現パロで文次郎と仙蔵と伊作がにょた
長仙とか言いながら8割留文
とにかく無駄に長い




 幼馴染みの仙蔵に好きな奴ができた。
今まで数多の男どもに言い寄られながらも絶対になびかなかったあの仙蔵に、好きな奴が。
本人の口からこの事実を聞いた時は思わず“ありえねー”と叫んでしまったが、叫んだ瞬間俺を渾身の力で蹴り飛ばしてきたあいつの表情を見る限りどうやら本気らしい。
あの、人をバカにすることが趣味みたいな女王様気質の仙蔵がうら若き乙女のように(実際そうなのだが)涙目で頬を染めている様を見てしまえば、いくら俺でも信じないわけにはいかないだろう。
しかもそのあと仙蔵から一部始終を聞いた文次郎にもそれは女子に対して失礼だと怒られ、拳を一発頂戴するハメになった。(正直、仙蔵に蹴り飛ばされるよりダメージがデカかった。)

 まぁそれはともかくとして、これでも仙蔵は一応俺の幼馴染みだ。
腐れ縁と呼べるような関係ではあるが、文次郎の次の次の次くらいには大切な奴である。
だからあいつが本気で恋をしたというなら、手助けくらいはしてやりたいと思う。
…何より愛しの文次郎にあんな可愛らしい表情で“留三郎も手伝ってくれるよな”なんて言われたら、断れるはずがない。
手助けだろうが人助けだろうが何でもやってやろうって気になってくる。
やっぱり俺の文次郎は最高だ。

 と、いうわけで。
仙蔵の恋を後押しすることになった俺達は、いつものメンバーで屋上に集まっていつも通りの昼休みを過ごしていた。
ただいつもと違うのは、いつもなら俺と文次郎の間に座る仙蔵が今日は長次と小平太の間に座っているということだ。
 というのも、仙蔵の想い人というのが文次郎の幼馴染みでいつも何かとつるんでいる俺達六人の中で一番寡黙な友人―中在家長次に他ならないからである。
長次は図書委員会に所属しており、そのずば抜けた知識と読書量から一年生にしてすでに図書室の主と呼ばれていた。
図書室のルールにはうるさく、怒った時に笑い出すという不思議な特徴を持っているがその笑顔の不気味さから絶対に怒らせてはいけない人間の一人となっている。
(文次郎は本の返却期限を破ってよく叱られているが)

 そんな長次ではあるが、実はそれなりに女子から人気がある。
図書室のカウンターで物憂げに本を読む姿やその本の内容が児童向けの童話集であるというギャップから、密かに想いをよせる物静かな女子が多いのだ。
 だが長次の幼馴染みである文次郎からの情報に寄れば、幸いにも今の時点ではまだ長次に彼女は居ないらしい。
ならば動くのは早い方がいいだろうと仙蔵に今すぐ告白してこいと促してみたら、また渾身の力で蹴りを入れられた。
しかも脛にクリーンヒットしたのでかなり痛い。
いきなり何すんだ。

「馬鹿者が。出会ってからまだそう月日も経っていない者にいきなり告白されて、すぐに承諾する阿呆がどこに居る」

「「え…?」」

「あぁ…此処に居たか」

 仙蔵の言葉に揃って首を傾げる俺達に、仙蔵は呆れたような溜息を零す。
 俺と文次郎はこの学園の入学式の日に初めて出会い、そのまま結ばれた。
俺が直感に従って勢いのままプロポーズし、文次郎がそれを受け入れたのだ。
互いに互いのことを何も知らないままスタートした関係ではあるが、関係は概ね良好である。
今では学園公認のカップルとなっていた。
(まぁ入学式の日に校門前であれだけ騒いだのだから当然といえば当然だが)
 だが、しかし。
仙蔵には俺達のやり方が理解できないらしい。
互いに想い合っているのだから何も問題はないと思うのだが。

 「とりあえず告白してみたらどうだ?」

「案外俺達みたいに上手くいくかもしれないぞ。」

「…あんな状況で上手くいく馬鹿はお前達ぐらいだ」
 俺達の助言とも言えぬ言葉に若干頬を引き攣らせた仙蔵は、ばっさりとそれを切り捨てた。
だがやはりこのままではいけないとは思っているのか、その顔には躊躇いが浮かんでいる。

 「やってみなきゃわかんねーだろ」

「もし駄目だったとしても、長次は自分に好意を示す人間をないがしろにするような奴じゃない。諦めなければ勝機はあるぞ」

「だが、しかし…」

 長次の幼馴染みである文次郎の信憑性の高い言葉に心動かされたらしい仙蔵は、それでもまだ踏ん切りがつかない様子で視線を宙に彷徨わせている。
いつまでもうだうだと悩み続けるいつもの仙蔵らしからぬ姿に焦れた俺は、とうとう我慢できなくなって声を張り上げた。
そのまま有無を言わせぬ勢いで、仙蔵に向かって言葉を叩きつける。

「えーい!もういいからさっさと告白してこい。呼び出しには協力してやるから」

「あぁ、恋なんて当たって砕けろだ」

「…お前等が言うと説得力あるな」

 渇を入れるような俺の声と文次郎の適当なようで的確なアドバイスに仙蔵はどこか諦めた様子で溜息を吐く。
だがその表情はどこか晴れやかで、どうやらようやく吹っ切れて覚悟を決めたようだった。
 そうと決まれば善は急げだ。
俺達は仙蔵の気が変わらぬうちにと早速長次を呼び出す計画を立て始めた。


 そして――、その結果がこの状況である。

 「あれ、仙ちゃん今日はこっちなのか」

「あぁ、今日は文次郎が俺の為に弁当作ってきてくれたからな。仙蔵には退いて貰った」

「なるほどな!」

「ふん、一つ貸しだぞ」

「はいはい」

 相手が長次の場合(声量の問題があるため)隣に座った方が比較的話しやすいとの考えで席を変更したのだが、既に定位置となっている座り方を急に変えるのはやはり不自然だったのか小平太にもっともな疑問を向けられてしまう。
だがそのくらいは俺も当然予測済みだったため、難なく誤魔化すことができた。
まぁ、文次郎が俺のために手作り弁当を用意してくれたのは事実なのであながち嘘でもないのだが。
 そう、実に嬉しいことに文次郎は俺の何気なく零した一言を聞いてわざわざ俺の分まで弁当を作ってきてくれたのだ。
さすが俺の嫁である。
俺達の未来はバラ色だ。
 しかし、今は俺達のことは一旦置いておく。
今は仙蔵と長次のことが最優先だ。

 「あ、この玉子焼き美味い」

「ほんとか?」

「あぁ、このきんぴらも…っていうか全部美味いぜ」

「…良かった」

 丁寧に弁当箱へ並べられたお手製のおかずを綺麗な箸捌きで俺の口へと運びながら、思わず零した俺の台詞にしごく嬉しそうな様子で小さくはにかむ文次郎の姿に思わず俺の頬も緩む。
あぁ、もう。
本当に可愛すぎる。

 「おいお前達、私の前でいちゃつくな。目障りだ」

「何だよ、別にいいだろ」

「よくない。私が不愉快だ」

 どさくさに紛れて文次郎に抱き着こうとした俺を遮るように、呆れたような仙蔵の声が飛ぶ。
口調こそ興味なさげなものだったが、その瞳は大きな苛立ちを含んで俺を睨み付けていた。
どうやら、いちゃついてないで当初の目的を果たせと言いたいらしい。

 「見たくないなら見なけりゃいいだろ。丁度いいからジュース買って来てくれよ」

「留三郎貴様、この私を使い走りにやろうとはいい度胸だな。貴様が行けばいいだろう」

「俺は今忙しいんだ」

「阿呆か。そんなに暇そうな表情で何を抜かす」

「仙蔵、俺からも頼む。悪いがちょっと行って来てくれないか」

「うむ、文次郎の頼みなら仕方あるまい」

 折角チャンスをやっているというのに常の癖か頑なに俺の台詞を拒否していた仙蔵だが、痺れを切らした文次郎が次いで言葉を投げれば驚くほどあっさりと席を立つ。
結果オーライだが、何だかものすごく腹が立った。

 「あ、そうだ。6人分は流石に重いだろうから誰か連れてけ」

「長次、悪いが仙蔵についてってやってくれるか?」

「………」

「もんじー、何で長次なんだ?」

「ばかたれ、お前や伊作に任せたら無事に飲み物が此処まで届かないだろうが。」

 文次郎の言葉に無言で頷いて立ち上がった長次を見つめながら小平太がもっともな質問を投げる。
その問いに同じくもっともな答えを返した文次郎はどこか呆れたような瞳で伊作と小平太を見遣った。
確かに不運の星のもとに生まれた伊作や力の加減ができず学校の備品や校舎をことごとく破壊しまくっている暴君に任せたら飲み物が此処まで無事に届く可能性は極めて低いので、文次郎の意見は正しいと思う。
 ふーん、と納得したのかしてないのかわからないような返事をした小平太は、既に興味を失くしたのか先ほどまで夢中になっていた購買の特大焼きそばドッグに再び意識を奪われていた。

「では、行ってくる」

「おう、俺コーラな」

「私も」

「僕オレンジジュース」

「文次郎は?」

「玄米茶」

「………」

「おう、頼む」

 財布片手に此方を振り返って尋ねる仙蔵に各々小銭を渡しながら注文すると、全員分の小銭を受け取った仙蔵は長次を引き連れて屋上を去って行く。
垣間見えた横顔は心なしか引き攣っていて、彼女が柄にもなく緊張していることが窺えた。

 何とか仙蔵にチャンスを作ってやることに成功した俺と文次郎は、屋上の扉の中へと消えていった二人の背中を眺めながら内心で安堵の溜息を吐く。
よし、ミッション成功。
とりあえず俺達にできるのはここまでだ。
あとは仙蔵本人に頑張って貰うしかない。
まぁ、たぶんあいつなら大丈夫だろう。
長次だって、仙蔵のこと嫌いではないようだし。
 込み上がってくる一抹の不安を無理やり振り払った俺は、再び文次郎の手料理を堪能すべく彼女に向けて口を開いた。


 その後、仙蔵達がどうなったのか俺は知らない。
いくら聞いても仙蔵が教えてくれなかったからだ。
だがここのところ長次の隣を陣取る仙蔵の姿をよく目にすることとこの前仙蔵から御礼と称して某有名洋菓子店のガトーショコラが(文次郎宛に)贈られたことから、きっと上手くいったのだろう。
相変わらず俺に対してはほんとに可愛くない幼馴染みだが、何だかんだいっても大切な奴であることに変わりはない。
幸せになってくれればいいと思う。
まぁ、俺が幸せにしてやることはできないけどな。

 俺には文次郎を幸せにするという何をおいても優先されるべき使命がある。
可愛い可愛い愛しの文次郎は俺が絶対幸せにするんだ!
 そんな決意を胸に俺は今日も文次郎手作りの弁当を口に運ぶのだった。


end.


―――――――

ノリで書き始めたら思いの外長くなった。
しかも8割が留文っていう。
留文ページ内の“初めましてのその前に”と微妙にリンクしてます。






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