閉じる瞼に、



To 藤
Title (non title)
 [Massgae]
悪い藤、遅れた!
俺いま友達の家来てんだけど、
雨やら風やらで帰れそうにねーんだ。
本当藤とメールしてえけど、
兎チャンが居るから今日はコレで。
んじゃまたなー


「兎チャンキモッ」


開口一番に出て来た素直な感想は俺の心に深く突き刺さった。
言わずもがな、自業自得だ。
あれから安田のお母様(恥ずかしいから止めろって言われたんだっけ、安田に)にその旨を伝えて数時間。
AKYのDVDを聴いたり少しゲームしたり昼寝したりして見たけど、結局雨は止まないままだった。
仕方無く(安田母は大歓迎)、安田の家に泊まらせて貰う事になった。
家を近いから帰ると申し出たけど危ないからと彼是理由を付けられて帰る奴なんて居ないと思う。安田自身も泊まれば、と同意していたようだった。
とりあえず先に風呂を借りる事にした俺は、浴槽に肩まで漬かっている。
自分の家とは違う、内装の華やかな風呂場は何だか落ち着かない。
自宅の風呂場や洗面所に限らずトイレやキッチンまでシンプルで固めてある―――母親の趣味だ―――来訪者には、中々珍しいらしい。
俺もずっとその環境で育った所為か、自室の家具は全て白黒、カーテンのみが鮮やかな緑だった。その方が不思議と、しっくりくる。

十分に温まったあと、先に置かれたバスタオルで体を拭いて、それから借りた安田のジャージやらを着込む。
何となく申し訳無くて、何度も良いのかと聞いたけど安田はうんざりしたように何度も了承してくれたから良しとした。
バスタオルは肩に掛けたままで髪から滴る水滴の受け皿にしている。
藤くらいの髪の長さが有るから乾くのは早いにしろ、下に垂れる可能性は否めない。
人の家でそんな不躾はしたくない、と言う理由の上での行為だ。
風呂を出ると安田がコップを二つ持って階段を上がる所だった。


「お前結構長風呂だな」

「そうか?」

「俺なんか15分くらいだぞ」

「お前が早過ぎるんだろ」

「そうか?」


気の抜けるような会話をした後、安田の部屋に入る。
相変わらず(そりゃ当然なんだけど、)熱子ちゃんだらけの部屋が俺の視界いっぱいに広がった。
俺だったら絶対落ち着いて眠れねーのにな、と思う。嫌でも熱子ちゃんの夢を見そうだ。安田にとっては幸福なんだろうが、藤と同じく寝る事が好きな俺にとっては正直あんまり眼中に無い事。
ああ、だから俺は藤と仲が良いのか、とか論点のずれた結論に独りごちに頷いて、またあのクッションに座った。
安田がファッション雑誌(珍しいな、つか持ってるんだ…)をベッドに放って、それからコップに入った炭酸を一口飲んだ。


「俺風呂入って来る。…部屋あんま漁んなよ」


そう一言釘を刺して、部屋から出て行く。
何で今日の安田は違和感だらけなんだろう。変、としか言い様が無い。
何かヤケに静かだし口数は少ないし二割増しくらいでイケメンに見える(多分)。
黙ってりゃイケメンだって、こんな時に発揮しなくても良い。
寧ろお前の為にはならないんだと声を大にして言ってやりたい。
コイツ使い所間違ってんだって、俺をドギマギさせてどうするつもりなんだよ?
はあ、と静かな部屋に溜め息が沈む。何すりゃいんだろ。
あ、そうだそう言えばウォークマン持って来てたな。思い出して、服のポケットを漁る。コードを引っ張るとオレンジ色のウォークマンが姿を現した。
耳にイヤホンを突っ込んでから携帯を見ると、藤からのメール着信が一件。
パチリと引っ掛かるような音に次いでそれが開いた。


From 藤
Title (non title)
 [Massgae]
別に構わねーよ。
俺寝てたし…つか兎ってダレ?
まー良いや、じゃあな。おやすみ。


素っ気無い文面に思わず笑みが浮かぶ。素っ気無い藤は落ち着くのに、安田は不安になる。まあ多分安田みたいな藤は落ち付かねーからそんなモンなんだろうと思う。
耳を支配するのはNickel backのTo bad。洋楽は歌詞が頭に入って来ないからすげー安心して、段々意識を深い海に落としていく。
うと、と揺れた視界に映ったのは、熱子ちゃんだった。
俺の嘘吐き、超安心してんじゃねーかよ。




(安田side)


部屋に入って先ず最初に映ったのは、浅羽の姿。で、出たぞーっつったのに無反応だから近付いたらコイツはすうすう寝てやがった。昼寝したのに良く眠れんな。
恐る恐る顔を覗き込んで見ても起きる気配は無い。…と思ったら音楽聴いてんのかよ。
ウォークマンの画面を確認すると、現れたのはNickel backに続くTo bad。こっそりAKY聴けよと思ったけどまあ、良いか。
このNickel backってグループ(なのか?)のCDは今度買って見るか。別にアイツと同じ音楽をウォークマンに入れたい訳じゃねーけど。
しかしコイツ本当に良く寝てんな。ベッドに寄り掛かった状態で、クッションの上で、熱子のクッションを抱き締めて寝ている。
くそう、拷問かよ…!!それとも襲って下さいってサインか!?まあコイツに限ってそれは先ず無いから、悲しいけど意識もされてねーだろうし。
そりゃ俺もコイツも男な訳だから意識も何もねーよな。あー畜生、浅羽が女なら何の弊害も無かったのによ。でも俺は、……仕方無いよな?
もう乾いたらしい髪の毛は艶が出来ていて、本好を連想させる。ダメだ、アイツの事考えると悲しくなる。何でアイツって俺にあんな冷たい訳…?ちょっと美作が羨ましい。
まあ本好の事なんか考えたって仕方ねーから、止めとくか。俺のハート的にもキツイ。

でも浅羽の髪はどうしようも無く特別なものに思える。
黒髪なんか鏑木兄弟とか本好とか、そこ等中に居んのに。
熱子だって、どう見ても黒髪だ。
なのに浅羽の髪はどれよりも綺麗で、尊くて、繊細なんだ。あの、熱子よりも。
そっと触って見るとふわふわしてて、でもさらさらで、俺とは髪質が違う。
俺と同じシャンプー使ったから今日の浅羽は同じ香りがする筈なのに、俺よりもずっと良い香りがする。
こう、落ち着くっつーか、(寧ろ下半身が不味いっつーか、まあ、)何とも言えない。
暫く堪能した後に肌に目を移した。コイツ滅茶苦茶色白くねえ…?!
信じらんねーよ、何この…あああああ何で所々本好と似てんの?!解せねえ!!
でもやっぱコイツのは、全部特別だ。何がかは、分からん。
けどすげー肌も木目細かくて何コイツ女なの。バカなの、しぬの?――じゃなくて。
さわって見ればこれまたさらさらで、良い匂いとかしちゃって。
柔らかくて、変な気分になってくる。俺今コイツと恋人だったら確実に押し倒すね。
だってこんな無防備なんだ、襲って欲しいんだろ!!…とかまあそんな肝据わってねーから言わねーしい言えねーけど!
藤よりはイケメンじゃねー、でも女顔かって言われりゃそんな事は無い。
でもとにかく、美術館にでも飾られてんじゃねーかと思うくらい綺麗で。
瞼も長いし…唇なんか、ああくそ俺のチキン、あぁああああこう、貪りたい!!邪だってマジ駄目だって分かってんのにキスしたくて、どうしようも無くなる―――ような。
コイツにキスしたら、どんな顔すんだろうな。怒るか、それとも驚くか、照れるか。
普通は驚くよな。男にキスなんてされる訳ねえし。
抱き締めてキスして頭撫でて。あーくそ、こういうのって女の子とするモンだよなあ、俺変だよ、な。今までは熱子だったのにいつのまにかそう言う想像は全部コイツで。
もう自分で考えてて恥ずかしいっつーの。こんな相談、誰にも出来ねーし。
浅羽は俺の事どう思ってんのかとか(友人、が妥当だよなぁ)、どうやって告白するか(俺もアイツも、男だし)、どうやって気を引くかとか(格好良いとか、思うのか?)、訊きたい事だらけなのに。何で浅羽なんか好きになったんだろうな。

どくんどくんと心臓の鼓動が煩い。それこそ、コイツが起きるんじゃねーかって想像させるくらい。多分俺、今すげー緊張してて、顔とか赤いんだろうな。
でも仕方ねーよ、だって浅羽の所為だし、とか間違っても言えないけどさ。
ああ、もう、俺女々しいよマジで。こんなに、もう、コレが、そうなのか。

なあ今すぐ言ってやりてーよ。
浅羽、俺―――


閉じる瞼に、
(唇を、落とした)

(なぁ俺、おかしくなりそう)










安田もだもだ編でした。
取り敢えず安田のエロ具合が出し切れてないと思うのは
私だけなんだろうか…?!
もっとこう!安田らしくしたいのにどんどん女々しく
なってああぁあゴメンナサイゴメンナサイ!!

頑張れ私、そして安田…!!





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