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「鮫川、って……此処からどの位だっけ」 10分位だったっけ。割と近かった気がする。お金は1000円位持ってるし、少し遅くなっても屋台で買えば何とかなる。それよりも、祭りに行くのかが気になる所では有るけど。取り敢えず待たせるのも忍び無い。まだ時間は有るから大丈夫だとは思うけど…早く行き過ぎて変に期待していると思われても癪だ。これは、多分…周りには悪いけど、私にとって夏を盛り上げる一つのイベントとしか思えない。それ以上でもそれ以下でも無くて、確かに大事では有るけどきっと、私の人生を左右する程の事じゃない。…今は、そう思える。後々どうなるかなんて予測も出来ないからそう結論付けた。 「57分…まあまあだな。…あれ、足立さん…?」 鮫川を土手から見下ろすと、川原に見覚えのある髪に見覚えの無い服が見えた。スーツじゃない。かと言って甚兵衛とか、浴衣でも無い。ただのシャツに、ジーンズに見える。流石に足立さんのそう言う格好は期待もしていなかったから、良いんだけど。こっそりと足音を立てないように背後から近付いて、あと数歩の場所で足立さんが振り向いた。何故バレたし……!! 「バレバレだよ」 「ぐう…!…って言うか、今日私服ですね。非番ですか?」 「うん、まあね。…そう言う君は浴衣じゃないんだね」 「あれ借り物ですし正直面倒なんで」 「君もうちょっとさあ、『どんな服着て行こう…』とか考えない訳?」 「もっと可愛い格好が良かったですか」 「可愛い…うん、そうだなあ…昨日の浴衣は普通に可愛かったかもね」 「いまいち褒められてる感じしないんですけど…」 「図々しいな」 「いやいやそんな」 「何で今のは褒め言葉として受け取ったの?」 「わざとですよ」 「…まあ君がどんな格好で来ようが僕は構わないけど」 「じゃあ良いじゃないすか。…って言うか、何で鮫川?」 よいしょ、と(おっさんくさ!)その場に座り込んだ足立さんを、見下ろす形で尋ねた。気恥しかったから、とかは、先ず考えられない。多分千枝とかならそう思うんだろうけど、普段の足立さんを見ているとそうは思えない。きっと普段の足立さんも、半分も知ってない。だから余計に理由が汲み取れなくて凄く困惑した。絶対に言わないけど、驚いたし緊張もした。昨晩色々考えたけど、もしかしたら。もしかしたら、足立さんが好きなのかも知れない。あくまで「もしかしたら」だけど。その域は、出ない。何せ本気で人を好きになったことが無いから(愛でるだけで)何がどうなのかさっぱりだ。けど足立さんに嫌われたら悲しいから、多分好きなんじゃ…?とか短絡的な思考で考えた。月森は良く分かってると思ったから訊こうかとしたけどやっぱり止めた。嫌な予感しかしなかった。昨日のグラビアの件も心配だし。 「祭りで人来ないと思ったからだけど」 「へえ」 「………」 「…………………」 「…………………………」 「………済みません何か喋ってください」 「わあー暑いなあ」 「ぶっ飛ばして良いんですね」 「何かって言ったじゃん!話題指定はされてないよ!」 「空気読めよこのKYキャベツ!」 「煩いな!君を気遣ってあげてたんじゃないか!」 「何で!」 「だって君、どう思われてるか知りたいんでしょ?」 「あれはりせちゃんが勝手に…!」 「勝手に?じゃあ言わなくても良いの?」 「そ、それは…」 「ほらね」 むかつくこのキャベツ絶対刻んでやりたい。 って言うか刻まれろ。 シュレッダーで刻まれろ。 塵になれks。 「君はさ、僕の事…どう思ってんの?」 「何その間気持ち悪い。…まあ、嫌いじゃないです。少なくとも好きの部類には入るくらいに」 「…凄いグサっと来たんだけど」 「嫌いじゃないです」 「……そっか」 「はい。…あの」 「ん?なに?」 「言うなら早く言って下さい…無駄に緊張するん、で」 「ぷっ…いったあ殴る事ないじゃん!」 「済みません手が勝手に」 「…いつもの君は何処行ったんだか」 「何ですかいつもの私が良いですかあー足立さん可愛い私服最高ですねはあはあちょっと煙草の匂いしますけど吸うんですね意外と大人っぽいところもあるなんて本当足立さん素敵過ぎて鼻血が出そうです」 「ゴメンやっぱりやめて」 「…早くして下さい」 あぁあああ!もうちっくしょうこっちの気も知らないで!大人の余裕か?!大人の余裕なのか!腹立つ!いつも可愛いなあとか思ってた足立さんが今日に限って格好良く見えるなんてそろそろ私の目は腐ってきたみたいだ!何でそんな適当な着方してるんですか、ネクタイしてないから鎖骨見えてますよはあはあ!けしからん!そんな訳で視線は鮫川に向けて三回目くらいの催促。小さく足立さんの溜息が聞こえて、ちょっと焦り過ぎたかなんて思う。もうそろそろ自覚が出てきた。多分、足立さんの事が好きだ。友情じゃない、あやふやな恋心として。私ってこんな恥ずかしい奴だったのか。 「そうだねえ。…まあ僕も嫌いじゃないよ。好きの部類に入る」 何だか真似されているみたいで、足立さんを向くと含み笑いをしていた。至極愉快そうにくつくつと喉奧で笑いを噛み殺している。…何だこの人。 「もう一回訊くけど」 「はい」 「君は、僕の事が好き?嫌い?」 「何で二択…」 「どっち」 それってもしかして、曖昧な返事じゃなくて決定的な、確定された答えを求めてるんだろうか。好きか嫌いか。今の私は、確実に好きだ。けれど、今言うのは恥ずかしい。恥ずかしいと言うか、形容し難い感情がぐるぐる廻っている。足立さんは、私をじっと見ている。やめて欲しい。卒倒、しそう。だ。数歩足を引くと、足立さんも数歩足を出した。何、コレ?鬼ごっこか何か?今の彼は質は良いにしろ月森そっくりだ。嫌なものを思い出した。月森。死にそうだ。でもきっとこれは、言わなければ帰れさえしないんだろう。ううう、この人も案外質が悪い。前言撤回だ。どうしてくれよう、ドキバキと変な音を立てる心臓を。いっそ止まってしまえ、と叫びたい。こんなに逃げ出したい状況に立たされたのは久々だ。どうしよう。どうしよう。答えなければ。声が、震える。私らしくない。顔が熱い。変だ。ふわふわする。何女の子してるんだ、私は。一言、言えば良いじゃないか。それこそ、友人に言うときみたいに。そうだ、完二に言ってるみたいに。息を深く、吸った。 「…き…」 「聞こえないよ」 「好きです、って言ってんだキャベツ!」 「あはははは!合格ー!」 「……は、あ?」 「あはは、良く言えました。…まさか本当にそうだとは思わなかったけど…」 「何、が…」 頭をわしわし撫でられて(ああくそ、私も足立さんの頭撫でたい!)気付けば背中に腕が回っていた。何だ、この、状況は。息が詰まる。頭が回らない。私は、足立さんに抱き締められてる?凄くふんわりした、落ち付く香りが鼻を擽る。変態くさいな私。とにかくこれは、どう、すれば。足立さんが、何で、こんな。 「僕も君の事は嫌いじゃない…って言うかまあ、好きだよ」 「なっ…はあ?揶揄ってるんですか」 「それでも良いけど。君が良いならね」 「…足立さんて少し月森に似てますよね」 「君程じゃないと思うけど」 「なぬっ」 良く分からないけど、晴れて恋人です (これを二人に報告するのか…嫌だ) 甘くない…w ただ主人公が一人でパニクって恥ずかしい事してるだけですね。 足立さんの本心が分からない! 次どうしよう! |