「トリックオアトリート」

「へ?」



カエデは雑誌から視線を上げ、何を言っているんだと言わんばかりの表情を浮かべている。



「どうしたの?いきなり」

「今日はハロウィンだ」

「そうだっけ?」



口内で飴玉を転がしながら手元に置いていた携帯を開くと、画面には確かに10月31日と表示されていた。



「だから、トリックオアトリート」

「えー、そんな急に言われてもお菓子なんて持ってないって。早く言ってくれないから残ってた飴全部食べちゃったし」

「残ってるだろ、飴」

「だから、今舐めてるので最……。ま、まさかっ……!」



歩み寄って来るキリハに、カエデは後退りする。だがベッドの上にいた彼女の背中はすぐに壁へと当たる。キリハが更に距離を詰めると、ベッドがギシリと鳴いた。



「…ちょっ、キリハ!」

「お前は悪戯の方が良いのか?」



この際悪戯で良い、カエデの言葉はキリハの唇に塞がれて声にはならなかった。



「っ!」



すぐさま舌を入れられ、口内を弄(もてあそ)ばれる。僅かな隙間からはカエデの吐息が漏れる。

暫(しばら)くしてキリハの唇が離れると、先程まで舐めていた飴玉が消えていた。



「……甘いな、」

「…なっ、何するの!」

「菓子を貰ったまでだ」



カエデの飴玉を舐めながら愉快そうに言ったキリハに、彼女は閃いた。



「トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!」



見た所キリハは何も持っていない。カエデは、悪戯と言う名の仕返しをする為にそう言ったのだ。

しかし、彼女の視界は一気に変わり、キリハと天井だけが映る。



「え?」

「せめて俺が飴を食べ終わってから言ったらどうだ?」

「……あっ!」

「気付くのが遅い」



仕返ししようとしたカエデだったが、またしてもキリハに唇を奪われてしまった。





奥歯で噛み砕いた純情






11/10/18:鵺



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