現パロで潮江がにょた



 「だから、こんなもん食えるかって何度も言ってんだろ!」

「なんだとっ!お前、俺が作ったもんを食えねーっていうのか?」


 怒鳴り声と共に椅子から乱暴に立ち上がり痺れを切らしたように叫ぶ少年と、続いて立ち上がりながら彼の言葉に反応して乱暴に机を叩く少女。
 私立大川学園高等部の昼休みの日常風景である。

 先ほどの応酬を皮切りに、1年1組の教室に二つの怒鳴り声が響く。
 この状況には既に慣れきっている為か、呆れたような表情でそちらを見遣る彼等の友人達も面白がって無責任に囃し立てる1組の生徒達も特に驚いている様子はない。
彼等はほぼ毎日のように場所を選ばずいがみ合うので、このクラスと言わずこの学園の生徒達は皆既に耐性がついているのだった。

 実のところこうして毎度くだらない喧嘩を繰り返しながらも何だかんだと毎日一緒に昼食を摂っているこの二人は、世間でいう恋仲という関係にあったりする。
だからこそ、どれだけ派手に喧嘩をしていようが呆れこそすれ彼等の争いを止めようとする者は居ない。
二人が互いに本気で憎み合っている訳ではないと知っているからだ。
…まぁ、巻き込まれたくないという本音も多分にあるのだが。
いずれにせよ、障らぬ神に祟り無し。
無理に止めようとせず黙って見守るのが一番なのである。


 「あぁ、食えないね。いくらお前が作ったもんだとしても、こんなもん食って堪まるか!」

「テメェっ、言わせておけば!俺の得意料理にけちつけやがって!」

「はっ、これが得意料理なんて他の料理もたかが知れるな」


 嘲笑混じりに吐かれた台詞と同時に少女の拳が一閃し、その存外重いストレートを鳩尾に叩き込まれた少年が盛大に吹っ飛んで机や椅子の中に背中から突っ込んだ。
それでも周囲の人間は特に慌てることもなく、既に手慣れた様子で自分の弁当や飲み物を避難させる。

 「痛ってェな。何しやがる!」

「自業自得だバカタレ」


 少年が机や椅子の角に強かに打ち付けた背中を庇いつつ身体中を襲う痛みに顔を歪めながら身を起こすと、目の前には自分を吹っ飛ばした少女―潮江文次郎が仁王立ちで不敵な笑みを浮かべていた。
その口元はさも愉快げに吊り上がっているが、瞳には怒りの色が燃えている。
どうやら先ほどの少年の言葉が相当頭にきたらしい。
 制服のズボンに着いた埃を払いながら立ち上がった彼も流石に言い過ぎたと思ったのか、一応は反省した様子で遠慮がちに口を開く。
が、あくまでも自分の意見を曲げるつもりはないようだった。

 「…確かに、今のは俺が悪かった。お前の料理が美味いのは知ってる」

「…そうか」

「だけどな、やっぱどうしてもそれだけは許せねー」

 恋人である少年―食満留三郎からの思いがけない賛辞に素っ気ない返事を返しながらもどことなく嬉しそうな表情を見せていた文次郎だったが、続く相手の言葉を聞くとすぐに表情を引き攣らせる。
左右で形の違う大きな瞳から放たれる鋭い視線が留三郎を射抜いた。
しかし留三郎の方もまた文次郎から視線を逸らそうとはせず、怒りに染まる彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
 決して遠くない距離で睨み合う二人の間で、怒りの火花が散った。


 「だいたい、何でおにぎりの具にピーマンが入ってんだよ?おかしいだろ!」

「バカタレ!普通に入れてもお前が食わんからわざわざ仕込んだんだろうが」

「当たり前だ!てか飯に入れても食わねーよ」


 味を整えるのがすごい大変だったんだぞ。と不機嫌そうに頬を膨らませる文次郎に留三郎は思わず溜息を吐く。
そんなことをされても嫌いなものは嫌いなのだ。
いくら可愛い恋人が作ったものだとしても食べることなどできなかった。
そもそも普通、ピーマンが食べられないくらいでここまでするだろうか。
自分の恋人の間違った情熱の方向にまた一つ溜息が零れた。


 「とにかく、俺は絶対食わねーからな!」

「面白ェ、何がなんでも食わしてやる!」

「はっ、できるもんならやってみろ!」

「おう、やってやろうじゃねーか!」


 文次郎の台詞を最後に間合いをとった二人がそれぞれ得意な格闘技の構えを取って睨み合う。
因みに留三郎は空手部の主将であり、文次郎は小学生の頃から合気道の道場に通っている。
男女の力の差はあれど文次郎の使う合気道は相手の力を利用して技を掛けるため、勝負はいつも互角だった。


 互いに相手から視線を外さぬままその場から一歩も動こうとせず、ジリジリと時間が過ぎていく。
そして漸く二人が同時に一歩踏み出した、

瞬間。

――キーンコーン、カーンコーン

 緊迫した空気を切り裂いて、昼休み終了を告げるどこか間の抜けたチャイムの音が教室に響き渡る。
あと5分で午後の授業が始まるのだ。
今まで呆れ半分面白半分で見物していた友人やクラスの人間達も、慌てたように授業の準備に取り掛かっている。


 「チッ、今日はここまでか」

「明日こそ食わせてやるから覚えてろ」


 あと一歩のところまで間合いを詰めかけていた二人も流石に学校の決まりを無視するわけにはいかないのか、舌打ちをしながらも構えを解いて距離を取る。
そして互いに捨て台詞を吐きながら留三郎はついて来ていた友人を連れて自分の教室へ帰って行き、文次郎は結局手付かずのまま放置されていた弁当を片付けながら次の授業の準備を始めた。



 こうして彼等のこの日の喧嘩は授業という不可抗力によって終わりを告げ勝負は明日に持ち越されたが、一日や二日で決着が着くほど二人の闘いはそう甘くはない。
結局、七日後にいい加減痺れを切らした友人達が留三郎を羽交い締めにして口に文次郎お手製のピーマン料理を突っ込むまで二人の攻防戦は続いたのである。



end.



―――――――

バレンタインネタの御礼として藤波さんに捧げます。
藤波さん、ほんとお待たせしてすみませんm(_ _)m
バレンタインから何ヵ月経ってんだよって話ですよね。
本当に申し訳ないです。

内容も何か1ミクロンもリクエストに沿えてる気がしないですが、こんなもので良ければ受け取って下さると嬉しいです。
苦情も書き直しも受け付けますので、何かあれば仰って下さい。

では、ネタ提供本当にありがとうございました。


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