「あの馬鹿共はまだ学校に来てないのか」
「お前身も蓋も無いな」
「身はあるよ」
「そういう話してんじゃねえよ馬鹿」


くるくるくるくるくる、机に円を描く手は止まらない。苛立ちを示すようなひっきりなしに続くそれは苛立ちを増すばかり。勿論本人は分かっていないのだろうから、この際放っておこうと思う。適切な判断の出来るやつなんだ、俺は。周囲の考えなど知ったことか。丸めた教科書で諏訪の後頭部を叩く。案の定佐藤は焦り諏訪は怒りを露わにしたが、それでも俺のやった事に間違いはない。こんな事をいうとまるで正しいことを行っていると信じている馬鹿のようだが、誤解をしないように言っておく、俺は決して正しいと思ってはいない。ただ間違いではない。此処までくると後はもう理屈固めな訳だから、そろそろ思考をシャットダウンしよう。さて、俺の前には焦りつつも明らかに傍観者決め込んだ佐藤と、その当人である諏訪がいる。でもこいつは馬鹿だから、適当な事を言っておけば何とかなる。多分。


「おまえの為に菓子でも用意しているんじゃないか」
「……べ、別に期待はしていないけど」


ほら見ろ。やっぱり馬鹿じゃねえか。何照れてんだ気色悪いなこいつ。本当に無責任な事を言ってしまったが、あいつらなら何とかなるだろう。毎回毎回こいつを宥めて(と言う名の制裁)やってんだから、そのくらいはしてくれたって良いと思う。いつも通りなら菓子の一個くらい持ち歩いてんだろ。無くても作らせりゃいい。材料?買って来い。取り敢えず、こいつの円を描く手は止まった。あからさまに緩んだ表情はこの上無いほどに腹が立つのでもう見ないことにする。先ほどまでは来ない事に苛立ちを感じていた諏訪も、今は菓子を心待ちに今か今かと目を輝かせている。こう言うとき、こいつは馬鹿なんだと改めて思う。馬鹿だ。成績は俺たちの中で一番良い癖に馬鹿だ。だから俺はこいつが気に入らない。
どうしてこんな螺子飛びまくったやつなのに俺より成績優秀なんだ。まあそれについて文句を言うやつの方が気に入らないのだが。平介の事と言い諏訪の事と言い、まるで俺に人を見る目が無いみたいに言いやがって。こいつらと付き合う価値も無いと思っている奴ほど付き合う価値が無い。実際付き合わないが、顔を見る度文句を言ってやりたくなる。


「あ、来た」
「お、おはよう」
「なあ、なんか俺にその、無い?」


お前一体なに言ったの。そんな目が向けられた。視線を逸らす。佐藤がそばでチラシを広げた。あくまで諏訪には見えないように、背後で。菓子の写真が、至る所に掲載されているチラシ。平介は「あぁ、」と声も漏らすなり至極嫌そうな顔をしてそれから、バッグからクッキーを取り出した。袋詰めのクッキー。かなり丁寧にラッピングされている。貰った諏訪はすっかりご機嫌で、ありがとうを何度も繰り返す。意気揚々と席に戻るなり、大事そうにクッキーを一枚一枚食べ始めた。


「お前あれなに?」
「市販のクッキーだけど」
「馬鹿じゃん」
「え、俺が?」
「いやいやお前じゃなくてね、」


「諏訪がさ」








手遅れみたいです
(アイツの頭の螺子はとうの昔に
どっかの誰かが棄ててしまったんだ)




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