現パロで潮江さんがにょた
ずっと誰かを捜していた。
それが誰かなんてわからなかったけれど。
それでも街を歩く時、電車の中、バス停の列など人が集まる場所では無意識に見知らぬ誰かを求めて視線を彷徨わせる。
幼馴染みには馬鹿らしいと笑われた。
もう一人の幼馴染みにも困ったような笑みを向けられた。
だが、俺は諦めなかった。
諦めてはいけない気がしたのだ。
此処で諦めたら全てが終わるような、そんな気が。
そして――、
「見付けたっ―!」
「えっ?ちょっと、留さん!?」
「何なんだ?全く」
高校の入学式。
桜舞い散るその中に、俺はそいつを見付けた。
瞳が合った瞬間、頭より先に身体が動く。
気付けば既にそいつ目掛けて駆け出していて、周りが騒ぎ出す頃には物凄い勢いで相手へと抱き着いていた。
「わっ…!何だ!?」
「やっと、見付けた!!」
いきなり真正面から襲ってきた衝撃に驚いて目を見開いた相手を、逃げられないようにしっかりと抱き締めて至近距離でまじまじと観察する。
緩く波打った肩までの短い黒髪に、どちらかというと白い肌。
左右で微妙に形の違う大きな瞳の下には濃い隈があるが、真っ直ぐに通った鼻筋と薄い唇は美人と言って差し支え無い。
制服のブレザーをきっちりと着込み、学年色である深緑色のリボンとチェックのプリーツスカートを春風に揺らすその少女は案の定全く見知らぬ人間だったが、間違いなく俺の捜し人だった。
勿論、根拠なんてものは無い。
だが俺の直感がそう告げている。
彼女こそが、ずっと捜していた彼の人であると。
***
ずっと誰かを待っていた。
それが誰かなんてわからなかったが。
それでも街を歩く時、電車の中、バス停の列など人が集まる場所では無意識に足を止め、求める誰かの視線を捜していた。
幼馴染みは運命の相手かもなとからかうように笑う。
もう一人の幼馴染みには何故か微笑ましげな視線を向けられた。
だが、俺はふざけてそんなことを言っている訳では無かった。
俺は冗談が得意では無い。
だからこれは冗談等では無く、本気なのだ。
上手くは言えないのだが、この感覚は否定してはいけない気がする。
此処で否定してしまったら全てが終わるような、そんな気が。
そして――、
「見付けたっ―!」
「えっ?ちょっと、留さん!?」
「何なんだ?全く」
高校の入学式。
桜舞い散るその中に、そいつは居た。
瞳が合った瞬間、頭が真っ白になり身体が硬直したように動かなくなる。
猛スピードで此方へと駆けて来る相手を何処か他人事染みた視線で眺めながら、俺はその場から動くことが出来なくなっていた。
「わっ…!何だ!?」
「やっと、見付けた!!」
いきなり真正面から襲ってきた衝撃に停止していた思考が戻って来るのを感じて目の前の光景に思わず目を見開くと、いつの間にか逃げられないようにしっかりと抱き締められていて、至近距離で再びしっかりと目が合う。
男子にしては長めの、整髪料で整えられた髪に、日焼けして少し黒くなった肌。
切れ長で鋭い印象を与える瞳は涼しげで、すらりと通った鼻筋と全体的に整った顔立ちは大半の女子がイケメンと持て囃すだろう造りをしている。
制服のブレザーを軽く着崩し、学年色である深緑色のネクタイを緩く締めたその少年は間違いなく見知らぬ人間だったが、俺の本能はそんなことなど関係無いとばかりに俺の脳内で叫びをあげた。 待ち人来たる、と。
勿論、根拠なんてものは無い。
だが、俺の直感が確かにそう告げていた。
彼こそが、ずっと待ち続けた彼の人であると。
***
大川学園高等部入学式。新たにこの地へ足を踏入れた生徒達を遅咲きの桜並木が迎える、そんな中。
とある二人の生徒が周囲の注目を集めていた。
一人は食満留三郎。
今年大川学園の高等部に入学してきた男子生徒にして、先程自身の直感に従って見知らぬ女生徒に抱き着いたとてつもない度胸の持ち主である。
そしてもう一人は潮江文次郎。
彼女も今年度の大川学園の新入生であり、また件の食満留三郎に抱き着かれたまま状況が飲み込めずに固まっている女生徒だ。
そして――。
「なぁ、――」
「あっ、―と、何だ?」
暫く続くかと思われた膠着状態を打ち破って最初に声をあげたのは留三郎の方だった。
声を掛けられたことで漸く混乱を脱した文次郎は常に無く動揺した様子で返事を返す。
熱いように見えて案外冷静な彼女にしては、かなり珍しいことである。
「お前、名前は?」
「潮江、文次郎だが…」
突然名を聞かれて思わずといった風に答える文次郎。
一応、平静は取り戻したものの、未だ状況を上手く飲み込めてはいないらしい。
「文次郎、か。俺は食満留三郎だ」
「食満、留三郎…」
「あぁ、留三郎でいい。で、文次郎」
同じように名乗った留三郎は、戸惑っている文次郎へ感極まった様子で言葉を向ける。
「何だ」
「俺は、ずっとお前を捜していたんだ」
「俺を…?」
「あぁ、一目見てわかった。俺がずっと捜していたのはお前だって」
「………」
熱の込もった視線と声を惜しげもなく注がれ、文次郎は思わず留三郎から視線を逸らす。
だが、逸らしたところで彼からの視線が消える訳でも無く、結局は再び視線を戻すこととなる。
もう一度留三郎と向かい合った文次郎に、彼はどんな菓子よりも甘ったるく緩んだ笑みを浮かべて言葉を続けた。
「だから、さ」
「此れからはもう、ずっと俺の傍にいてくれ」
そこまで言い切って、留三郎は再び文次郎を抱き締める腕に力を込める。
その姿からは絶対に放すまいという決意が顕著に現れており、懇願というよりはむしろ命令に近かった。
しかしそのことに関して文次郎が異議を唱えることは無く、ただ大人しく留三郎の腕の中に納まったまま、ポツリと小さく言葉を零す。
「……俺も、」
「ん?」
「俺もずっと、お前を待っていたような気がする」
「――!文次郎…」
彼女の口から零れ出した思いがけない言葉に留三郎が驚きの表情を見せる。
まさか、彼女の方も彼を待っていたとは流石に予想していなかったのだろう。
文次郎の名を呼んだまま二の句を次げないでいる留三郎に、彼女ははにかむような笑みを浮かべて小さく言葉を続けた。
――俺で良ければ、
と。
それが先程の己の告白への返事だと気付くや否や、留三郎は苦しいと訴える相手の言葉も聞かず、抱き潰さんばかりの力で文次郎を抱き締める。
悪い筈が無い。そんな筈が無いのだ。
何故なら彼はずっと、この日を夢見て彼女を捜していたのだから。
「待たせて悪かった、愛してる」
「バカタレ…だが、見付けてくれたことには感謝する」
校庭のど真ん中で抱き締め合ったまま、周囲の目も気にせず見つめ合う二人。
互いの目には互いの姿しか映っておらず、彼等の友人達が見兼ねて駆け寄って来るまで、二人だけの世界は続いたのだった。
――――――
転生だけど記憶の無い二人。
長編のプロローグとして書いたけど、挫折したのでこっちに。
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