blue-sky

 青。
 何処までも澄んでいて、透明に冷えた青。温度は無く、酸素も無い、無垢で清廉でそれ故に魚(うお)も棲めない。美しい青、――空を見上げると、俺は弟を思い出す。穢れなく、冷ややかで、だから誰の手も届かなかった寂しがり屋の俺の弟。口を開けば嫌味ばかりで、ほんとは優しいやつだけど不器用で伝えられなくて、だから俺だけは、アイツの傍に、“いてやりたかった”。 今、どうしてる?
 トリガーを指に引っ掛けてくるくると回す。グロック17。警官だった頃からずっと俺の相棒だ、コイツもそう。ブラウニング。いい銃だ、正直言えば、お前らも磨くだけにして仕舞っときたいがそうもいかない。毎日1ダース分の死体が墓場に埋まるこの街で、丸腰なんざ夢のまた夢だ。朝、小鳥のさえずりの代わりに悲鳴と銃声の響く街。――だがこんな街でも空は美しい。澄んで、青く、弟の、硝子のような眸(め)が閉じ込めていた空と同じ。
 今、どうしてる? ひとりぼっちで泣いてはいない?
 あの日。俺の「ただいま」に応えるひとは誰もいなくて、訝しみつつ家に上がれば両親の死体があった。母は喉笛を切り裂かれ部屋中に赤を撒き散らし、父はリビングに鮮血で水たまりを作ってた。俺は確かに、呆然としたが、それでも家中を見て回った、風呂も地下室も倉庫も全部、だけどどんなに探しても姉と弟の死体は、……無かった。
 誘拐?
 死んだ?
 まだ生きてる?
 何も分かっていない。父母が死に、姉と弟が消えてしまって俺一人ココに残された。そうして、これからも生きてく? いいや。俺の人生は終わりを迎える。深刻な病、だってさ。治る見込みはないそうだ。見える相手ならぶん殴るのに病気相手じゃそうもいかない、もうすぐ俺の電池は尽き、両親にも会いにいけるだろう、だけど、死ぬ前に“逢いたい”。“知りたい”。 アーニー、今何処に居る?
 生憎俺は神様に嫌われているらしい。だから幸せな結末はあんまり期待できねえけど、でも賭けてみたい。乗るか、反るかだ、だったら乗った方がいい、結末がどうなるにしたって、……賢者の石。賭ける価値はある。賢者はこんな馬鹿の俺でもちゃんともてなしてくれるだろうか? わかんねーけど、やる価値は。
 昔。お前は方向音痴で、よく道に迷って泣いてた。お前を迎えに行ってやるのはいつも俺だった、不平を言う俺に、母が必ず返してた台詞。 

「アンタ、お兄ちゃんでしょう?」



 そうだよ。だから迎えに行く。 天国でも地獄でも、お前がいる、その場所に。







【blue-sky】(形):[限定]無価値の;非現実的な