現パロ


 ねぇ、ちょっと聞いてよ!
さっき僕さ、すごい珍しいもの見ちゃった。
いや、違うって。今回は不運関係無いから!

 あのさ、文次郎って普段全然眠らないじゃない。
あ、うん。その文次郎。
 でね、眠れないのか眠る気が無いだけなのかは知らないけどさ、いつも論文だのバイトだのって昼夜問わず忙しく走り回ってて眠ってるとこ見たこと無いし。
それに、何だかんだ文句言いながらも結局は徹夜で僕等のレポートや試験勉強の面倒見てくれるから、試験がある度に目の下の隈が酷いことになっちゃってるしね。
 しかも文次郎と同じ授業取ってる子に聞いたら、あれだけ不規則な生活してる癖に授業で一度も居眠りしたことが無いんだって。
真面目で堅物な彼らしいっていったらそうだけどさ、それ聞いた時は流石に驚いちゃったよ。

 だって夜に眠らないのに昼間の居眠りもしないなんて、いったい何時眠ってるのか医者の卵としては気になるじゃないか。
僕が知ってる限り、文次郎ったらもう10日は寝てないんだよ?ここまで来ると、もしかして彼には眠らなくても生きていけるような器官でも備わってるんじゃないかって思えてくるよ。
勿論、そんな訳ないことは解ってるんだけどさ。
そんな馬鹿なこと考えちゃうくらい文次郎って人前で眠らないんだよね。

 まぁ、だからこそなんだけど。
さっきは本当に驚いたんだから。
びっくりし過ぎて心臓止まるかと思ったくらい。
だって、まさかさぁ。

 あのね、僕2限が休講だったから先に食券買っとこうと思って食堂に向かってたんだ。
それで、近道したくて中庭横切ろうとしたらそこに文次郎が居たんだよね。
あの隅っこの木の下でさ、留三郎に抱えられてたの。
そう、その留三郎。
文次郎と一緒に居る留三郎なんて彼以外有り得ないじゃない。
 全く、彼等もよくやるよね。
いくら大学公認のバカップルだからって、あんな人通り多いとこで真っ昼間からいちゃつかなくたっていいのに。
どうせ僕みたいに授業が休講にでもなって時間が出来たとか、そんなとこだろうけど。
 あ、そう言えば留三郎のやつ暫く研修で居ないって言ってたのに、何時の間に帰って来たんだろ。
幼馴染みの僕には連絡一つ寄越さない癖に真っ先に文次郎のとこに行く辺り、本当に憎たらしいったら。
今度食堂で何か奢って貰おう。

 っと、それはともかく。
ごめんごめん、話がずれちゃった。
そうそう、それでさ。
正直言ってあの二人がところ構わずいちゃつくのは今に始まったことじゃないし、僕だってただそれだけなら軽口の一つでも落として素通りするつもりだったよ。
だけどさぁ、留三郎にしがみついて眠ってる文次郎なんて珍しい光景見ちゃったら、流石にそのまま無視することなんて出来ないって。
そう、寝てたの。
あの文次郎が、もう熟睡。
信じられないでしょ。
僕だって一瞬、何の夢かと思ったもの。
 だってあの、眠らないことで巷でも有名な潮江文次郎が人前であんな無防備にすやすや寝息立ててるんだよ?
普通にあり得ないって。

 無意識なのか知らないけど片手は留三郎の背中に回ってるし、もう片方の手なんかあいつの服しっかりと掴んじゃってさ。
留三郎の側はそんなに安心するのかね。
 しかも留三郎は留三郎であの強面を一体何から守るつもりなんだか、如何にも大切って感じで文次郎を抱き抱えながら慈愛に満ちた視線注いでるし。
正直ちょっとけまちわるかった。

 うん、まぁ二人とも顔は悪く無いし、多分何も知らない人から見ればまるで映画か何かの一シーンに見えたんだろうとは思うけどね。
実際、たまたま通り掛かった女の子達の視線も二人に釘付けだったし。
 でも、流石に近付いて声を掛ける勇気のある子は居なかったみたい。
え、うん。
勿論僕にだってそんな度胸は無いよ。
ただでさえ不運のせいでボロボロなのに、わざわざ馬に蹴られるような真似してこれ以上怪我増えたら目も当てられないしね。
 最初は挨拶位しようと思ってたけど、やぶ蛇になりそうだから中庭横切るのも諦めてさっさと食堂に向かうことにしたんだ。
回り道になっちゃったけど、彼等の横を通るよりはマシだと思って。

 まぁ結局、限定のスペシャルランチは目の前で売り切れちゃっていつものAランチしか買えなかったんだけど。
全く、あの二人のせいで散々な目に遇ったよ。
え、スペシャルランチが買えなかったのは僕の不運のせいもあるんじゃないかって?
そんなわけ…ないとも言い切れないけど。
でも、今日のことは留三郎と文次郎にも責任はあると思うんだ。
 よし、決めた!
今度、留三郎だけじゃなくて文次郎にも何か奢って貰おう。
じゃなきゃ、僕の気も晴れないし。
何がいいかな?どうせなら普段は頼めないような高いメニューでも…

 え、何?――嘘!
もう食堂混んでるの!?
そういうことは早く言ってよ。
わざわざ2限のうちに食券買いに行った意味無いじゃないか。
あぁ、もう!
とにかく急がないと。
 って何なのさ、もう。
こんな時にメール!?
しかも留三郎からじゃない。
今日帰ってきたから教養科目のノート見せてくれって――今更!?
しかも文次郎には特に用が無くても直接会いに行く癖に僕には頼みごとさえメールで済ますなんて、何かますます腹立って来た。
絶対ノートなんて見せてやらないんだから!

 ん…?あれ、何だろうこの妙に長いスクロール……うぎゃあ!
 ちょっと、見てよコレ!
この下の追伸、ちょっとこれどういうこと?
“お前が空気読めるヤツで本当に良かった”って、どういう意味?
どう考えてもこれ、僕が見てたの気付いてたってことだよね。
嘘でしょ!?だって一度も瞳なんか合わなかったのに!
しかもこれ、もし僕が空気読まずに話掛けてたら絶対無事じゃ済まなかったよね。
良かったぁぁあ!空気読んで。
危うく不運関係なしに命を落とすところだったよ。
不運の神様ありがとう!!

 ――あ!
こんなことしてる場合じゃなかった。
早く食堂に行かないと、お昼ご飯食べ損ねる!
じゃあ、また後でねっ。

 って、わあぁぁぁーっ!!
誰だよ、こんなところにバナナの皮捨てたの!?
不運なんて、もう嫌だぁー!!




―――――

あれ、最初は留三郎が側に居ないと眠れない文次郎のバカップルな留文を書いてたはずなのにいつの間にか伊作の不運話になってるぞ…?
どうしてこうなった。

伊作の視点にすると書きやすい代わりに留文要素が薄くなって困りますね。
もっと濃い留文が書きたい。



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