猫は気まぐれというが、全くもってその通りだ。
赤林は黙々と書類整理を行う四木を見ながら、ふとそんなことを思っていた。

最近は特に忙しかった。赤林が管理している店で他の組の人間が問題を起こし、その処理に追われ、それが済んだと思えば最近池袋で暴れている暴走族の鎮静を、若い者に顔が利くからと任され、かれこれ一ヶ月程、四木のいる事務所どころか自宅にすら帰っていなかった。
ようやく暇ができたので(とはいっても大量の書類がまだ残っているのだが)四木の事務所を訪れると、顔を合わせるなり「帰れ」と言われ、それから一言も言葉を交わしていない。


「旦那ぁ」
「……」


ソファに座っている四木の真横に座り至近距離で呼びかけるが、一向に反応しない。
いつも赤林が仕事をさぼって四木の事務所を訪れたり、べたべたと触ってくるときは邪険に扱うくせに、構われないと直ぐにすねる。
今回も一ヶ月間音沙汰なしだったことに臍を曲げているのだ。


「四木さぁん」
「……」
「ごめんねぇ、連絡できなくて」
「……」
「ほら、構ってあげる」


怒鳴るだけでもいいから声を聞けないだろうか、そう思い冗談半分で手を広げて言うと、今まで無反応だった四木が書類から顔を上げた。


「え」


思ってもみなかった反応に、赤林は一瞬動きを止める。
両手を広げた状態で停止する赤林を、四木は怒鳴るでもなく呆れるでもなく、無表情でじっと見つめている。


「え…と」


何かを待っているかのようにじっとしている四木の腕を、赤林が恐る恐る掴み、自身の方へと引き寄せると、思いのほか簡単に四木は赤林の腕の中に収まった。
四木の手に握られていた書類が床に落ち、ぱさりと乾いた音をたてる。


「やけに素直だねぇ旦那」
「…構ってくれるんでしょう?」


そうですねぇ、と呟き強く抱きしめると、満足したようにくすくすと笑う声がする。
見ために反して柔らかい質の髪に指を絡ませ、頭を撫でてやると、小動物のように擦り寄ってくる。
どうやら機嫌は直ったようだ。

こちらが構おうとすると反抗するくせに、構わなければ機嫌を悪くする。そのくせなかなか素直に構ってくれとは言わない。
滅多に素直にならない猫のような男だ、と赤林は思う。


(まぁ、猫みたいに可愛い…でもあるんだけどさ)


口に出せばまた不機嫌になるのが目に見えているので、赤林は四木の耳元に口を寄せ、違う言葉を囁いた。


「たぁくさん構ってあげますよ?」



だから機嫌を直して?
(腕の中の猫が、急かすように背に爪を立てた。)







扇様へ相互記念。
赤四木とのことでしたが四木さん全然話してないですねごめんなさいすいませんでした腹切ってきます。
扇様の四木さんが素敵ツンドラ様なのでデレさせてみたら誰おま状態。

こんなものでよろしければどうぞ!!
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