「よぉ」
「……」


今日は疲れていた。別に大きな仕事があったわけじゃあないが、得意の手ではなく口を出してやった相手がどうなったのか、そんなどうでもいいことが四六時中気になってしまっていた。
ようは気苦労というやつだ。
こういう日は酒でも飲んでさっさと寝てしまおうと思いマンションの自室のドアを開けると、自分のものではない見慣れた革靴が目に入る。
ビキリ、と米神に青筋が浮かぶのを感じる。
足早にリビングへ行くと、案の定気苦労の原因がビール片手にソファで寛いでいた。


「手前…人んちで何勝手に酒盛りしてやがる…っ」


部下が見れば肝を冷やすだろう目付きで睨みつけても目の前の男には全く効果はなく、きゃ〜青崎さん怖〜い、とふざけたことを抜かしている。
殴り飛ばして追い出してやろうか…


「そんな怖い顔しないでよ青崎さん、どうせ酒飲もうと思ってたんだろ?」


ほら、とビニール袋に入った数種類の酒瓶を見せてくる。安物だったら追い出してやろうと思っていたが、袋の隙間から見える酒はそれなりに高価なものだったので、仕方なく向かい側のソファに腰を下ろした。


― ― ― ―


「にしてもさぁ、あんたには借りができちゃったねぇ」


数十分ほど無言で飲み進めていたところで、赤林が口を開いた。
その「にしても」はどこに係るんだと口にしそうになったが、こいつの言動に一々意味を求めていたらこっちが疲れると思い直し、何のことだ、と誤魔化した。
赤林は酒で赤くなった目元を細め、クツクツと笑っている。


「青崎さん、あんたはぐらかすの下手だねぇ」
「うるせぇよ馬鹿が」
「ひっでぇなぁ、電話くれたろ?『お別れ』言いに」
「…死んでなくて残念だったがな」


ふん、と鼻で笑いながら、既に半分ほど空いたウィスキーのボトルに手を伸ばす。
元はと言えばお前がフラフラしてるせいだろうが、透明感のある飴色の液体をグラスに注ぎながら赤林にそう言うと、あはは、と乾いた笑みを返してきた。
珍しく自嘲的なその笑い方に、グラスを口元に運ぼうとしていた手が止まる。


「いやぁでも、さ、ホントに助かったよ」
「……」
「正直…もう顔も見たくない連中だったからさ…」
「……」


深い溜息を吐くと、赤林は俯いてしまった。額にかかった前髪と色眼鏡のせいで表情は窺えないが、いつものようにへらへらとした笑みを浮かべてはいないのだろう。
前にいた組でこいつが用心棒以外にどんな扱いを受けていたか、それを噂程度には聞いていたが、どうやら予想以上のものだったらしい。

ふと、腹の中で何かが煮えくりかえるような気がした。

俯いたきり顔を上げない赤林の頭に、自分の武骨な手を置く。
そのままわしゃわしゃと犬猫にするように撫でつけると、赤林はようやく顔を上げる。


「青、崎…?」
「うるせぇ」
「え、なに、ちょ…っ」


困惑気味だった瞳が、笑みのそれに変わる。
青崎さんが優しい、と普段の作り笑いではなく、ガキのような笑顔でそう言った。



できそこないのこころ
(苦しいんなら、笑うんじゃなくて泣きやがれ)







鶯神楽様へ相互記念。
青赤というより青→赤のような青+赤のようなものが…
強そうに見えて弱いおいちゃんを何だかんだ言って好きな青崎さんを書きたかったはずなんです。

こんなものでよろしければどうぞ!!
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