とある少女の昔話



これはまだ、私が高校に通っていた頃の話です。
私自身は大して目立たない普通の学生だったのですが、私の通っていた学校には有名な2人組がいました。

1人は私の1年上の先輩で、赤みがかった髪をした明るい性格の人です。
でもいつもどこかに絆創膏を貼っていたり、包帯を巻いていたりしていたので、彼の周りにはあまり人がいませんでした。
……実を言うと、私はこの先輩のことが好きでした。

もう1人は私と同じクラスの優等生で、真っ黒な髪をした、いつも無表情でいる子です。
でもたまに見せる笑顔や気配り上手なところが良いと、密かに女子に人気の子でした。
でも私は、あまり彼のことが好きではありませんでした。

いつからかはもう覚えていませんが、先輩は休み時間でも授業中でも関係なく、廊下側の窓際に座っている彼を訪ねてきました。
四木ちゃん四木ちゃん、と言って彼を訪ねてくる先輩の顔はいつも満面の笑みで、私はその笑顔を向けてもらえる彼を羨ましがっていたものです。
当の彼は鋭い目をさらに鋭くして、赤林さん帰って下さい、と不機嫌そうに言っていましたけれど。
私はこの時初めて、先輩の名前が「赤林さん」だということを知りました。

校内で赤林さんを見かけるとき、たいてい彼は傍にいました。
いつも笑顔の赤林さんと、いつも不機嫌そうな彼。


どうせなら、あの笑顔を私に向けてくれればいいのに…


当時の私はそんなことも考えていました。
私は彼を羨ましがるのと同時に、妬みもしていたのです。

ある夏の日、毎日のように教室に来ていた赤林さんが来ませんでした。
1時限、2時限と時間が経つにつれ、私は気になって何度も廊下の方を見ていました。
彼は全く気にした様子もなく、黒板の字を目で追っていました。

結局授業が終わって赤林さんが現れることはなく、私は今日は休んだんだろうと思い、早く帰ろうと彼の横を通り抜けました。
きっと、だから聞こえたのでしょう。
まだ椅子に腰を下ろしていた彼が、廊下の方を見てぽつりと呟いた言葉が。


「なんだ…今日は来ないのか」


その言葉を聞いたとき、私は驚いて彼の方を振り返ってしまいました。
だってそうでしょう?
私は彼が、赤林さんのことを嫌っていると思っていましたから。
そのまま私が彼を見ていると、彼は私に気付いて、何か、と落ち着いた声で聞いてきたのです。
私はなんだか恥ずかしくなって、何も答えずに走って帰ってしまいました。

その翌日、私は偶然街で赤林さんと彼を見かけました。
赤林さんは頭や腕に包帯を巻いて困ったような笑顔で彼に話しかけていましたが、彼は後ろ姿だけで表情はわかりませんでした。
ただ、いつもは赤林さんを邪険に扱っている彼の手が、赤林さんの包帯を巻いた腕に添えられているのは見えました。


「四木ちゃん大好き!!」


何を話しているのかはわかりませんでしたが、赤林さんは一瞬呆気にとられたような顔をした後、大声でそう言って彼を抱き締めました。学校でもそういう光景は見られましたが、大人しく抱き締められている彼は初めて見ました。
その時の赤林さんの嬉しそうな顔といったら!!
子供のように顔をくしゃりとさせ、まるで自分はこの世で一番幸せだと思っているような笑顔でした。

その笑顔を見たときに私は気付きました。
ああ、私なんかが入る隙間なんてなかったんだな、って。
だって赤林さんは見るからに彼のことを思っていて、彼はとてもわかりにくいけれど、それでも赤林さんのことを思っていて…



翌日から赤林さんはやっぱり休み時間でも授業中でも関係なく、四木ちゃん四木ちゃんと言って彼を訪ね、彼は赤林さん帰って下さい、と不機嫌そうに言ういつも通りの光景が教室で見られました。

こうして私の初恋は、相手に告げられることなく終わったのです。

その後私は転校することになってしまったので、2人がどうなったのかは知りませんが、こうして結婚して、幸せになってみて、今頃どこで何をしているんだろうと、よく2人のことを思い出すのです。
…女のカンですが、今でも2人は一緒にいる気がします。



それでは、こんな昔話に付きあって下さってありがとうございました。


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