商店街の一角にあるクリーニング店。表にある「サカキクリーニング」と大きく書かれた看板が目に飛び込んでくる。少し年季の入った扉を開けると、昨日逢ったばかりの親友がカウンター越しにいた。



「あっれー?有架じゃん」

「昨日振り、美穂」



カウンターに置いていた雑誌から視線を上げた美穂の茶髪が揺れる。



「今日は店番?」

「いや、留守番。皆アタシがヒマだと思って配達に出たからさー。で、今日はスーツ?ドレス?着物?」

「スーツを一着お願い」

「スーツね、……スーツってまさかあのイケメン彼氏の……!!」



そう言いながら、美穂はカウンターから乗り出して来た。



「た、確かにそうだけど彼氏じゃないってば!」

「彼氏じゃないならなんであのイケメンのスーツを有架が持ってるのよ!」

「は、再従兄妹!再従兄妹なの!」

「うっそだぁ!」

「ホントだって!仕事の都合で一緒に住む事になっただけ!」



口を突いて出た、我ながら見苦しい嘘。

バレるかと内心ビクビクしながら美穂を見ると、美穂は笑いながら「分かった分かった」と言った。

私が余りに必死だったからか、美穂はあの見苦しい嘘を信じた様だ。ごめん、美穂。

館長が彼氏って言われて嬉しくない訳ないけど、館長が帰った後が大変だからこう言うしかない。



「………所で有架」

「な、何?」



いきなり深刻な表情をする美穂に、少したじろぐ。



「レポートやった?」

「へ?一応終わったけど……」

「じゃあ貸して!」

「ダメ!」



「じゃあ」ってなんだ、「じゃあ」って。レポートは昨日の夜に書き終えた。後は見直しだけ。



「第一、私の研修場所は水族館だったけど、美穂は動物園でしょ?」

「ホラ、参考までに……」

「絶対ダメ、沙羅に頼んだら?」

「例外無く沙羅にも頼んだわよ。でも………」



盛大な溜息。沙羅にも断られたのだろう。その時、背後の扉の開く音に振り返る。



「やあ、いらっしゃい有架ちゃん」

「こんにちは、おじさん」

「お帰りー」



入って来たのは美穂のお父さん。きっと配達から帰って来たのだろう。人の良さそうな笑みが印象的だ。



「珍しいね、スーツかい?」

「再従兄妹のお兄さんのだって」

「成る程。じゃあ、明日の夕方届けに行くからね」

「有難うございます。美穂、レポートの提出日金曜だからね」

「やっぱり貸してくれないのね」

「これは美穂の為。それじゃ、お願いします」

「任せてよ、有架ちゃん」



おじさんに軽く頭を下げ、店を後にした。店を出る時、背後から「絶対ムリ」とか「この世の終わりだ」等、今にも死にそうな美穂の声が聞こえたが、敢えて無視した。






    
       
      
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