ガリガリと硬い何かを削る音が部屋に響く。出所はカエデの持つカボチャからだ。彼女は慣れた手つきで彫刻刀を使ってカボチャを削っていく。
聞こえたノック音に、軽く返事をしてから手を止め、扉の方へと視線を移した。
「お疲れ、カエデ。お前の好きそうなお菓子買ってきたぜ」
「やった!ありがとう、タイキっ!」
そう言うなり、タイキの持っていたビニール袋に飛び付いた。嬉しそうにガサガサと中身を漁るカエデの姿に、タイキは苦笑いを浮かべながらベッドへと腰を下ろす。
「あっ、コレCMでやってたやつ!」
「この前食べたいって言ってたろ?」
「覚えててくれたんだ?」
「ああ、まあな」
たわいの無い話をしながら二人でお菓子を摘まむ。
「カボチャ、どこまで出来たんだ?」
「後は口を刳(く)り抜くだけだよ」
カエデが先程のカボチャをタイキに見せると、タイキは感心したように言葉を漏らした。
「へえ……凄いな、カエデ」
「器用ですから」
冗談っぽく得意気にカエデが言うと、タイキも釣られて笑った。
カエデはまた作業に戻り、タイキは邪魔をしない様にと気を使って部屋を出ようとした。だがドアノブに手をかけた時、ざくりと痛々しい音が耳に飛び込んできた。
「あっ……やっちゃった、」
「っ!」
カエデの白い指から流れ出す鮮血に、タイキは慌てた様子で彼女の手をとった。
「大丈夫か?!」
「平気だって、慌て過ぎだよ」
流れる血の量は多いが、傷はそこまで深くない。その為カエデは笑いながら言ったが、タイキにそんな余裕は無く、そのまま彼女の指を銜(くわ)えた。
「っ!タイキッ!?」
傷口から血を吸われる度に背筋がゾクリとする。
「…う…ぁっ……た、タイキ……!」
「……良し、もう血は出てないな。カエデ、絆創膏は……」
「何で舐めるのよ!」
「い、いや……勝手に身体が動いてさ、」
カエデにそう言われ、タイキは頬を掻きながら笑った。
「あっ…でも、」
「……?」
「カエデが平気そうで安心したぜ」
「……ば、バカッ…!」
君の血は甘かった
11/10/22:鵺
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