タイトルはまだ未定


転入、初日。
メフィーに色々(学校なんて通った事が無いから、授業の事とか)を又もやピンク尽くめの車内で丁寧に教えて貰って、不安で一杯だったけれど何事も無く今日の学校は終わった。
数学?とかさっぱりだったけれどクラスの子は親切で、世の中にはこんな人間が居るのかと驚いたりもした。
同情をされる訳でも無く、飽くまで同等の立場で扱ってくれる。
自分以外の人間と言えば両親たち位しか居なかったものだから、新しい発見ばかりの一日だった気がする。何とか、やって行けそう。
学校が終わって裏門へ向かうと其処には既にメフィーが腕組みをして待ち構えていた。
重たく感じる鞄を持ち直して、メフィー、と声を掛ける。


「初めての学校は如何でした?」

「思ったよりは良い場所だったよ」

「其れは何より。塾に行く準備は出来ていますか?」

「う、ん」

「不安ですかな?」

「…不安じゃないって言ったら、大嘘だね」

「ならば私も同伴致しましょう。…人慣れしていない貴女を一人残すのは私としても少々心許無い」


「アインス、ツヴァイ、ドライ☆」―――もう何度も耳にした言葉を唱えて、メフィーは指を鳴らした。いつもながら手袋で良く鳴らせるものだ。
其の長身が煙に包まれたかと思えば、その直後にメフィーは跡形も無くなっていた。
代わりに視界に映ったのは、白い小型犬。
目元が、メフィーにそっくりだ。と言うか何処をどう見てもメフィーそっくりだ。
そ…っと伸ばした手で、頭を撫でてみる。ふさふさだ。何て良い触り心地。
もふ、もふと何度か撫でた所で、犬…メフィー?が振り払う様に頭を振った。


「コラ、いつまで撫でているつもりですか」

「あ、やっぱりメフィーだったんだ」

「……一目で分かって頂けませんか」

「いや、メフィーがこんな可愛い犬に変身出来ると思わなくて」

「失敬ですね」

「だってほら…この睫毛!太太(ふてぶて)しい顔!か、わ、いー!!!」


ぽーん。
メフィーは私の手によって空高く飛び上がり、其の私の手によって受け止められた。
もしゃあっ。そんな擬音が付きそうな位に頬を押し上げ、これでもかと言う位撫で回した。出来る限りのことは…したと思う。
妙な達成感が私を包んでいた。メフィーの太太しい顔が更に歪んでいる。折角可愛い顔をしているんだから、あまり不細工にしないで欲しい。
ああ、もうずっとこうして居たい。メフィーがずっとこの姿で居てくれれば良いのに。不満げな様子は気にせず頬を擦りつけ、抱き抱えたまま歩き出す。


「…普段の私との扱いの差は何ですか」

「別に人型のメフィーは可愛くない」

「まあ可愛いと思われても複雑ですがね。…そんな事より、塾の鍵を差し上げましょう」

「そんな事…塾の、鍵?鍵閉まってるの?」


ふい、と腕の中に居るメフィーが鍵を差し向けた。
く、口に銜えてる…かわいい…何だこれ凄くかわいい……。
片手でメフィーを支えて、その鍵を摘んだ。至って普通の鍵だ。
まあ塾の鍵なのだから、特別製と言うことは…


「いえ。何処の扉からでも、その鍵を使えば塾に行く事が出来ます」


有ったらしい。
何と言うか、何処でもドア的なものなんだろうか。
世間知らずな私でも知っている、かの有名な。一緒くたにしたら怒られそうだ。
じっと鍵を見て、端から端までを念入りに観察する。
何所かが違うのかと思いきや、そんな事は無い様で。
流石メフィー、と思ったのは本人には告げずに置こうと思う。
どうせ返ってくるのは「当然です」、に違いない。


「取り敢えず…其処の体育館の扉を開けて御覧なさい」

「了解した」

「誰ですか」


抱えた腕の中で聞こえた言葉は聞かなかった事にして、私は傍に有った扉へ寄った。
鍵穴にゆっくりと鍵を差し込む。
カチ、と既に開いている筈の扉から金属音が生じ、恐る恐るノブを引いてみると其処はまさか体育館とは思えない別世界が広がっていた。
暗く高い天井に、外国の建物の様な内装。
何処かミステリアスな、怪しい雰囲気すら漂っている。
何と無くメフィーらしい場所だと思った。
人柄はこんな所まで影響するのか。正直胡散臭い。
もそもそとメフィーが蠢いて、床へと音も無く飛び降りた。


「案内します。一年生の授業は一一〇六号教室ですので、覚えておくように」


テテテ…と先を歩くメフィーの姿を眺めながら、見失わない様に薄暗い道を歩く。
かわいい…かわいすぎるあの歩き方とか…足が、足がもう可愛い。何あの生き物。何かあんなに可愛いと逆にムカついてくる。いっそペットにしたい。
扉の数がまるでメフィーの豪邸みたいだ。こんなに沢山どうするんだろう。
一般市民の家、の外で暮して来た私にとって此処最近は初めて見るものばかりで、毎日が新鮮だ。その見るものが、恐らくは殆どの人間にとっても珍しいものだと思う。
いつの間にやら立ち止まって居た白い毛だまりを発見して、駆け寄った。


「此処です」

「……何か緊張してきた」

「まあ、そう堅くならずとも学園よりは少数です」

「…そう言う問題かな……よし、入るよ」


ぐ、と力を込めたノブが酷く重く感じる。
特別上がり症だとか、人前が苦手だとかそんな事は無い。
ただ、メフィーに指摘された通り人慣れしていない所為か、どうも力が入り過ぎてしまうらしい。こうして過ごす内に治るものだとは、思うけれど。
ひとつ深呼吸して、それから扉を押し開けた。
開けた中は廃墟かと疑う程汚れ乱れ切った部屋で、一瞬間違えてしまったのではとメフィーを見たが彼は何を驚く事も無くまた先に行ってしまう。
扉の綺麗さとは裏腹な室内には、人が疎らに座っていた。
成程、確かに少ない。ざっと数えた所…8人、だろうか。
女子もそれなりに、どちらかと言えば男子の割合が多いみたいだ。
しかし、これだけ席が開いて居ると一体何処に座って良いものやら。
見回して見るけれど当然知り合いが居る訳でも無く、メフィーに問い掛けたくても今の姿ではしようにも出来ない。


「あんさん、此処座らはったら?」

「え…」


そんな事を言ったのは、誰か。
咄嗟に顔を上げると視線の先に居たのは…何とも表現しがたい、ピンクめいた茶髪の少年。此処、と指し示されたのはその少年の後ろの席。
どうしよう…と迷っているとメフィーがまたテテテ、と近付いて来て、かと思えばまた先を歩いて行ってしまった。
其れを追って歩いて行けば、まさかとは思ったけれど案の定その少年の示した席。
…此処に座れ、って事なんだろうか。
別にどちらでも良いけれど、集団で居座る人間はあまり好かない。
かと言って一匹狼を決め込んで居るのも如何なものかと思う訳だが。
好かないかどうかは、これからだ。私はまだ、人と言うものを知らない。
接していく内に、きっと分かる。
取り敢えずは、メフィーも居る事だし座る事に、した。


「あの…有難う」

「はっは、ええよー。困ってはるみたいやったし。…な、名前教えてくれん?」

「名前…?あ、ええと……みょうじ、なまえ。貴方は?」

「俺は志摩廉造…好きに呼んでくれはってええで」

「じゃあ…志、摩くんで」


笑みを絶やさずに体まで此方に向けている志摩、くん。
…駄目だ、始終笑顔の人間はどうも胡散臭く見えて仕方が無い。
決して志摩くんが悪い訳では無く、膝元に座るメフィーの所為である。
胡散臭さはどうか気の所為で有って欲しいと、こっそり祈っておく。
名前を訊かれた時、一番初めの苗字を名乗ったけれど、正しいのか否か。
学校も旧姓だから、多分問題は無い…と、思う。


「志摩くん!ええなぁ、何や新鮮な感じやね。俺はなまえちゃんて呼んでえぇ?つか、呼ぶ気満々やけど」

「え、あ、うん…どうぞ…」


ど、どうしよう。
何か思ったよりもフレンドリーだ…ぐいぐい来る彼に狼狽える事しか出来ない。
もっと社交性が有れば、こんな事にはならずにきっと笑顔で対応出来るのに。
それでも志摩くんは気に掛けた様子も無く、先へ先へと話題を続ける。
隣の友人らしい人はそんな志摩くんを、(いや私…じゃないよね?)呆れた風に見ている。
片方は勤勉そうに、もう片方は不良少年に見える。
けれど、外見で人は判断出来ないことを私は既に学んでいるので、多分内面は違うんだろう。主に、不良少年らしきひとは。


「志摩、そろそろ黙っとき。困っとるやろ」

「えーそんな事あらへんよなぁ、なまえちゃん?」

「(何、これ、…どうしろと?)や、その別に…あー…困って、は…」

「めっちゃ困っとるやんけ!」

「せやで、みょうじさん。無理しなはんな」

「あ、ありが…」

「ちょお子猫さんに坊まで!そらあんまりですわ…」

「阿呆か!こないに困っとんのにお前は気遣い出来ん奴やな」

「え、困っとった?」

「…済みません」

「いやいや、なまえちゃんは悪ないですわ。気ィ付かんでほんにごめんなぁ」


ど、どうしよう口が疲れてきた…普段喋らない所為だ。
おまけに顔の筋肉まで痛くなってくる始末。
これが人と関わって来なかった報いなんだろうか。痛い。つかれた。
志摩くんには申し訳無いけれど、首を振って意思の疎通を図る。
隣の不良少年が溜め息を吐いて、今度こそ呆れられたかと思えば何故か済まなそうに謝罪を口にした。何事かと目を白黒させて居れば、次いだのは予想外の一言。


「コイツ女子と見れば見境あらへん奴やさかいに、適当にあしらっておけばええで」

「(え、酷…くないか…どんな扱いだ…)」

「坊やってかわええ思た癖にー、硬派気取りはあきまへんえ?」

「うっさいわボケ、お前はちょお節度を持て!」

「あた!何も叩く事無いでしょ、もう…」

「自業自得やわ、志摩さん」

「子猫さんは意外と俺に厳しいんやね…」

「(楽しそう…だな)」


わいわいと騒がしくなる三人。
子猫?さんと坊?さんは何やかんやで楽しそうで、見ているこっちが和んでしまう。
話に混ざるよりも、今はまだ傍観している方が楽しいと思える。
メフィーが私を見上げて、こっそりと呟いた。


「どうやら友人には困らないようですな」

「…そうだと良いけど」


三人はまだ、楽しげに言い争っている。










タイトルはまだ未定
(私の物語は、また始まったばかり)













何だか大分長くなってしまった…。
やっとこさ京都三人組出せましたー(^ω^)ご満悦です。
しかし長い道のりだった…何故主人公が出て来ないんだろう…。
京都弁が難しくて時間かかりまくる。
2011.01.04



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