現パロで潮江が幼女



 あぁちくしょう、一体何故こんなことに…。
 不覚にも不運な友人から風邪を移された俺、食満留三郎は只今ソファーで絶賛死亡中である。
ガンガンと脳を直接揺さぶられるような頭痛に、起き上がることさえ困難な状況だ。

 あぁ、早く立ち上がって夕飯作らねーといけないってのに。
愛しの文次郎が腹を空かせてたらどうすんだ。
こんな情けない理由で夕飯がいつもの時間に間に合わなかったら、それこそ食満留三郎一生の不覚である。
これから先の人生、胸を張って生きていけるかちょっとわからない。
 幸い文次郎は奥の部屋で着替えていてまだ俺の状態には気付いてないが、彼女が戻って来る前に何とか起きなくては。
俺は気合いと文次郎への愛を糧に何とか身を起こそうと腕に力を入れた。

 潮江文次郎は、俺と同じマンションの俺の部屋の隣に住む五歳の女の子だ。
何とも男らしい名前をしているが、とても可愛い女の子なのである。
将来は俺が嫁に貰う予定だ。
異論は認めない。
年の差?そんなもん知るか。
誰が何と言おうが、俺の可愛い文次郎は絶対誰にも渡さねぇ。
渡してたまるか。

共働きでなかなか家に居ることの出来ない文次郎の両親に代わって毎日彼女の保育園の送り迎えをしているのも、毎日のように文次郎の家に泊まり込んでは彼女の世話を焼いているのも、全てはちょっとでも長く彼女の側に居たいという理由からくるものだ。
勿論、可愛い文次郎の世話を焼きたいっていう本音もちょっと…いや、かなりあるけれども。
 数年前に両親と一緒に引っ越しの挨拶に来た文次郎を初めて見たその時から、俺の人生は彼女に捧げることに決定していた。
彼女のはにかむような笑顔を見ていると、年の差だとか世間の目だとかそんなこと全てどうでもよくなってくるのだからしょうがない。
とにかく、愛しくてたまらないのだ。

 だからこそ、たかが風邪や頭痛程度のことで根を上げるわけにはいかない。
今日の夕飯はハンバーグだって文次郎と約束したんだ!
愛しの文次郎と約束したのだから、死んでも美味しいハンバーグを作らなければ男が廃る。
最早、これは使命である。
何がなんでもキッチンへ向かわねーと。

「とめさぶろう?」

「も、文次郎…」

 あぁ、俺の馬鹿野郎。
ぐずぐずしている間に文次郎が戻って来ちまったじゃねーか。
ごめんな、文次郎。
今すぐ夕飯作るから。
 慌てて起こし掛けていた身体を完全に起こそうとしたが、見事に失敗して顔からソファーに突っ込んでしまう。
くそっ、俺かっこわるい。
 心配した文次郎がかけ寄ってくるのが足音でわかるが、俺は顔を上げることが出来ない。
身体に全く力が入らないのだ。
早く起き上がって文次郎に笑顔を見せてやりたいのに。
大丈夫だって笑って安心させてやりたいのに。

 ちくしょう、ここまでか。
ごめん、文次郎。
少し休んだらすぐ夕飯作るからな。
 俺の名を呼ぶ文次郎の声を聞きながら、俺の意識はそこで途切れた。




 それからどれだけ時間が経ったのか。
意識を失くした時と全く同じ体勢のまま目を覚ました俺は、すぐさま身体を起こして辺りを見回す。
少し休んだせいか今度はスムーズに起き上がることが出来た。
 しかし勢い良く起き上がったためか、その拍子にソファーから何か落ちたらしい。
何だろうと拾い上げてみると、それはウサギの縫いぐるみだった。
手触りの良い黒い毛並みのこのウサギさんは、確か文次郎のお気に入りのはずだ。
それが、何故ここに?
いまいちわからない状況に思わず首を傾げると、傾いた視界の先に大量の縫いぐるみとそれに囲まれた文次郎の姿が映り込んで思わず目を見開く。
正直ものすごく可愛いが、一体どういうことだ?

 訳がわからないままとりあえず声を掛けようと文次郎を見ると、常なら真っ直ぐに俺を見つめてくるその大きな瞳が両の瞼で閉ざされていることに気付いて口を閉じる。
どうやら眠っているらしく、ソファーに転がる俺の足を枕にしてそのまま凭れるような体勢で寝息を立てていた。
 さすが俺の文次郎。
寝顔もめちゃくちゃ可愛い。
 当然起こすわけにはいかないが、今の体勢では辛そうなので両脇から抱きかかえてソファーへ引き上げてやる。
そのまま抱きかかえるように膝へ乗せると、無意識なのか俺にしがみついてシャツの肩口を握り込んでしまった。
 何だ、この可愛さ。
俺の嫁マジ最高。

 込み上がる幸せを噛み締めながら文次郎を抱き締めたはいいが、ここで問題が一つ。
文次郎が俺の服を掴んで眠っているため、俺は夕飯を作りに行くことが出来ない。
やべぇ、マジでどうしよう。
 内心かなり焦りながら腕の中の文次郎を見つめる。
本音を言えばこのまま文次郎ともうひと眠りしたいところだが、いやしかし俺には美味しいハンバーグを作るという使命が。

「とめさぶろう…」

 どうするべきか迷いながら文次郎の頭を撫でていると、彼女の口から寝言らしき小さな呟きが零れて思わず耳を澄ます。
文次郎の言葉なら例え寝言でも聞き逃すわけにはいかない。
だがその柔らかな唇から零れ落ちたのは紛れもなく俺の名前で、思わず頬がだらしなく緩むのを抑えられそうになかった。
 あぁ文次郎、何だってお前はこんなに可愛いんだ。

 こんな愛らしい文次郎を見てしまえば彼女を置いて夕飯を作りに行くなんてことが出来るはずもなく。
早々に諦めた俺は文次郎の額に唇を落としてから彼女を抱き締めたまま再びソファーに転がることにした。
 どうせ今からじゃ夕飯を作ろうとしたところでハンバーグみたいな手の込んだものは作れないし、どっちにしろ約束は守れそうにない。
なら今日の夕飯はコンビニか出前で済ませることにして、今はこの幸せを堪能しようじゃねーか。
 ごめんな、文次郎。
ハンバーグは明日必ず作ってやるからな。
 心の中で文次郎への謝罪を繰り返しながら、俺は二度目の睡魔に身を委ねることにした。



end.


――――――

前に滾ったCMネタを書いてみたら予想以上に食満がけまちわるくなってどうしようかと思った。
とりあえず食満はこの後文次郎に土下座します。
それから二人でコンビニにご飯買いに行ったらいいよ。
ヤバい、幼女な潮江さんと高校生食満楽し過ぎる。
そのうちまたやらかすかもしれない。




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