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「先輩?」 「ひょげ!うわああ済みません御免なさいしがない一般市民ですので殺しても何も面白くないですよ!」 「…何言ってんですか。俺ですよ、小西です。小西尚紀」 「!…あ、本当だ。お見苦しいところを」 「いや、そんな畏まらなくても。つか先輩何してるんですか?こんな時間に、危ないですよ」 「いやあ、…散歩?調子乗って此処まで来たんだけど戻れなくて」 ああもう一生の不覚。依りによって尚紀に会ってしまうなんて。しかもひょげ!とか言っちゃったし。ああ恥ずかしい!嬉しいけど泣きたいよ!でも心配してくれるなんてやっぱり尚紀はいい子だ!可愛いし!もうどうしよう、そう思ったらあんまり気にならなくなってきたかも。いっそどさくさに紛れて押し倒したいげふん。スウェットにTシャツ姿の尚紀、いつもと違う感じがして是非写真に収めたい。あ、にやにやしてるのに気付かれた。駄目駄目、完二とか足立さんは兎も角、尚紀の前ではマトモな私で居るんだから。せめて純粋な子の前では正当な先輩で、とそのくらいの思考能力は私にもある。 「あの」 「はい、何でしょう?」 「俺、送って行きますよ。先輩とは言え女の人ですし…最近物騒でしょ」 「え、あ…良いの?」 と、言うか。もう既に内心滅茶苦茶舞い上がっているし、鼻血噴き放題だけど良いの?こんな変態と歩いてたら寧ろ尚紀が危ないよ?…とはとても言えないし、此処はお言葉に甘えようかな。尚紀もお姉さんが居なくなったから余計心配なんだろうし。断ったら申し訳ないよね、よし、送って行って貰おう。ああコレ何て乙ゲ。有難う物騒な八十稲葉。有難う連続殺人犯。役得過ぎやしないかな、私。幸せ過ぎるんだけど、どうしよう。手を差し出してくる尚紀を襲えるならもっと役得だけどね!でも流石にそこまで神様は優しくないか、殺人犯に捕まらなかった事と尚紀に送って貰えるだけで満足しておこう。 「俺が送るって言ってるんだから駄目な訳ないじゃないですか。…行きますよ」 「いえ、っさー…」 「…先輩って思ったより…」 「思ったより?」 「いや、もっと大人しいかと」 「済みませんねー、期待裏切っちゃって」 「元々期待はしてないですけどね」 「うっ」 「けど俺は、明るい方が好きですよ」 へら、と気の抜けた笑顔が年相応の少年の顔で、とても可愛らしくて。思わず言葉を詰まらせた。こんなに物騒な八十稲葉。こんなに純粋で優しい少年から家族を奪ったなんて、なんて酷い世の中なんだと頭の片隅にぼんやりと浮かぶ。その思考に意識を集中させて見たけれど、どうしてか血が流れる音が酷く鼓膜を震わせるものだから、結局上手く働いてはくれなかった。 ちょっとだけ期待した自分が居る (あーあ、家に帰りたくないよ) 小西くんの可愛さは正義だと思う。そしてやっと割とマトモになったな主人公。…気の所為だね! 2011/09/22:加筆修正 |