいないところでこっそりカルメンに話しかければ、
       死んだ姉に関するゴシップを幾つか聞き出せるかもしれません。
       また、カルメンのみならず他のメイドに関しても、
       メイド長であるリリーを除けば、好感度次第で対応可能。
       以下の情報が手に入る。
       *数年前に死んだ当主の姉は気狂いだったらしい。
       *当主の胸には幼い頃、彼女に付けられた傷が残っているそうだ。
       *その傷は何やら文字の様に見えなくもないらしい。
       *彼女は超能力者だった。
       *彼女は弟である当主のことを自分の息子だと思い込んでいた。
       *その上で彼を男としても愛し、性的虐待を強いていたとか(この辺は適度にぼかしてください

7.庭
 庭を探しても特にいいものはありませんが、ルイともう一度話すことができます。
 最初は敵意を向けてきますが、彼も人懐っこいので懐柔は容易です。
 また、ヒーリングを使って庭の薔薇を蘇生させることも可能です。その場合、ルイは目の前で起こった奇跡に感動して探索者の手を取りぶんぶんと大きく握手することでしょう。
 そのうち、「何故か当主様は夏になってもシャツのボタンをきっちり上まで閉めて開けない」、と
 長年の疑問をこっそり漏らしてくれたりもするでしょう。

8.森
 森は謎解きに詰まったとき用のヒントに使います。ここへ立ち入ると呼び声が聞こえてきます。
 以下の呼び声から、その時々の状況に適したヒントを与えてください。
 
 「ねえ、私の名前を呼んで……呼んでくれなきゃ……何処にいるのか……」
 「早く……見つけて……《私の子》を……私に返して……どうか……早く……」
 「ちゃんと名前を……書いたのに……身体に……どうして消えてしまうのかしら……」
 「返してくれれば……帰してあげるわ……可愛いあの子を……私に……」

 幻視を持っている探索者であれば、《呼び声》と多少会話することもできます。ただ相手は気が狂っているので、まともな返事は望めないでしょう。
 ただし、この時《呼び声》に対し、「あなたは弟の幸せを望んでいましたか」「あなたの弟は幸せそうでしたか」など、
 彼女が自分の行いを自省するきっかけとなる言葉を投げることができた場合、
 9-2のルートが開けます。ただし彼女は気が狂っているので、
 「自分勝手に愛を押し付けていただけではないのか」「あなたの行いは愛ではなくて虐待だ」
 などといった、正攻法での説得は功を奏さないでしょう。
 あくまで彼女自身が、「弟はどう思っていたのか」を想像するきっかけとなることが必要です。

 また、呼び声を聞いたあとであれば、鬱蒼と闇深く茂った森の奥へ、進むことが可能となります。
 やがて探索者は樹々の間の少し開けた、一本道のような場所に行き着くこととなるでしょう。
 ですがその道を進んでも他には特に何もありません。
 探索者の傍らに、不自然に焼け焦げた切り株が残されています。
 その切り株、あるいは道全体を「幻視」すると、記憶のフラッシュバックが始まります。
 そこで探索者は以下のような映像を目にすることとなるでしょう。
   降りしきる雨。遠く響く雷鳴。
   歳の頃は十五くらいであろうか、ひとりの少年がひとりの女性に、跨がれ、じたばたともがいている。
   髪は濡れ、顔立ちも今より若いのではっきりとは言えないが、
   恐らく少年は幼き日のこの家の当主だろう。
   そして、その上に跨がる女性は鮮やかな金髪を青暗い夜に浸して、さも愉しそうに笑んでいる。
   事前に情報を得ていれば、この家の長女であることが分かる筈だ。
   女性の手は少年の両腕を抑え、喉元には掛かっていないというのに、
   少年はまるで《見えない手》に絞め上げられているかのように首を大きく反らしている。
   ふと、後方から、別の女性の声がする。カーティス、カーティスと、必死に少年の名を呼ぶ声が。
   少年の唇が震える。その口許が、かあさん、と、弱々しく形を作る。
   長女の瞳に怒りが走った。締め付けられる《見えない手》。苦しそうに喘ぐ少年。
   やがて少年の瞼が閉じていく。睫毛と睫毛が交差した瞬間、彼はふっと意識を手放す。
   同時に、一際大きな稲妻が、空に走り、或る大樹を焼いた。
   それは少年の母親が、彼を探して惑っているその傍らにある樹であった。
   樹は切り裂かれ、ゆっくりと倒れていく。
   愛する息子を捜す母親の、その頭上へ。

   ぱっと白い光。場面は切り替わり、しかし変わらず雨が降る。
   今度は青年となったこの邸の当主が、女性を組み敷いている。
   その右手には大振りの石。彼はまったくの無機質な、表情のない顔で、その石を静かに振り上げる。
   そして、振り下ろす。何度も、何度も。実の姉であるその女の頭に。
   鼻が、目が、頭蓋が、崩れる音は、雨に紛れてよく聞こえない。
   ただただ女性の整った美貌が、熟れた果肉が飛び散るように潰れ果てていくだけだ。
 この家の当主の記憶に呼応するように、探索者の奥底に眠っていた記憶が引き摺りだされます。
 探索者はRPによって、「一番苦痛だった記憶」を手に入れることができるでしょう。
 
9-1.アメリア・シザーフィールド
 探索に疲れて一旦応接間に帰ってみると、当主は紅茶を零したようで、
 服を着替えようとしているところでした。慌ててまた服を着てしまいますが、
 素早く注視をすれば、彼の胸元に「It's mine」と刻まれた傷が残っているのが分かります。
 彼に傷の理由を問いただすと、
 青年は嘆息した後、自らと姉の関係を、少しだけ話してくれるでしょう。

 この出来事があったあと、セッション中に「アメリア」の名を口にした探索者の耳にのみ、
 呼び声が聞こえてきます。呼び声の主=アメリアは、カーティスを殺して、
 自らが迎えに行けるようにしてくれと、訴えてきます。
 「アメリア」の名をはっきり口に出していなくても、GM判断で
 彼女に同情的である探索者を選んでも構いません。

 また、この場でも、先の応接間の会話でも可ですが、
 「呼び声」が《蜂蜜の様に》甘く、重かったことなどを話すと、
 彼はその呼び声の主が自身の姉であることに気付いてくれるかもしれません。
 すると、彼は諦めた様に笑って、懐からナイフを取り出し、こう言います。
  「やっぱりな、……いつか来るとは思ってたんだ」
  「姉さんが欲しいのは、《俺》だよ。探してるのは、返してほしいのは、……」
  「巻き込んじまって悪かったな。どうすればいいのかもう分かった」
  「どうせ死んでるような身体だ。今死んだって、大差ねえよ」
  「姉さん、おいでよ。……俺は、此処だよ」
 言い終わると、彼はそのナイフで自らの首をかき切ろうとします。
 それを止めるか止めないかで、ルートが分岐します。止める場合は敏捷対抗で成否判定。
 また、仮にRPによってアーネストが部屋を出て同行していた場合、
 彼が自殺を止めるので必然的に戦闘が開始されます。レンドの場合、彼は止めません。
  →止めない場合:彼の喉元から血潮が吹き出して、彼はゆっくりと横ざまに倒れていきます。
          死に絶えた彼の表情はどこかあどけなく、眠りについただけの様に映る。
          やがて「呼び声」がして、淡い光に包まれた金髪の女性が現れ、
          彼の頬に手を添えて、愛おしそうにゆっくりと撫でることでしょう。
          「ああ、やっと見つけた、私の愛しい、可愛い子……」
          「ありがとう、あなたたち。やっと取り戻せた」
          「ご褒美をあげるわ。よく働いてくれた」
          「元の世界に帰してあげる。ありがとう、ありがとう、……」
          やがて光が部屋中を満たし、探索者たちは意識を失います。
          目を覚ましたあと、探索者たちは酷い虚無感に襲われつつ、
          自分たちが各々の居場所に戻っていることに気付くでしょう。
          その際、森で呼び声と話した探索者がいれば、
          アイテム「セレーネの腕飾り」(※取得済み)がその手首に巻かれています。
  →止める場合:まずは当主と敏捷対抗(共闘時のステ)で審査。失敗した場合は止めなかったルートと同じ状態になります。
          彼の自殺を止めると、彼は意外そうな顔をして尋ねてきます。
         「どうして止めんだよ? 元の世界に帰れるんだぜ、」
         その言葉を遮る様に、暗く、何もかもを飲み込む様に重い光が部屋に現れ、
         「呼び声」と同じ声で探索者たちに告げます。
         「許さない、赦さないわ、《私の子》よ、今すぐに返せ!!」
         こうして「呼び声」との戦闘が開始、見事勝利できれば、
         シナリオクリアとなります。
         戦闘にはカーティスが必ず参加し、アーネスト/レンドのどちらかが
         同行していた場合、彼も参加します。
         他NPCは光に弾かれ参加できません。
         また、自殺を止めた探索者が全員でなかった場合には、
         止めてくれた者のうち1人に当主からお礼として「エンデュミオンの耳飾り」(※取得済み)が渡されます。
         戦闘に負け死んでしまった場合、もしくはカーティス(アーネスト/レンドが同行していた場合は彼も含む)が死んだ場合、クリア失敗となり、
         探索者たちは消えゆく意識のなかで、青年が姉に殺されるのを見る羽目になるでしょう。


9-2.アメリア・シザーフィールド
 ただし、第三の選択肢として、
 森で「呼び声の主」と会話した際、彼女が自らの狂気や過ちに、はたと気がつくような
 言葉を探索者がかけていた場合、応接間で彼女はその探索者に呼びかけながらも、
 自らがしようとしていることへの躊躇いを示します。
 そのとき、カーティスを殺そうとせず、見守るように説得すると、
 彼女は正気を取り戻すかもしれません。
 元の通りの穏やかで、心優しい女性に戻った彼女は、
 探索者たちの到来が姉の仕業だと悟ったカーティスが自殺を試みたとき、
 応接間に現れ、その手を止めます。
 今までの行いを悔いながら、「あなたの幸せを願う」と弟に告げると彼女は、
 暖かな光によって探索者たちを元の世界へ返すことでしょう。


10.NPC情報
 ◆カーティス・シザーフィールド(=当主様、ロード)
  この邸の主であり、アーネストの兄、アメリアの弟。
  背は181cm、脚が非常に長く、頭身が高い。
  人形めいて整った顔立ちに、湖の様な深い青の瞳。
  春の始めに降る霞を思わせる、柔らかな声をしている。
  所作や振る舞いは貴族らしいが、その割に言動が粗雑で荒っぽい。
  態度もフランクで、貴族扱いをされると多少嫌そうな顔をする。
  それは召使いたちに対しても同じだ。
  弟であるアーネストのことを可愛がっているようで、
  少しでも家族の話を振れば、
  彼が天才であること、ワガママで生意気だが放っておけないこと、
  自分と同じく星が好きなこと、綺麗な空色の目をしていることなどを
  嬉々として語るが、姉の話だけは決してしない。
  実は昔、秘密警察の構成員だった。そのため戦闘能力は常人離れしている。
  《リモート・コントロール》と呼ばれる電子や機械類の遠隔操作が可能な
  特殊機能障害(超能力)を持っている。
  【ステータス(敵対時)】HP30×PT人数/攻撃50/魔適30/耐久40/魔耐30/敏捷50
  【固有スキル(敵対時)】
  《リモート・コントロール》:自他問わず物理攻撃に光(雷)魔法属性を付与する。また、自身に付与した場合、能力のボーナスとして固定値が+5される。
  また、彼に与えた光(雷)属性魔法攻撃は吸収され、次ターンの彼の攻撃に固定値として上乗せされる。つまり実質、彼に物理攻撃は効かない。
  《スローモーション》:相手の直感回避、回避、あるいは回避に準ずる反応スキルに成否判定が設けられた場合出目に20プラスする。
  《2丁拳銃》:イニシアチブ1位をとった際に発動可能。
  攻撃回数が1d(PT人数)+PT人数となる。

  【ステータス(共闘時)】HP20×PT人数/攻撃20/魔適0/耐久10/魔耐10/敏捷25
  【固有スキル(共闘時)】
  《リモート・コントロール》:機械、あるいは身体の一部が機械である相手を1d3ターン戦闘不能にする。また、仮に電子機器である武器を保持する探索者がいた場合、その武器を破壊する。
  《スローモーション》:相手の回避率を無条件で20下げる。
  《2丁拳銃》:戦闘にてイニシアチブ1位を取った際自動発動。2回行動が可能となる。
  【装着スキル】
  精神分析50
  回避50
  攻撃_武器10
  攻撃_素手0
  防御_武器50
  見切り200(敵対時のみ)
  【所持品】
  ・汎用ナイフ:物理固定ダメージ固定値+4、受け流し可能。

 ◆アーネスト・シザーフィールド(=アーニー)
  兄のカーティスによく似た、しかしどこか少女的でもある容貌の青年。
  空を閉じ込めた硝子玉の様な瞳が特徴的。
  座っていると分からないが、立つとイメージよりは恐らくでかい(176cm)。
  天才的な頭脳を持つがコミュニケーション能力に支障があり、
  思ったことをすぐ言ってしまうので敵が多い。
  その割に寂しがり屋で人懐っこいので、懐柔するのは割と楽。
  口調は生意気な娘のよう。やけに論理的な言い回しをするのも特徴の一つ。
  仲良くなってから聞けば家族の話をしてくれるが、
  兄とは離別していた時期があるようで、その頃の話はあまりしたがらない。
  また、そのせいか姉についてはなぜか詳しくなく、
  兄と何やらあったらしいことは知っているが、何があったのかまでは知らない。
  【ステータス】Garden善陣営のアーネスト・シザーフィールドとリンク
  【固有スキル】
  《防衛本能》:Garden善陣営のアーネスト・シザーフィールドの同名記憶スキルと同効果。
  【装着スキル】
  回避40
  ヒーリング60
  魔法属性付与80
  月光蛾100
  【所持武器】
  ・汎用銃:物理固定ダメージ固定値+4
  (カーティスに対してのみ貸し出せる)

 ◆アメリア・シザーフィールド(=呼び声、呼び声の主)
  カーティス、アーネストの姉でシザーフィールド家長子。数年前に死亡。
  蜂蜜で紡いだような金髪に、サファイア色の瞳を持つ。
  本来は穏やかで心優しい女性であったが、卵子の死を知ってから発狂してしまい、
  以降、6歳年下の弟・カーティスに対して異常な執着心を抱いていた。
  二人の間にあったことは当時から当人と両親、一部の召使たちしか知らず、
  両親亡き今は余計にシザーフィールド家のタブーとなっている。
  【ステータス】HP10+10×探索者人数(NPCは含まない)/攻撃20/魔適20/物理無効/魔耐8/敏捷1
  【固有スキル】
  《子守唄》:イニシアチブが最下位であった場合自動発動。
        ランダムに選んだ1d2人の探索者を次のターン行動不能にし、
        彼らのターンに自身が攻撃する。
  《蜂蜜のネイル》:使用宣言が必要。物理ダメージに2d5加算する。
  《みんな私の子》:使用宣言したターンを含め2ターンの詠唱が必要。
           探索者全体に対して魔法攻撃1d魔適を行う。
  【装着スキル】
  回避50
  精神対話30
  呪詛70
  詠唱妨害80
  

 ◆ジョスリン
  現当主カーティスの親の代からシザーフィールド家に仕えていた執事。
  フランスの血が濃いらしく、アルファベットの発音がややフランス風。
  ロマンスグレーの素敵なおじさまと言った風情だが、
  若くして後を継いだ現当主のことをまだ子供扱いしたい気持ちがあるらしく
  その情とプロ意識との狭間で微妙に悩んでいる。時々カートのことを
  「ロード」ではなく「坊ちゃん」と呼びかけて慌てて言い直すことがある。
  【ステータス】HP40/攻撃15/魔適5/耐久10/魔耐10/敏捷15
  【固有スキル】なし
  【装着スキル】
  回避30
  攻撃_素手0
  攻撃_武器10
  防御_武器50
  受け流し_武器100
  気孔60
  庇う50(カートかアーニーに対してのみ
  【所持武器】
  ・装飾ナイフ:物理固定ダメージ固定値+4。
  小さいが固くて丈夫、ジョスリンの技術を持ってすれば受け流しに使える。

 ◆ルイ
  現当主の代からシザーフィールド家に仕えているお抱え庭師。
  明るい茶髪と少年のような幼い顔立ちが特徴的だが、
  年齢はアーネストと同じくらい。
  学はなく血気盛んだが、根はいいやつでお人好し。
  現当主カーティスの、身分に奢らぬフランクな態度や考え方を
  尊敬しているらしく、本気で慕っている様子。それゆえ、
  家紋にも描かれ家の象徴となっている白薔薇を荒らされたことが
  許せなかったようだ。
  【ステータス】HP1/攻撃1/魔適1/耐久1/魔耐1/敏捷5/回避SP20
  【固有スキル】なし

 ◆メイド四人集
  お話好きのメイドたち。メイド長のリリーと二番目に年上のイーリスは、
  先代からシザーフィールド家に仕えている。
  リリーは健康的に太った赤毛の女性で、幼くして両親を失った当主兄弟の
  母親代わりのつもりでいるらしく、言動にもそうした意識が目立つ。
  由貴はこの邸にいる唯一の日本人で、やや引っ込み思案だが、
  乙女思考のきらいがありロマンチックな話に弱い。当主様のことがちょっと好き。
  最年少のカルメンはスペイン人の陽気な娘で、
  艶やかな黒い巻き毛が特徴。おしゃべり好きなメイドたちの中でも最も話好きで、
  悪気はないらしいのだが、軽率にぺらぺらと色んなことを言ってしまう。
  四人全員が同ステータス。
  【ステータス】HP4/攻撃3/魔適1/耐久1/魔耐1/敏捷2/回避SP30
  【固有スキル】なし

11.クリア後
以下希少報酬。
(ぬいぐるみは除く。各一体しかないがその他希少報酬と共に持ち帰れるため希少報酬には含まない。)

*ノクタラーベ
・アーネストに天体の話を振る
・仲良くなる
以上二つの条件を満たせば入手可能。

元々は船上にて使用されたもの。夜、日時計の使えない時間帯に、北極星とおおぐま座の位置から現在時刻を知るために用いられた。
SP消費なしで「天啓」と「魔法属性付与」を使用できるようになる。


*ブラックベリーくん(※取得済み)
・アーネストと仲良くなる
・おみやげをねだる
以上二つの条件を満たせば取得可能。

つぶらなおめめに長い睫毛と、返り血のような模様が特徴の悪魔のぬいぐるみ。
あくまで苺の汁が飛んだという設定らしい。あくまで。
ライバルは天使のぬいぐるみ・ホワイトベリーちゃん。
なんか時々喋るとか、意志を持ってるとかいう噂がある。初級動物語があれば会話はできるかもしれない。
かなり大きなサイズなので、抱き枕代わりにも使えるだろう。


*ホワイトベリーちゃん
・レンドと仲良くなる
・おみやげをねだる
以上二つの条件を満たせば入手可能。

つぶらなおめめに長い睫毛と、青い返り血のついた棍棒が特徴の天使のぬいぐるみ。
あくまでブルーベリーの汁が飛んだという設定らしい。天使だが。
ライバルは悪魔のぬいぐるみ・ブラックベリーちゃん。
なんか時々喋るとか、意志を持ってるとかいう噂がある。初級動物語があれば会話はできるかもしれない。
かなり大きなサイズなので、抱き枕代わりにも使えるだろう。


*ナイト・マナーズ(Knight manners)
・レンドとともにシナリオをクリアする
以上の条件を満たせば取得可能。

銀細工で飾られた、恐ろしく鋭い短刀。
物理固定ダメージ+3
また、この短刀の所持者は、1d5+3魔耐が上がる。


*セレーネの腕飾り(※取得済み)
・森でアメリア(呼び声)と会話する
・カーティスに自殺させる(敏捷対抗で当主に負けて失敗した場合は含まない)
以上の条件を満たせば入手可能。

月の女神セレーネの聖獣である白馬のたてがみを三つ編みにし、ブレスレットにしたもの。
この腕飾りを持つ者は「甘言」の成功率がSP消費無しで20上がる。
また、1戦闘につき2d2だけ、魔法攻撃限定で1d5+5ダメージを減少させる。
使用可能回数は戦闘開始時に毎度振って決める。


*エンデュミオンの耳飾り(※取得済み)
・森で記憶を視る
・カーティスの自殺を止める
・アメリアに勝利する
以上三つの条件を満たせば入手可能。

月の女神セレーネに愛され、不老不死を願われた為に永遠の眠りにつくこととなった美青年エンデュミオン。彼の力が宿る耳飾り。
セッション時の実際の月齢に合わせて効果が変化する。
・新月(新月の日のみ):「隠れる」「隠す」をSP消費無しで使用可能。
・三日月(新月の前後5日間):月の光で出来た弓矢を生成可能に。光属性の魔法攻撃として1d魔適+4のダメージを与える。1戦闘で何度でも使用可能。
・半月(上弦の月から当日含めた後5日間/下弦の月の当日含めた前5日間):1戦闘につき1度だけ、1人の味方のHPを1d魔適+3だけ回復する。
・満月(満月当日+前後2日間):使用宣言が必要。宣言した戦闘において味方全員の魔耐を2d2上げる。また、相手の攻撃が闇属性の魔法攻撃であった場合、自身への攻撃に限り無条件でダメージを半減させる。
一度上げた魔耐は持ち主と行動を共にする限り継続するが、一度分かれると無効になり、再び掛け直す必要がある。

上記に指定のない日付は、GMがその日の月の形を見て判断してよい。
ただし使用者(GMではない)の居住地で悪天候などにより月が確認できなかった場合は、自動的に新月の効果となる。


*青薔薇の髪飾り
・絵画の意味を知る
・ルイからシザーフィールド家の紋章の話を聞く
・上記二つの情報を当主に話す
・探索者が(身体/心問わず)女性である
以上四つの条件を満たせば入手可能。

当主がくれる贈り物。青薔薇のドライフラワーを用いたコサージュ。黒いレースとパールがついている。
装着すると詠唱なしで「結界」の効果が付与される。
また、装着者の傍にいる人間もその恩恵を受けられる。
対象人数/使用可能回数はダメージを受けた際に判定する。


*青薔薇のリボルバー
・絵画の意味を知る
・ルイからシザーフィールド家の紋章の話を聞く
・上記二つの情報を当主に話す
・探索者が(身体/心問わず)男性である
以上四つの条件を満たせば入手可能。

当主がくれる贈り物。薄く青みがかったリボルバー。グリップに青薔薇の紋章が入っている。
魔法固定ダメージ+4。
この銃を用いての攻撃は氷属性魔法カウントになる。



追記:もし可能であれば、マザーグースの「My mother has killed me」をBGMとして使用できると、ヒントになってよいかもしれません。