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突然掛かって来た電話、声の主は雪子。突然何かと思えば浴衣の着付けするよとか何とか。え、ちょ私浴衣とか持って無いんだけどって言ったら普通に貸すよってあぁ流石旅館。しかし浴衣なんてもう何年も着てないからちょっと恥ずかしいんだがどうするこれオイ。いつものメンバーなのは分かってるけど其れがより羞恥心を煽ってると言うか、さあ…!ぐるぐる色々考えている内に気付けば何とも可愛いらしい薄い桃色で垂れ桜の描かれた浴衣を着ていた。おお、何ってこった私には勿体無い。しかしみんな可愛いなちくしょう…!悔しくないよ可愛過ぎて鼻血出そうなだけだし!?何文句!?へいカモン受けて立っつぜーい!


「……大丈夫?」

「ええ、はい…いつも通りで済みません」

「いや、良いけど…行くよ?」


ああだこうだ言いながら祭に、と言うか祭なの超初耳なんですがどうすれば良い!?祭!?何ソレ超夏の思い出に最適☆じゃねえかよォオオオ!!ええ、まあ、一緒に歩いて手なんか繋いであははうふふな関係の奴は居ませんけどね別に悔しく無いよ完二が私服なのには流石に泣いたけどね!ぁああ完二お前の浴衣に期待してた私の心を返せ!おや、私が一人で叫んでる(心の中で)間にクマくんやらとみんなが行ってしまったよ、あれ、ちょ、……うん、置いて行かれた。しかし私は負けないよ。花村くん命名の超力疾走でみんなの元へ走った。背後から完二の「下駄なんスから転ばないように気ィ付けて下さい!」と言う声と「こーろーべ!こーろーべ!」と言う月森の声が聞こえたけどBGMになってる後者はシカトしよう。うん。聞こえない。転べって…何で顔は良いのに性格はそんなに容赦無く破滅的なんだよ!


「はあ、はあ……」

「あれ、なまえチャン来たクマか?」

「ええ…済みません来てしまって…」

「むむー、何でそんなに卑屈なんだクマ…?」

「いや…って言うか誰ですか?クマくんって言ってましたけど…あだ名?」

「あ、先輩知らないんだっけ」

「…そう、だよね!そう言えば」

「クマは熊田、って言うの。だから、クマ」

「へえ…」


そんな明らかな和名でとかはツッコんじゃいけないのかな…いけない雰囲気だ。だってこのクマって人(あぁええと、クマダさん。)、は金髪じゃないか。怪しい。怪し過ぎる…幾らジュネスのマスコットやってるからって、変だ。何か隠し事をしているんだろうか。けど、あんまり詮索はしない方が良さそうだなあ。世の中には関わるべき事と、関わらない方が良い事が有る。これは、関わらない方が良いんだ。面倒な事になりそうだし。


「ふーん……まあ、宜しくねクマくん」

「おっすー!宜しくするクマ!」

「うん」


あ、千枝が「よかった…」みたいな顔した。詮索されなかったから、かな。じゃあやっぱり何か隠してるんだ。私のこの観察力は方の何かに役立たないのか。


「…あ、射的したいな」

「え、マジ?」

「うん、マジ」

「おお〜!クマも、シャテキしたいクマ!」


射的の意味分かってんのかな…怖いな、打たれそう。


「よし、ライフルは銃身が長いし命中し易い…いつも思うけど有り難いよね」

「何でちょっと銃に詳しいの?」

「私偶にだいだら.さん行くから」

「何しに…?」

「え、あそこ行ってする事と言ったら一つでしょ…よし、あのキャベツセットをブチ抜いてキャベツ野郎にくれてやる…」

「せ、先輩買ったもので何かしてる…?」

「偶に…警察行って足立さんとこっそり射撃練習してる」

「えっ、それ大丈夫なの!?って言うか足立さん大丈夫なの?見付からない?」

「今の所は」


小気味の良い音に伴ってキャベツセットの箱が倒れた。よし、上手く当たったみたいだ。重そうだから少しキツいかと思ったけど、案外簡単だった。しかしこの、クマくんは大丈夫かな。予想外に打てては居るけど、正直怖い。的に当たってないのが怖い。あ、屋台の人が止めに入った。


「どーしてクマ!クマやれるクマよ!」

「クマくん、何が欲しいの?」

「グラビア」


今凄く似つかわしく無い単語が聞こえたんだけど、気の所為だよね…?「グラビア」…って月森じゃ無いんだから。アイツなら絶対自分で打ち落とすけど、目的は一緒になりそうだ。取り敢えず指差されたグラビアに狙いを付けた。銃口は真っ直ぐそちらへ、引き金に人差し指を掛ける。水着姿のグラビアアイドルを、打ち抜いた。ぱたん、と音を立てて後ろへ倒れる。よし、ちょろかったな。強いて言うなら人間を的にって言う事に罪悪感が…!
おおー!と言うクマくんの歓喜の声が上がって、私は受け取ったグラビア(雑誌とか、色々袋詰め)をクマくんに渡す。つーか普通祭りの景品にグラビア持ってくるか?誰得だよ。続いて紙袋に入ったキャベツセット(野菜セット、かな)を受け取った。一発だからかなりお得だ。後でクジも引こう。景品は…何だっけ。一先ず雪子の提案でかき氷を買って、少し休む事になった。


「都会ってなかなかこう言う祭が無いから、何か新鮮で楽しいねー」

「人もそんなに多くないし」

「うんうん。…あ、あれ先輩たちじゃない?」

「何か…花村くん凄い色々持ってない?荷物持ち?」


りせちゃんが指を差した方には確かに月森たちが居る。両腕にビニール袋を下げ、手にはかき氷が2つと明らかに荷物を持たされているらしい。ああ可哀想に、月森だなあれは。何で完二じゃなくて花村くんなんだアイツ。鬼畜野郎め。知ってたけどドS過ぎる。相棒、基親友を利用するなんてあいつは悪魔…いや、大王?鬼?もう最強最悪な悪役だ。そんな事は口が裂けても言えないけど、あいつの前で言ったら確実にボコボコだ。ボコボコ所かズタズタのぐちゃぐちゃだ。形が残れば良い方だと思う。ううう、恐ろしいやつだ。


「あれ、クマは?」

「…クマくん?」


気付くと側に居た筈のクマが居ない。と、月森たちの方へ視線を寄せればクマくんがグラビアを掲げて居た。うわあ、何自慢?私に取って貰ったって絶対言ってますよね?え、ちょ嫌だ何あの月森の嬉しそうな顔。にやあ、と凄まじくいやらしい笑みを浮かべて私を見た。咄嗟に視線を逸らす。暫くはあれをネタにいじられそうだ。くそ、こっちもアイツの弱みを握らないと…!


「…ま、あそこならいっか」

「ね、ね。先輩っていつも完二と一緒に居るけど、完二の事好きなの?この間もアイスで粘ってたし…」

「へ?」

「あー、確かにいつも完二くんに張り付いてるよねー。で、どうなの?」

「ゆ、雪子ー!」

「ご、ごめん…私もちょっと、気になるかも…」

「そんなっ!…うーん…完二の事は好きだけど、何て言うか…弟に近いかなぁ。尚紀もそうだし…」

「じゃあ足立さんは?」

「あだっ」

「確かに足立さんは弟って感じでは無いよねー」

「って言うか寧ろお兄さんでしょ。…足立さんがお兄さんって、頼り無いけど」


質問をされているのは私の筈なのにどんどん話が進んでいく。完二で終わりじゃないの?まだ何か訊かれるのか?って言うか何この恋バナ的な…!むず痒い!!鳥肌立つよ!だって私そう言うキャラじゃないしっ!それなら三人の話聞いた方がまだ楽しいと思う訳ですよ私は。…どうか月森の名前が出てこない事を祈るばかりだけど。だってアイツ女癖悪いし。(私は手を出されてないけどね!嬉しいような悔しいような…)あんな男に引っ掛かっちゃ駄目だよ。とか、まあもし付き合ってたりしたら申し訳無いから言わないけどさ。あー嫌だ、恋バナなんて無縁だと思ってたのに!…けど、足立さんか。最近会って無いなー、とかついこの間思ったばっかりだ。別に会わないのは良いけど(真面目に仕事してるみたいだし)、何が悲しかったんだろう私は。嬉し泣き?禿げるから泣いたのか?でも今のところ毛根は消滅してない。完二の手早い対処で何とか救出出来たらしい。有難う完二、今度何か買ってあげよう。フェルトとかが良いのかな。誕生日はまだまだだった筈。


「なまえ?」

「はい!何ですか!ぼうっとしてました!」

「見れば分かる。…で、結局のところ足立さんとはどうなの?」

「どうなのって言われても…普通?足立さんとは良い友達…じゃないな、何だろう。少なくとも足立さんは何も思ってないと思うなー、10以上離れてるし」

「愛さえあれば歳の差なんて関係無し!」

「愛が有ればだろ、無いしw」

「わっかんないよー?」

「分かる分かる、じゃあ今度訊いてみればいいよ」

「訊いて教えてくれるのかな、それ」

「…さあ……」

「先輩はどうなんですか?さっきはぐらかしたでしょ」

「げ、バレた。でも本当…んー……何も思ってない…いや…」

「え、脈あり?」

「足立さん最近可愛くないし…寝癖と猫っ毛は最高に可愛いし鼻血ものだけどね、けどこの間は…」

「この間は?」

「…うーん……頭痛くなってきた」

「何でよっ」

「いやだって良く分かんないし…」


本当に頭痛い。月森の相手をしてる時くらい頭痛い。足立さんは?足立さんはどう思ってる?あんな冷たい顔で、あんな冷めた視線で、あんな嫌悪に歪んだ声で。…私を好いてるとは到底思えないし、何よりガキガキ言ってる人が年下を好きになるんだろうか。と言うか、足立さんが私を好きだったら何かなるんだろうか。わからない。付き合う、とかは全然考えられない。私は?私は足立さんをどう思ってる?好きか嫌いかと言われれば好きな部類に入る。最初は可愛くて堪らなかった。寝癖猫っ毛、曲ったネクタイ、陽気な声に実は冷たい部分も有って、飄々としてたりあからさまに間抜けだったり。掴み所の無いところがまた魅力だとは思うけど、でも此れは―――


「あ、噂をすれば足立さん」

「なんですと!ちょちょちょ、私あのアレ、くじ、引いて来るから!」

「えー、折角だから訊いてみようよ!」

「私がか?!私がどう思ってるか訊いてみるのか?!」


嫌いじゃない、とかなら未だしも別に、とかどうも思ってない、とか嫌い、とか言われたら立ち直れる気がしない。勝手に愛でてるんだし、別にどう思われてるかなんてどうでも良いのに、無理だ、そんなの。耐えられる自信がない。これは、まさか、だけど。


「……あれ、君ら月森くんたちと一緒じゃないの?」

「あ、はい、別行動で…強制的に」

「こう言うのはさ、男女一組ー、とかで分かれるモンでしょ」

「うーん、気付いたら、みたいなー…あはは」

「ほら先輩、訊いてみようよ!」

「イヤ、イイですマジで…!」


取り敢えずなんとかしないと。これは私が訊かなくても誰かが訊く空気だ。誰って言うかりせちゃんが。ほらアダッチーがきょとんとしてるじゃないか!コラ!駄目だよ大人を揶揄っちゃ!無理矢理雪子の後ろに隠れて、いつでも逃げられるように構える。あ、そうだ。さっきの野菜セットあげるんだった。何で野菜セット取ったんだろう私。足立さんの為では有るけど、何でわざわざ。…あああもう、何もかも分からなくなってきた!何!?結局何なの!?何でこんな事になったんだ、誰が助けてくれ。出来れば月森以外でお願いします。


「何?何を訊くの?…僕?」

「あーいや!何でも無いですよ!あ、そうだこの野菜要ります?射的で取ったんですけど」

「良いの?じゃあ貰おうかな。…お、キャベツ入ってるー」

「キャベツだけ置いて行ってください」

「キャベツ以外なら置いて行ってもいいよ?!」

「じゃあそれで」

「ケチだね君…」

「嘘です、全部どうぞ」

「ちょっとなまえ!何話逸らしてんの!」

「何の話ですかなー、元々この話をしようって…」

「足立さん、素直に答えてください!」

「い、嫌だりせちゃんやめて!いえやめて下さいお願いしま」

「なまえ先輩の事、どう思ってますか?」


言ってしまった。何コレどういう嫌がらせ。嬉しくない。当たり前だけど嬉しくない。…ああでも、この間の言葉の続きも気になるから結果オーライ、ってことになるのかな。教えてくれるんだろうか。ああどうしよう、きっとガキの遊びに付き合わされる覚えは無い、とか言ってもう話せなくなったりしたら…!今更になって怖くなってきた。どうしようどうしよう。何でこの子たちは好奇心だけでこんな事までするんだ。全力で止めてればこんな事にはならなかったんだろうから、責める気は無いけど。


「え、何突然――」

「良いから!嫌いですか、好きですか?!」

「二択しか無いのかよっ!…あ、あの足立さん…?別に真面目に答えてくれなくて良いですよ、あのアレ、戯れみたいな…」

「うん。…そうだなあ…明日もお祭りあったよね」

「あ、はい…有りましたよ、確か。千枝、有ったよね」

「あったよー」

「じゃあ…明日、7時に鮫川ね」

「は…?」

「野菜有難う。僕はそろそろ行くからさ、またね」

「…は…え?何?」


ごめん話について行けないんだがww勝手に約束された?明日7時に鮫川?あそこ鮫川って言うんだっけ、忘れてた。ぼんぼん、とやや乱暴に背中を叩かれる。痛いよ千枝、君の力どれくらいだと思ってるの。流石に足じゃないから其処までじゃないけど、痛いよ普通に。何?ちょっと息止まりそう。どんな反応すれば良いの。


「ちょっとなまえ!りせちゃん!これってもしかしなくても…」

「もしかしなくても!」

「「デート?!」」

「「はあ?!」」


あ、雪子とハモった。デート?何ソレ美味しいの?デート?デート…?あれ、ゲシュタルト崩壊してきた。デートって何。外国人の名前か何かか。って言うか今更だけど雪子が「はあ?!」って言った…凄く新鮮だ…。しかし、デート。デートって言うのは恋人同士が行くものだと思ってたけど、違うのかな。帰ったら辞書引いてみよう。何で私こんなに冷静なんだろう。いや冷静じゃないか、だってこんな、そんな、馬鹿な。


「……………私……」

「先輩?…行くんですか?」

「…放置は可哀相ですよね……」

「まあ、約束したのに放置はちょっと」

「ですよね……じゃあ私…」

「帰るの?」

「いや……」



くじ引いてくる
(明日は私服で行くべきなのか、ああぁ、私にどうしろと!)







わーおぐだぐだw
もう展開が読めますよね…嫌だな←









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