例えば

髪を掻き上げる仕草
ペンを走らせる指先
ゆったりと足を組む動作とか
ふとした時の視線のやり方だとか

そんな所々の動作が、一々色っぽい人間というものがいる。

目の前の男は、恐らくそういう部類に入るのだろう。


未だベッドの大半を陣取っている赤林は、既に身支度を整え始めている四木の後ろ姿を、ぼんやりと見つめていた。
日に焼けない白い背中には、この稼業の人間が好んで入れるような刺青がない。
(大方、彼の上司の幹彌か道元辺りに止められているのだろう)

しゅるりしゅるりと衣擦れの音を立て、さっさとこの場から去りたいと言わんばかりに服を身につける男は、つい1・2時間前までこのベッドで、己の下で、ぐったりと息をしていた男と同一人物とは思えない。


「く、」


思わず喉の奥で笑うと、訝しげな表情の四木がこちらを振り返る。


「何ですか」
「いやねぇ、終わってすぐに帰り支度なんて…つれないですねぇ」
「は」


茶化すように言う赤林を鼻で笑うと、四木は無言で彼の横を指差した。
赤林よりもすらりとした指の先には、いつも四木が着ている黒いシャツがある。
どうやら、それを取れ、ということらしい。
先程までシーツに縋っていた指と同じ指で、女王のように命令してくる四木に苦笑すると、赤林は大人しくシャツを渡した。
それが当然であるかのように礼も言わず受け取ると、四木は皺だらけのシャツを見て舌打ちをする。


「ああ、皺だらけになっちゃいましたねぇ。俺のを貸しましょうか?」
「貴方の物を着るくらいなら、こっちのほうがまだマシですよ」


イライラしていることを隠しもせずに、四木は乱暴にシャツを羽織る。
細長い腕を袖に通し、男にしては華奢な肩を黒で隠す。
サイドテーブルの上の、彼が好んでつけている金のネックレスを掴み、そのまましゃらりと首に掛ける。
服と髪の間から見えた項には、先程自分がつけた所有印が見えて…――――――


「っ!?」


思わず四木の腕を掴み、ベッドに押し倒す。
一瞬驚いた顔は、赤林が馬乗りになると同時に消え失せる。


「離してもらえませんか」
「その話し方、おいちゃん好きじゃねぇなぁ」
「……だったらアンタこそ、その気色悪い喋り方をやめたらどうだ?」
「気色悪いはひでぇな」


言いながら赤林は、四木の両腕を頭上で一纏めにする。
にやにやと笑う赤林とは対照的に、四木の瞳は鋭くなっていく。


「何してやがる」


下から赤林を睨みつけるが、行為の余韻か、目元がうっすらと赤い。


(そんな顔で睨まれても、逆効果なんだけどねぇ)
どうやら目の前の女王様は、いまいちそれを理解してはいないらしい。


「おい、」
「言ったろ?終わってすぐに『はい、さようなら』じゃあ味気ないってよお」


するりと四木のシャツに手を滑り込ませ、耳元で囁く。
ぴくりと反応した体に気を良くし、赤林は人の悪い笑みを浮かべると、シャツの中の手をわざと性感を煽るように動かし、四木の首筋に吸いついた。


「ふざけっ…やめろ…っ!!」
「いいじゃないの」
「冗談じゃない!こっちはあんた程暇じゃないんだ!」
「ひどいねぇ、暇人扱いかい」
「ぁ、…っ」


体を捻って暴れる四木を押さえつけ、膝で四木のものを擦り上げる。
引きつったような掠れた声を出し、四木は体を震わせた。
かたかたと震える体と吐かれた吐息は甘く、赤林は思わずごくりと唾を飲み込む。


「は、ぁ…っ」
「ほぉら、旦那だって感じ…ぅぐっ!!」


にやにやと笑いながら四木の耳元で囁く赤林の腹に、四木の膝がめり込んだ。
拘束する腕の力が抜けた隙に、四木は赤林の体の下からするりと抜け出す。
あいた〜、と言いながらベッドに埋まる赤林に一瞥もくれず、四木は白いジャケットを手に持ち、足早に部屋から出るためのドアに向かう。


「あまり調子に乗らないでくださいよ、バカ林さん」


四木は最後に一度振り返り、ベッドの上で腹を押さえている赤林を見ると、踵を返してさっさと部屋を出て行ってしまった。



四木が去った部屋、まだ温もりの残るベッドの上で、赤林はくくく、と喉を震わせる。
脳裏に浮かぶのは、悪態を吐きながらも耳を真っ赤にさせた四木の姿。


ああもう、本当に…


「可愛いなぁ…」


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